表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/97

2.モスクワ潜入

いよいよ主人公二人の登場です。しばらくこの二人の視点で動きます。

 監察車の車輪が震え、エンジンの音が斎賀真一の腹に響いた。

 モスクワは一面の廃墟である……


 ただクレムリンだけを残して、モスクワは砂の平原となっている。ジェマナイの粒子気化爆弾によって攻撃された跡地だ。赤の広場を中心として、半径10キロ以内の土地が、砂漠と化した。今から13年前のことだ。


 監察車を降りた斎賀は、どこかに人間のにおいのするものはないかと、あたりを見まわした。

 しかし、ところどころで地面から顔を出している排水管のほかには、「生きた」ものは見つかりそうにもなかった。


 斎賀は、思わず自分の手の匂いを嗅ぐ。

 人間のにおいだ。ネオスのそれとは違う……


 と、その傍らにひとりの少女が降り立った。

 少女……? なのだろうか?

 その肌は透き通って、まるで植物をおもわせる光沢を宿している。

「サイガ?」

 と、少女は言う。


「お前はまだ監察車に乗っていろ? 輸送機が合流するまでには、だいぶ時間がある」

「わたし……ミューナイトっていう名前を、ここに刻みたいの」

「おかしなことを考える奴だな? ロシアが復興しても、もうモスクワに人は戻らない……」


 そう言って、斎賀は足元にある平らなコンクリートの瓦礫を拾い上げた。

 ためらいながらも、それを少女に差し出す。


 少女の名前は、ミューナイト。

 統合戦線アフリカ機構の統合軍二曹である。

 人間ではなく、遺伝子レベルで生成された新生人類ネオスの少女で、実年齢は15歳。

 しかし、外見は人間相当で16歳ほどと若い……

 本当であれば、20歳程度に見えていても良いはずなのだ。


 ミューナイトは、手をいちどこすり合わせた後、斎賀から瓦礫を受け取った。

 そこに、手にもっていたドライバーで文字を書きつけていく。

「M・U・E・N・I・T・E」


「気は済んだか?」

 斎賀は髪をかき上げる。


 少女──ミューナイトは、うつろな眼差しでそれを見つめていた。


 ……ネオスにはよくあることだ。

 AI脳は、何かを分析しようとすると、一定期間フリーズしたような状態におちいる。

 しかし、それは回路が急速に稼働している証であり、超高速度の演算をAIで行っている。

 斎賀は、(俺は今、ミューに分析されているのか……)と、心のなかで思った。


 そんな不安が伝わったように、ミューナイトもふと、その虚ろな表情を止める。

 そして、上空に目をやった。

 そこには、統合戦線が設立される前、人類とジェマナイとの戦争が始まる以前からある、サテライト群がある。


 サテライト群とは、衛星軌道上にある、独立AIネットワークのことだ。

 28年前から設置されている。

 当初は、マザー・セントラルという集合知ネットワークを補完する目的で作られたが、現在では独立稼働したAIネットの一つとなっている。

 地上の詳細な観察をすることができ、都市にいるネズミレベルの存在を感知できる。

 しかし、それらはデータとしてはどこにも流されずに、ただ情報の海を漂っている。

 ミューナイトはいわば、その情報システムをハッキングしているわけだ……


 ミューナイトの瞳が「何か」をとらえた。


「ミュー、なにか分かったのか? お前の勘は鋭い。小型輸送機のノクティルカが到着するまえに、お前の情報分析を聞いておきたい」

「サイガ? あなたは……信じるということを、どう思う?」

 ミューナイトがぽつりとつぶやく。


「おかしなことを言うやつだな? 信じる? どういうことだ? ノクティルカの到着を信じるっていうことか?」

「そうじゃないの。信じる、ということの本質を知りたい」

 そういうミューナイトに、斎賀はいらいらとしながらも静かな言葉を返す。

「今はそんな時間じゃないが……信じるということは、考えるということをやめたときに残るものだ」

 斎賀は不器用に言葉をつむいでいく。


「なんだか哲学的……。たしかに、作戦前に話すことではないようね?」

「当たり前だ!」

「でも……じゃあ、わたしはまだ『信じる』ということができていないのね? だって、まだAI脳で演算しているのだから……」

「演算、とか言うな。お前は考えている、それだけでいい」

「了解……」


 ミューナイトはしばらくの間だまった。斎賀の言うことはもちろんよく分かる。今は、考え事に没頭している時間じゃない。

 しかし、自分のネオスとしての勘は、そこにただならないものが迫っていることも、予感している。

 (そのことをどうしても斎賀に伝えたい……)と、ミューナイトは思うのだった。


「でも、信じられないものを……信じてみたいの」

「なんだ、それは? 今は集中しろ。ノクティルカが来ることを信じるんだ」

「了解。わかった。雑談はもうしないことにする」

「分かってくれて、うれしいよ」

 斎賀は、ほっと息をついた。


 ミューナイトと接していると、ときどきこのガイノイドがネオスなのか、人間なのかわからなくなる時がある。

 ネオスとは本来、人間の召使サーバントとして作られている。

 人間が命じればなんでもこなすし、それを失敗することもごく稀だ。

 つまりは、人間にとっての便利な道具なのだが、斎賀はそのことが信じられない。

 ミューナイトを見ていると、ネオスには人間と同じような魂が宿っているのではないか、と疑ってしまう。

 それは、敵側の子ルーチンについても同じことだ。

 彼らは、戦いも、戦死も、厭わない。

 戦場では強力な武器だ。

 しかし、それだけではない、と思わされることがある。実際あのとき……


 斎賀は記憶の奥のほうを探った。

 それは、苦々しい思い出だった。思い出したくもない。


「ちぇっ」

 と、斎賀は舌打ちをする。

 それをミューナイトが見とがめて、首をかしげる。その仕種は……


 いや、もうすぐ輸送機のノクティルカが到着する。

 しかし、ここへやってくるのはそれだけではない、ということもミューナイトは感知していた。


ネオスというのはアンドロイドとガイノイドのこと。子ルーチンとはジェマナイ側のネオスのことです。今後の物語では、人間・ネオス(子ルーチン)・AIの関係性がカギになってきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ