35.アルスレーテ空爆(1)
ジェマナイがついに攻撃をしかけてきます。
最初の報告はマダガスカルからだった。
スクランブルで出たイングレスα2機が機能停止に陥り、基地に帰還した、との報告があった。
詳細は分かっていない。
しかし、当該のイングレスαは武器系統およびAI戦術システムに支障を来して、帰還せざるを得なくなった。
マダガスカル基地はパニックに陥った。
状況がはっきりしない限り、後続のイングレスαを発進させるわけにはいかない。
今、マダガスカルの上空は快晴だった。
航空機にとっては、絶好の発進条件だった。
にもかかわらず……マダガスカル基地はためらった。
それが、最大の失敗だった。
そこで応戦していれば──ということを、のちの統合戦線首脳部は思った。
すくなくとも、首都に数十万の犠牲者を出すことはなかったろう……
イングレスαが帰還した直後に、数百機の無人機がマダガスカルの上空を通過したのを確認したのである。
──
「やはり出ます……」
そう、セラフィアはリュシアスに告げた。
リュシアスは顔をしかめている。
南極基地からオルリヌイ・ルーチが発進した24時間前のことだ……
「お前が出て、どうなるということもあるまい」
リュシアスは、作戦室の机をとんとんと叩いた。
目の前に、セラフィアが立っている。
「ですが、敵の力を知っておきたく思います」
セラフィアは、そう告げた。
ヴォルガ二将を退けた敵──というものの正体を見極めたかった。
自分にも太刀打ちできるものなのか……
「お前がそう言うなら、出撃を許可する。プライムローズを使え」
プライムローズとは、白色の美しいビッグマンだった。
トムスクに配備が予定されていた機体である。
「第3.5世代のビッグマンですか?」
セラフィアは驚いて尋ねる。
しかし、リュシアスの答えは予想外のものだった。
「そうだ。お前用に調整してあった。出撃に問題はあるまい」
「では、地ならしということもありますね」
セラフィアが、軽く息を吐く。
リュシアスはうなずいた。
「油断するな。あれで、統合戦線のイングレス部隊は手ごわい。今回は無人機群の護衛だが……」
「分かっております。出過ぎた真似はしません」
「そうだ。お前は敵ビッグマン……NNN‐3の警戒をしろ」
「承知しました」
セラフィアは、リュシアスに向かって敬礼した。
リュシアス、ヴォルガ、セラフィアの三将は、ジェマナイのなかでも特別な存在だとは言え、セラフィアにとってリュシアスは二階級上の上官である。
姉のように慕っているとは言え、無礼は許されない。
仮面の下で、リュシアスの表情は分からなかったが、彼女が自分を気遣っているということは、セラフィアにとっては痛いほどわかった。
出撃する──統合戦線に。
無人機群は南極から発進する。つまり、南から。
セラフィアは、北からアルスレーテに攻撃をしかけるわけだった。
ビッグマンの航行スピードおよび航続距離を思えば、作戦に問題はない。
むしろ、北と南からアルスレーテを挟撃することで、統合戦線側には隙が生まれるはずだった。
「Su‐77の護衛はいらないか?」
と、リュシアスは尋ねる。
「……であれば、10機を」
セラフィアはそう言って、下がった。
これからすぐさま、インド洋に展開している空母との協働作戦を考えなければならなかった。
──
アルスレーテでは、けたたましく警報が鳴り響いていた。
南からだけではなく、ケニア上空にも敵が現れたという。
しかも、そのうちの1機はビッグマンらしい。
ボワテ大佐がチーム・アマリに緊急招集をかける。
とともに、チーム・ンデゲも呼び出した。
アルスレーテに配属されているイングレスαには、全機スクランブルをかける必要がある。
シエスタは緊張した。
2週間ぶりの実戦である。
訓練はほぼ毎日していたが、敵ビッグマンが再び出てきたとなると、厄介だ。
しかも、今回は首都が攻撃されようとしている……
ジェマナイにしても思い切った作戦を──と、シエスタは思うのだった。
30秒で与圧服に着替えると、格納庫へ向かった。
今この時、ミューナイトと斎賀もライジングアースに向かって駆けているはずだった。
(再び会うのは作戦地点でだな)
と、シエスタは思った。
(わたしが彼らを援護するか、あるいは彼らがわたしを援護するか……)
──
そのころ……
コックピットで斎賀はつぶやいていた。
「こんなことになるとは思っていたが、早いと言えば良いのか、遅いと言えば良いのか」
その気分は、ミューナイトにも伝わったらしかった。
「サイガ。作戦前に余計なことは考えないほうがいい。ただ生き残ることだけを考えよう」
「分かっているよ!」
──
アルスレーテ北空港から、イングレスα31機が飛び立った。
戦場はここ、統合戦線の首都である。
標的はバグダッド、あるいはワルシャワだと思われていたが、その見通しは甘かった。
軍上層部でも、最悪のシナリオを考えていなかったわけではあるまい。
しかし、マダガスカルからの報告によると、敵無人機の数は100を超えるということだった。
もう50分かからずに、敵はアルスレーテに到着するだろう。
──
セラフィアはケニアとタンザニアの国境に到着すると、インド洋から発艦したスホーイ10機と合流した。
そのまま、アルスレーテへと向かう。
(敵のイングレスαは20機はいるだろう……自分はそのうちの何機を相手にすれば良いのか……)
ビッグマン「プライムローズ」の調子は悪くなかった。
これが彼女にとっては初飛行だが、十分に慣熟飛行は行った。
24時間、という短期間ではあったが、今まで数機のビッグマンに搭乗してきた彼女にとっては、十分な時間だった。
「飛行形態だと、若干機体が重く感じられるな……」
つぶやいた。
味方のスホーイからの通信が入ってくる。
「セラフィア三将……まもなく首都アルスレーテです。予定では3分」
「了解した。そちらの数は少ない。先行しすぎないように気をつけよ。無人機の露払いをするだけで良い」
「分かりました。ご武運を」
通信が切れた。いよいよ実戦だった。
ライジングアースの出撃はまだ先です。じらせてごめん!




