表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/96

21.長い一日

また新しい人出てきます。

 斎賀は、一日中職務と任務に振り回されていた。

 休憩室でのつかの間の小休止を終えると、まっすぐに科学士官室へと向かう。

 統合軍でAI研究を担当している、エレーヌ・ムバラという科学士官に会わなくてはいけない。


『今後のミューナイトとのパートナーシップのことだ』と言うのだが、なんのことだか分からない。


「斎賀真一、入ります」

 と、斎賀はドアの前で告げた。

 敬礼をしながらの入室だった。

 斎賀は、情報軍技術工作部中尉。相手は、科学軍総合戦略部大尉である……。


「あなたがサイガ? ミューナイトの新しいパートナーね?」

 まず、部屋の中央に立っている長身の女性士官が目に入った。

 斎賀は苦笑する。

「わたしはパートナーになったわけでは……それに、辞令もまだ正式には降りていない」

「でも、一週間後にはミューナイトと組むことになるんでしょう?」

「そのようです」

 やれやれ、というように斎賀は答えた。

 科学部大尉の瞳は、眼鏡の奥で笑っていない。

 ポニーテールにしている後ろ髪が、やや若作りのように斎賀には感じられた。


(雨夜の品定めでもないか……)


「あなたは大尉でしたね? こんな感じで大丈夫でしょうか?」

 一日中動き回ってくたくただ。服装はやや乱れている。斎賀は自分の体を見回して、体裁を気にした。そして、話し方も……

 相手は上官である。

「エレーヌ・ムバラよ。かしこまらなくて大丈夫。あなたのことは中尉と読んだほうがいい? それとも、サイガ?」

「どちらでも。わたしのほうが階級が下です」

「そうだったわね。では、サイガ……」

 エレーヌは椅子を引いて着席しつつ、斎賀にも席を勧めた。


 エレーヌは、机のうえのパソコンに向かい、いくつかのデータを引き出した。

 パソコンを斎賀にも見えるように傾ける。

 何かの折れ線グラフのようだが、よく見えない。


「よく見えませんが?」

「そうね。ごめん、こちらに映すわ」

 と言って、エレーヌは30インチほどあるモニタをノート・パソコンに接続した。

 画面に、グラフや表が表示されている。

「HUMAN FUNCTION」という文字が表示されているが、それ以外の単語は理解できない。


「これは、さっきライジングアースから取った──ライジングアースでいいのよね? あの機体のコードネーム?」

「ミューナイトがそう名付けました」

「名前をつけないと動かないらしい、とミューナイトから聞いたわ」

「はあ」

「それ自体は珍しいことじゃない。AIの自我認識サブルーチンがメインコアと接続されているのね。毎回。『自分は何者なんだ』と考えているわけ」

「AIに人格ですか……」

「わたしは『人格』とは呼んでいない。『個性』ね。AIのコギト。それで……」

 エレーヌがノートPCを操作する。


 30インチのモニタにグラフがアップになった。

「これは、ミューナイトが『人間関数』と呼んだものをグラフ化したものなの」

「わたしのヘッドアップ・ディスプレイにも数値が表示されました。たしか、最後は71%……」

「それは最後じゃないわ。人間関数は常に再計算されている」

 エレーヌは、もどかしいというように、ため息をしながら言った。

「それが何か?」

「どうやら、ライジングアースはあなたたちの心理状態をスキャンしているようなの」

「半日でよくそこまでわかりましたね?」

 斎賀は、半ば呆れて言った。


 統合軍の科学部は優秀だ。しかし、未知の兵器にたいして……

 斎賀は、なんの意味なのか分からないモニタ画面の表示に見入った。

 それを眺めていれば、なにかの答えが得られるとでも言うように。


「あなたの報告とライジングアースの起動レコーダを比較すると、あなたたちが2体の敵を無力化したときに、人間関数が最大値になっている。でも、その後はずっと下降を続けているわ。あなた、このことになにか心当たりがない?」

 エレーヌは、眼鏡を押し上げながら斎賀に尋ねた。

 どうやら、どんな情報でもほしいと言いたげだ。

 しかし……

「思い当たることと言っても……」「

 斎賀には答えの出しようがない。

 しかし、なんとか答えを絞り出した。

「ミューナイトが、『殺すつもりじゃなかった』と言ったんです」


「それは敵を倒した後?」

「敵が自殺した後です」

「その報告も受けている。悲劇的な最期だったわね」

 エレーヌの表情がややくもった。

「本当に」

 斎賀はそれしか言わなかった。

 今この場で、戦闘における非情さを言っても仕方がない。


 エレーヌは、紙にプリントアウトしてある別のデータに目をやった。

 それから、

「ミューナイトは、もう戦いたくないと言っているわ」

「それも知っています」

 斎賀は、さきほどのミューナイトと空軍大佐との会話を思い出した。

「せっかく奪取してきた敵のロボが、パイロットがいないとなるとどうにも使えない」

 エレーヌが首を振る。

「それは別のパイロットを用意すればいいでしょう? わたしの代わりも……」

「そうはいかない」

 エレーヌは、手にもっていたボールペンをかたりと机のうえに置いた。

 なにかのサインだ──と、斎賀は思った。


 エレーヌが話し始める。

「あの後……ライジングアースの帰還後、何人かのコパイロットとパイロットのネオスを搭乗させて、ライジングアースの反応を見た。機体に別の名前を与えてもみた。でも、人間関数は44%以上には上がらなかった」

「ということは?」

「あなたたちが乗ったときの人間関数の数値は、とびぬけていた。他のパイロットの平均は31%よ……」

「どういうことでしょうか?」

 いらだたしげに斎賀が尋ねる。

 エレーヌが何を言うのかは想像がついた。

 それは、斎賀にとっては避けたい答えだった。


(俺は……AIを許せない)

 と、斎賀は心の奥底で思った。ミューナイトには明かさなかったが……

 あのときも。


 大方の予想はつく。

 人間関数とは、ライジングアースが計測する、パイロットとコパイロットのコミュニケーション能力を測ったものだ。

 そして、その数値によって、ライジングアースはきっと挙動が変化する。あるいは性能も。

 技術工作士官としての斎賀の経験と勘が、彼にそう教えていた。


(あの時。俺はミューナイトとのコミュニケーションを最大化しようと図った。たぶん、それが表れたのだろう。今は、それしか考えられない)


「あのガイニーは……」

「あのガイニー??」

 エレーヌが「ザット・ガイニー(That gynny)」と言うのを、斎賀は聞きとがめた。

「ガイニー」というのは、ガイノイドに対する愛称、または蔑称である。「She is...」の代わりに使う。


 斎賀は立ち上がって、椅子を蹴る。

 椅子から外れたキャスターが、からんとエレーヌの前に転がった。

 エレーヌは、その振る舞いに驚いた。


「ミューナイトのことを、ガイニーと呼ぶな! あいつはガイノイドだ!」

 その怒りがどんな感情から来ているのか、斎賀自身にも測りかねた。

 ただ、いらいらとして、斎賀は床に視線を落とした。


(俺がガイノイドのパートナーだと!? 冗談じゃない。これ一度きりだ!)

斎賀も単純な主人公じゃないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ