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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第二部

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29/96

29.シエスタと斎賀(1)

再び日常回。シエスタに焦点をあてます。

 辞令がくだり、斎賀は正式に統合軍空軍の所属となった。

 それまでは、情報軍から空軍への出向という形をとっていたが、これはジェマナイがいつ攻撃をしかけてくるか分からない、という状況ではしかたのないことだった。

 空軍に異動になってから3日目に、斎賀は休暇を取得した。

 これは「今のうちに休んでおこう」ということで、上からの許可もなんなく下りた。

(やつら、これからは俺をこき使うつもりなんだよな? もう、休みはないかもな?)

 斎賀は、新たに移ってきた空軍の宿舎で荷物を整理しながら、そんなことを考えていた……。


 そんなところに、ひょんなことでシエスタが顔を出す。

 いや、これは彼女にしてみれば「ひょんなこと」ではなかった。

 シエスタは斎賀が休暇を取ると聞き、同じ日に休暇を申請したのである。

 この臨戦態勢で、兵士が休暇を取ることは簡単ではない。

 ミューナイトが最初に、ついで斎賀とシエスタが休暇を取ったことになる。

 斎賀については、空軍への異動手続きが順調に進んでから、ということになった。


「おはようシンイチ!」

 と、シエスタは声をかけた。

 斎賀は、荷物を整理する手を止めて、彼女に答える。

「なんだ、そのシンイチって? サイガじゃなかったのか?」

 斎賀は、手にもっていたパンフレットをパタパタと振った。

「なんだよ。日本人はファミリーネームで呼ばないといけない決まりでもあるのか? シンイチで良いじゃないか?」

「なんだか、親しすぎる気がするんだ」

 斎賀は不満を言う。

「軍隊だぜ? みんなファースト・ネームで呼ぶ。サイガは、そんなに日本気分が抜けていないの?」

 シエスタは、まっすぐにこちらを見つめてくる。

 斎賀は、その視線がどこかまぶしいようにも思えた。

「そんなことはないが……」

「日本から亡命してきて、何年になる?」

「5年、いや6年か……」

 大学を卒業してすぐ、進路を決めるのと同時に、斎賀は統合戦線アフリカ機構に亡命してきた。

 そのころは、まだ日本はジェマナイの管理下にはなっていなかった。

 あちこちで戦線が激化していたが……斎賀は、故郷を見捨ててきた、と言うこともできる。今、日本の状況は分からない。

 シエスタは、すこし斎賀を気遣うような視線を見せた。

「ずいぶん出世が早いな?」

「技官コースだったからな。人手が不足していた」

「謙遜だろう?」

「謙遜だ。実際は、俺が優秀だった。……いや、こんな冗談を言う性格じゃないんだぜ、俺は?」

 斎賀は、ほがらかに冗談を言う。

「分かってる」

「お前のせいだ」

 言って、斎賀は笑った。


「休みなんだろう? いっしょにどこかへ行かないか? わたしも休みを取った」

 シエスタが、なにか思惑ありげに言う。

「それはそれは。俺にご執心?」

 と、斎賀。

「お前、そんなにモテるやつでもないだろう? サイガ! あっはは!」

 シエスタは腹をかかえて笑った。

 斎賀は、多少むっとする。でも……悪い気分ではなかった。

 こういう冗談を言い合える相手がいると、目の前にある恐ろしい戦争というものが、耐え難いものではないように感じられる。


「で、どこへ行くんだ?」

「アルスレーテの街で一番うまい日本料理のレストランがある。そこへ行こう」

「了解。それで決まった」

 それは、大人と大人との会話だった。

 ミューナイトと話すのとは違う安心感を、斎賀は感じた。

 そう感じたところで、ふたたび(ミューナイトは本当に子供なのか?)という思いが、脳裏をかすめた。

 しかし、それを今考えたところで仕方がなかった。

 たぶん、シエスタは今後の作戦のことを話すのだろう。

 ライジングアースがどう動いたら、自分はどう動く……そんな話をしてくるに違いなかった。

 そんな話はミューナイトに言ったほうが早い、と斎賀は思ったが、シエスタの気もちもなんとなく分かるのだった。


(シエスタもまた、ネオスを警戒しているのだろうか……?)


「そうと決まったら、早く準備してくれよ? サイガ?」

「わかった、わかった」

 斎賀は、あわてて手にもっていたパンフレットや資料を片付けた。


 ──


 アルスレーテの空軍基地の目の前には、地下鉄の駅がある。

 その名も「空軍前」……安直な名前だ。

 その駅名を見るたびに、斎賀は噴き出しそうになる。

 しかし、シエスタはうきうきとした表情で駅構内へと降りていった。

 ジーンズのお尻がセクシーだ。ただ、トップスは女性らしい薄手のものを着ている。

「亡霊女神」というあだ名が、一瞬不釣り合いなようにも思ったが、しかし日本には「雪女」というお化けもいる。

 ……そう考えると、斎賀は妙に納得するのだった。


「シエスタは、アフリカにやってきたのはいつなんだ?」

 移動する地下鉄のなかで、斎賀はシエスタに尋ねた。

「うん? ジェマナイとの戦争が始まる前だよ? もとはフランスに住んでいた。両親がもともと北アフリカの出身なんだ」

「そっか、白系アフリカ人というわけだな?」

「そう。アルジェリアだ。フランスとはさんざんもめた国。両親も、なにかフランスに住んで違和感があったのかもしれない」

 シエスタが、顎に指をあてる。

「それで、アフリカに舞い戻り?」

「いや……そうでもないんだ」

 と、シエスタは口ごもった。

 そこには、何か複雑な事情がありそうだった。

 数分間黙りあう間、斎賀はそのことを考え続けた。

 シエスタは話さなかった。

 斎賀も、それ以上聞くことは控えた。

 ジェマナイとの戦争がなくても、人類同士で膨大な戦争の歴史を重ねてきた。

 だから、今この状況が特別なわけではない。

 過去には、50年、100年と戦争を続けた過去もある。

 そこで第三世界だったアフリカが、現在のもっとも進んだ地域であるというのは、歴史の皮肉でもあり真実でもあった。


 20分ほど電車に揺られたところで、

「ここで降りるよ?」

 と、シエスタが言った。

 そこは、グリーンロードという街区にある駅だった。

「ずいぶん乗ったな?」

「まあ、アルスレーテの地下鉄は足が遅いから」

 シエスタは、フランスに住んでいた子供のころ、RER(イル・ド・フランス地域圏急行)によく乗っていたから、アルスレーテの地下鉄はやや速度が遅く感じられるらしかった。

 そんなたわいもない話をしながら、斎賀とシエスタとはアルスレーテの繁華街へと階段を上がっていった……

斎賀の「らしさ」もやっと出てきましたね。次章に続きます。

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