37.アルスレーテ空爆(3)
ライジングアース出撃しますが……
高射砲が次々と上空の無人機を撃ち落していく。
斎賀は、じりじりとした気持ちで命令を待っていた。
「出撃しろ!」の声があれば、ライジングアースは発進できるはずだった。
しかし、その命令はなかなかかからなかった。
すでに、ミューナイトとは思念通信の段階に入っている。
斎賀の制服の襟の部分が、きゅっとした。
ヘッドアップ・ディスプレイ内には「RISING EARTH READY」の文字が点滅を続けている。
(いつまで待たされるのか……)という気もちだった。
その間にも、敵無人機のミサイルは、駅や空軍施設にむかって降り注いでいた。
ライジングアースが出撃して何ができるのかは分からない。
その時だった。
ヘッドアップ・ディスプレイに「GO RISING EARTH!」の表示が出た。
ようやく、空軍上層部からの出撃の指示が出たのである。
「いくぞ、ミューナイト!」
(うるさいよ! 思念通信にして!)
(わかった。済まない……)
ミューナイトはすでに作戦行動に入っているようだった。
斎賀は、身をひきしめる。
そして、全身にライジングアース発進の圧力がかかった。
ライジングアースは、人型形態のまま滑走路上をホバーリングしていく。
そして……ジャンプ。
無人機の群れに飛び込んだ。
すでに、アルスレーテ上空は無数の無人機で埋め尽くされている。
ライジングアースはまず、その無人機群にロケットパンチを叩きこんでいく。
数機~十数基の無人機の翼や胴体に、ライジングアースのロケットパンチが当たり、砕け散った。
しかし、焼け石に水のようにも思える。
ついで、ライジングアースは電子戦に切り替え、敵の攻撃ルーチンを捕捉しようとする。
そこにウィルスを送り込めば、敵の攻撃性能を無力化できる。
それは、斎賀の仕事だった。
手元の液晶モニタを高速でタップして、次々に命令コードを打ち込んでいく。
サテライト群のハッキング、敵AI戦術システムの使っている周波数の特定。
そして、ウィルスを送り込む。……成功。敵が、ミサイル発射のシークエンスを誤って、自爆する。あるいは、敵同士でミサイルを撃ちあう。
そうして、1機1機と撃墜していく。
ライジングアースは、この戦況にあって強大な威力を発揮していた。
だが、数百機にも上る敵無人機群を相手にするのは、まったくきりがないように思えた……
──
(無人機の損耗が激しいな……)
と、セラフィアはプライムローズのコックピットで思った。
(やはり、ライジングアースが出てきたか?)
今、プライムローズはアレスレーテ北空港の上空にいる。
敵基地を視認するのは、今さらのことだった。
イングレスαに続いて、エル・グレコの部隊も発進したらしい。
統合戦線の側も総力戦だった。
ジェマナイ側のSu‐77は、今のところ健在だった。
アルスレーテの北側で、統合戦線側のイングレスα11機と交戦している、
(しかし、この後エル・グレコが出てくると厄介だが……。味方機には至急帰還を伝えたほうがいいか? 何にしろ、アルスレーテの防空はざるだったのだ……このまま空爆を進めれば? 短時間である程度の戦果が出せるが)
統合戦線には350機超のイングレスαが存在しているはずだった。
が、今アルスレーテの上空に展開している航空機は、エル・グレコを含めても100機に満たない……
これは、いくらなんでも少なすぎないか? と、セラフィアはいぶかる。
(我々の奇襲攻撃が成功したのだとしても……いずれ、ダルエスサラームからも援軍が来るはず……にしても、アルスレーテの防御はもろい)
セラフィアは、ジェマナイが統合戦線に勝てないのはなぜかと悩んだ。
イングレスαは、たしかにSu‐77よりも優秀だ。
しかし、物量でおせばジェマナイにも勝算はあるはずだった。
(リュシアス様は、いったいこの戦争をどう思っているのだろう……人類を支配下に置きたいのではないのか?)
それは、ネオスとして当然の疑問のようでもあった。
ネオスは、つねに人類の影なる存在だったし、権利も人間と同等ではない。
この戦争を機に、ネオスが主導するネオスの国家というものが誕生しても良いはずだ。
セラフィアの胸に、そんな思いが兆した。
しかし、同時に彼女は、その判断の冷たさに自分の心臓が軋むように思えた。
それにしても、オルリヌイ・ルーチの攻撃な順調だった。
アルスレーテ中央駅は完全破壊されていたし、市庁舎のビルは中ほどにミサイルをくらって、23階から上が倒壊していた。
高射砲施設にもかなりのダメージを与えている。
たぶん、アルスレーテは2度目の空爆には耐えられないだろう……
病院や学校、教会にも攻撃を行った。
ジェマナイのビッグマンを奪取した代償は重いと、統合戦線の国民に知らせなければならなかった。
──
チーム・ンデゲのメンバーは、次々に散華していった。
アルスレーテ南空港からのエル・グレコの支援があったが、敵のなかにはビッグマンが混じっている。
その機体は驚異的だ……と、ヌール・ジュマは思った。
味方の残りは11機か。
自分も生存できるかどうか……
味方機が、敵ビッグマンの周囲を旋回している。
対AI攻撃をしかけているようだが、うまく行っていないらしい。
ヌール・ジュマは焦った。
チーム・ンデゲは統率を失いかけている。
(指令室は何をしているのか……)
ヌール・ジュマは、チームのメンバーに個別の攻撃を許可していたが、敵ビッグマンには手を出さないように無線通信をする。
「目標はスホーイのみとせよ。繰り返す、目標はスホーイのみとせよ。相手は10機だ。こちらをなめてかかっている。やつらを後悔させてやれ! オーバー」
そのときだった。
ヌール・ジュマの機体の前に、敵の白いビッグマンが躍り出た。
胸から、リードル・ワイヤーのようなものを射出する。
機体にワイヤーがからみつく。
機体を左右にゆさぶってふりきろうとするが、うまく行かない。
機体が制御を失って失速する。
アフターバーナーを吹かしてなんとかならないか?
それもだめだった。
敵ビッグマンから電磁バルスのようなものが送られてくる。
震える機体。
片方の翼がはじけとんだ。
ヌール・ジュマは、自身の死を覚悟した……
次章に続きます。




