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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第二部

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27/96

27.疑惑の午後

いろいろと謎のあるマリア・オリヴェテ。

「そう? そんな年で公務員ができるの?」

 と、マリア・オリヴェテは尋ねた。

 本当に驚いた、という調子である。

 ネオスであることがバレたか……と、ミューナイトは焦った。

 巷にも、ネオス嫌いの人間が大勢いることを、ミューナイトはよく知っている。

「実は……特別な仕事なんです。映画の……子役のようなものだと思ってください」

 と、しどろもどろの説明をする。

「そう。そんな仕事があるのね?」

 と、婦人は納得したようだった。

 ミューナイトは、ほっと胸をなでおろす。


 マリアは、胸に抱いていたライカランのぬいぐるみをそっと日に透かすように持ち上げた。

 そうして、ミューナイトのぬいぐるみと比べて見ている。

「うーん。なんでしょう、この子は、あなたのライカランと、なんだか恋人同士のような顔をしているわね? それとも……友達かしら?」

「え?! そう言えば……」

 ミューナイトは、自分のぬいぐるみをまじまじと見つめる。

 ……彼女のぬいぐるみは男の子のような、マリアのぬいぐるみは女の子のような顔立ちをしていた。友達同士かもしれない。

「そんなこともあるのかもしれませんね?」

 と、ミューナイトは笑う。


「そうだわ。あなた、わたしの店に来ないかしら? わたしね、隠れ家喫茶を経営しているの。よかったら、ごちそうするわ?」

「いいんですか? でもなぜ?」

 ミューナイトは尋ねる。

 今まで、初対面の人間からそんな誘いは受けたことはなかった。

「なぜって? 気まぐれよ。あなた、食事に誘われたことはないの?」

「ありますけれど……知らない人からは」

「なに言っているの。もうわたしたちは知り合いでしょう? 同じライカランのぬいぐるみも買ったことだし」

「そういうものでしょうか?」

「そういうものよ。それに、そんなに若いのに働いているあなたを見ていたら、応援したくなっちゃったのよ」

 と言って、婦人は笑った。屈託のない笑顔だった。


 ──


 マリア・オリヴェテの喫茶店は、アルスレーテの北の外れにあった。

 マリアンヌの店からすぐ近くにあるのかと思いきや、路面電車にのって4駅ほど行かなくてはならなかった。

 時刻は、もう午後1時をすぎている。

 ミューナイトは空腹を感じた。


 マリアはカウンターのうえにライカランを置いて、忙しく働き始める。


 その喫茶店は、蔦におおわれた外観で、石段を数段上っていったところに入口がある。

 入口は木製で、真ん中に丸い形の窓が開いている。

 筆記体の文字で、ペンキで「ぶどうの生る季節」と書かれていた。

 いかにも手作り、といった雰囲気で、いくつかの小物や装飾は、業者に依頼したのではなく、マリア自身が作ったものと思われた。

 店の入り口に、首をかしげたクマのぬいぐるみが置かれている。


「亡くなった主人が家具を作るのが趣味でね? ……ここにある椅子やなんかは、主人が作ったものもある。全部が全部ではないけれど」

「ご主人、手が器用だったんですね?」

 ミューナイトは感嘆したように言う。

「そうでもないのよ。ぶきっちょで、よく釘を折ったりしていたわ。まあ、下手の横好きというかね……」

 マリアは照れて笑った。

「マリアさんは、ずっと喫茶店を?」

「いいえ。結婚する前と、子育てを終えたあとも教師をしていたわ。でも、あるときに労働争議があってね? それで、辞めてしまったの」

 マリアが悲しそうに言う──。

「そうだったんですか」

 意外な過去の話を聞いたような気がして、ミューナイトはうなずいた。


「どうも、わたしとあなたとは年が離れているけれど、良い友人になれそうな気がするの……」

 マリアが言う。

「わたしもそう思います!」

 ミューナイトは同意した。

「じゃあ、今日はわたしのおごりだけれど、次回からはあなたが払うのよ?」

 と、マリア。

「それは、もちろんです!」

 ミューナイトは、自分はもう大人なのだから、マリアに毎回おごってもらう理由はない、と思った。

 きちんとした収入も得ているし、それに今知り合ったばかりのマリアに、そんな出費を押し付ける理由もなかった。

 今回も、ミューナイトは支払いをするつもりだったのだが……

 そのことを伝えると、マリアは固辞した。

「さっきも言ったでしょう? あなたとわたしとはもう友人。まあ、友人だからと言って、お金のことをなあなあにはしないけれど、今日は特別よ。せっかく知り合えたんだから、そのお祝いということで」

 マリアの瞳が、室内の光を反射して一瞬だけ揺れたようだったが、ミューナイトは気づかなかった。

 ……いや、気づかないふりをした。

 どうも、自分は人を疑る癖がつきすぎている、とミューナイトは思うのだった。


「マリアさん、これ?」

 と、ミューナイトはカウンターの上に置かれている冊子に目を止めて、尋ねる。

「あ、それ? 『自由の木』っていう、ボランティア・グループの発行している機関紙よ? 読んでみる?」

「いいえ、わたしは難しいことは……どんな組織なんです?」

「民間の、そう、匿名のグループね。みんなが自分の名前を言わずに、カンファレンスなんかを開いているの」

「そうなんですか。なんだか、面白そう」

 ミューナイトは興味を示す。

「良かったら、あなたも今度参加してみない? いろいろと議論出来て楽しいのよ?」

「議論」という言葉になにか引っ掛かりを感じたが、ミューナイトはそれ以上を尋ねなかった。

「ありがとうございます。でも、どうかな。仕事の休みの日じゃないと……」

「その冊子を持ち帰っていいから、じっくり考えておいてちょうだい?」

「わかりました」

 そう言って、ミューナイトは冊子をトートバッグのなかにしまう。

 それは本当に、なんということもない気もちでだった。

 しかし、マリア・オリヴェテの表情は違っていた……


 ──


 マリアの作ってくれたパイ・シチューは美味しかった。

 ミューナイトは驚いて言う。

「もう、何年くらい喫茶店を開いているんですか?」

「さあ。10年くらいかしら……もう、ずっと前からのことなので、忘れちゃったわ」

 と、マリアは笑った。よく笑う……不自然なほどに、とミューナイトはふと思った。

 そして、恥じた。

 今、自分は戦闘員ではない。これは任務ではなかった。

 友人との初対面の……会合だった。だから、自分も心を開く必要がある。

「お金、やっぱり払います」

 ──親しき中にも礼儀あり、ということを思いながら、ミューナイトは財布を取り出す。

「そう? 悪いわね……」

 と、今度はマリアも拒絶しなかった。

 5ドル。

 安いと、ミューナイトは思った。

 それで、心はなぜかすがすがしいのだった……。

「ありがとう。また来てね、ミューナイト・アレクト!」

「はい。必ず!」

 そう答えたときに、マリア・オリヴェテが「他人」のような顔をするのを、ミューナイトは見逃したわけではなかった。

まだしばらくは「平和」な時間が続きます。

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