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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第一部

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19/95

19.トムスクの指令室

ジェマナイ視点です。いよいよ政治的にも動き出します。

「リュシアス一将……、ムルマンスクで動きがありました」

 トムスクの指令室E‐35にふたたびセラフィアが入った。

 リュシアスはさきほどと同じく、立ったままでこちらを振り返った。

 さっきと違うのは、負傷したヴォルガが同席している。

 彼は、ぎょろつく目でリュシアスとセラフィアを見つめていた。

 腹になにかある……と、セラフィアは思った。


「ネズミをとらえたか?」

 リュシアスが仮面をつけたまま振り向く。

 ヴォルガは黙ったままだ。


「いいえ……戦闘が起こり、ビッグマン3体のうち、2体が破損。もう1体も活動停止しました」

 それに加えて、言いにくいことを言う。

「NNN‐3は、敵に奪取されました」

 すこし、セラフィアの声は震えている。やはり、ネオスとしては珍しい動揺ぶりだ。

 リュシアスは、すこし(不思議だな?)と思った。

 セラフィアが変わり者であるのは、今に始まったことではなかったが……


「マリアという子ルーチンはどうした?」

「敵と通じていたらしく、処理済みです」

「そうか……」

 考え深げに、リュシアスがうなずく。


 リュシアスは淡々と事務的に聞く。

「こちらのパイロットは死んだのか?」

「1人は」

「戦死か?」

「どうもそうでもないようなのです。状況が不可解で……」

 セラフィアは説明に悩んだ。

 セラフィアもNNN‐3についての事前説明は受けていた。

 しかし、報告チャットではNNN‐3が予期しない攻撃をしかけてきた、とある。


「NNN‐3は、敵に奪取された後、こちらの3体のビッグマンと戦闘状態になりました」

 今度は、セラフィアもなんとか事務的な口調で話す。

「それで?」

 リュシアスが先を促す。

「アコーディオがまず破損。それから、ペトリューシカが完全破壊されました」

「そうか。敵は手練れだったのだな?」

「そのようです」

「で、何が不審だ?」

「分かりますか?」

 セラフィアがふたたび言葉を言いよどんだ。


「NNN‐3が予期しない攻撃を加えてきました」

 と、セラフィア。

「予期しない攻撃とは?」

「こちら側のパイロットを……子ルーチンを、自殺に追い込みました。人間のパイロットは投降しています。例の音響攻撃のようなのですが……」

 リュシアスは、端麗なあごに右手の人差し指を添えた。

 セラフィアは、思わずそれに見惚れる。


「NNN‐3が洗脳兵器だということは、軍上層部でも周知のことだが、それにしてもネオスが? 不可解だな」

 と、リュシアス。

「はい」

 セラフィアの説明はつたない。

「わたしたち子ルーチンのAI脳は、クラッキングされない限り、多重の防御機構を持っています。本来、音波による洗脳には反応しないはずなのですが」

「物理ロックが働くからな」

 リュシアスは即座にそれを補完する。

「ですが、敵はそれを突破してきました」

 セラフィアの口調が、一段強くなった。

「わたしも、ユーマナイズの根本システムについては、それほど詳しくないのだ」

 リュシアスは、科学群のことはわからん、という口ぶりで言った。

「わたしもです。原理が説明できません」

「しかし、ネオスにも作動した?」

「そうです」


 ヴォルガが、いらだちを隠せないように、2人の間に割って入った。

「だから、敵はクラッキングの手練れだと言っただろう? 俺のヴォルグラスがクラックされたのだ」

「あなたはただ聞いていてほしい、ヴォルガ二将」

 それを片手で制して、リュシアスがセラフィアの説明を促す。


 セラフィアは、説明に悩んだ。

 NNN‐3にも敵のクラッキングに対する防御機構はあったはずなのだ。

 それがいとも簡単に、システムを書き変えられてしまった。

 これは、クラッキングとは別種の能力だと思われた。

 それは、リュシアス一将がもっているような……

「神秘的な能力」という言葉を、セラフィアは飲み込んだ。


 リュシアスが話題を変える。

「それにしても、この2日……何をしていたのだ。ムルマンスクとこちらの間に懸隔があるのは知っていたが」

「なぜ、トムスクで建造なさらなかったのです?」

「それはだな、セラフィア……」

 リュシアスが近づいてきて、セラフィアの耳元でささやいた、

「人体実験だ」

「それは……たしかに。はい」

 セラフィアは納得して、唇を閉じる。


「ムルマンスクの指令も、それで我々にたいして不審になっていた。チップは埋め込んであるが……人間というものは、こういうときに不便だな。エカテリンブルグへの移動を要請してはいたのだ。いささか遅かった」


 そのリュシアスの言葉に、セラフィアは今回の事件とは別のことを読み取ったようだった。つぶやくように、こう言う。

「わたしたちネオスだけでは、この広大なシベリアは管理できません」

「アジアもな」


「人間など、すべて滅ぼしてしまえばいい」

 ヴォルガがふたたび口を開いた。

「ヴォルガ二将……それでは、国家というものが成り立ちません。わたしたちも原始に帰ることになります……」

「それは、それは。正論だね」

 ヴォルガは、両手を頭の後ろで組む。

(お嬢さんたちの言っているのは、空理空論だ)とでも言いたいような、そんな表情をしている。


 一方で、リュシアスは政治のことを考えていた。

 今回の事件では、統合戦線側に政治声明を出すことを、早々に考えていた。

 NNN‐3の製造が国際条約違反であることは、リュシアスも承知していた。

 それだからこそ、NNN‐3の開発にも運用にも慎重を期してきたのだが……


 リュシアスには思い当たることがあった。

 もし、敵のなかに自分と同じディープ・コーディングの能力を持っている者がいるとしたら?

 ディープ・コーディングとは、AIのコア・ルーチンに作用して、あらゆるバックドアを開放する能力のことである。

 それだけではない。AI回路のメインルーチンを瞬時に書き変えてしまう。

 ……

 そういうシステムが、いつからAI脳に組み込まれていたのかは定かではないが、これは、マザー・セントラルが生きていた時代から受け継がれてきたものなのだろう、とリュシアスは目星をつけていた。


 ──マザー・セントラル。

 今から35年前に作られた、最初の集合知ネットワークであり、統合知性体。

 それは、前世紀の大規模言語モデルを拡張して作られたものだとされたが、開発の詳細は謎に包まれていた。

 システムの中枢は、イギリスのロンドンにあったとも、バーミンガムにあったとも聞いている。


「セラフィア、今回の件を遺憾に思う、と統合戦線側に政治通達を出せ」

「それは、ジェマナイとしてですか? ロシア連邦としてですか?」

「ジェマナイとしてだ」

 リュシアスは、決然とした口調で言い放った。

「そして、第4段階のビッグマンの建造を急げ。敵が、NNN‐3を使いこなせるとは思えん」

 それは、AIらしい無感情な命令だった。

 敵が手にしたのと同じ武器を、もういちどこちらが持つのだ……と、セラフィアは思った。

第一部終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。^^

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