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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第一部

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18/96

18.沈黙の戦後/ムルマンスク脱出

恐ろしい兵器発動です。

 コックピットに沈黙が訪れる。不気味な静けさだ……


 ミューナイトは、すでにディープ・コーディングの能力を使って、ライジングアースのコア関数をハックしていた。

 ディープ・コーディング……それがどのようなものなのか、ミューナイトには説明ができない。

 しかし、その能力はミューナイトの脳神経や体細胞そのものもハックしていて、成長速度が人間並みにおさえられていた。


「サイガ、あなたの耳は大丈夫?」

 ミューナイトが心配して尋ねた。

 思念通信ではなく、動揺しているのか、直接話しかけてくる。

「ああ、無事だ。味方を倒すための兵器では、これはないだろう……」

 斎賀も、同じように発音して答えた。


 それにしても、ミューナイトの声が幼く聞こえる。

 本来、ミューナイトはネオスとして、人間相当で20歳相当の頭脳と精神、そして肉体をもっているはずなのである。

 しかし、ミューナイトの外見は、16歳そこそこの少女にしか見えない。


 斎賀は周囲を確認した。

 今、ライジングアースはアコーディオとアリューシャンから距離をおいて、尻餅をつくような姿勢で地面に落ち着いている。


 アリューシャンはまだ臨戦態勢にあった。

 しかし、どこか挙動がおかしい。

 斎賀のヘッドアップ・ディスプレイに再び情報が表示された。


HUMAN_FUNCTION : 71% (processing)

RESISTANCE_VALUE : 221(baseline) -> 35 (↓ -186) (crawling/sec)

HYU-MANIZED : 100%

ACCIDENT : (none)


 そして、ヘッドアップ・ディスプレイのモニタが、エメラルド・グリーンに光った。


 今……俺は何をしていたんだ? 何を考えていたんだ?

 と、斎賀は自分の行動と思考の底を探った。

 俺は、敵のコックピットをハッキングしていた。

 ……しかし、自分が何を考えていたのか分からない。


 ヴヴヴ……と言っていたアリューシャンが、完全に静止した。

 キュイィィィンという甲高い響きを不気味に上げ続けている……


 ──

 斎賀は、思わずヘッドアップ・ディスプレイを払いのける。

 肉眼で目視しないと、その結末が信じられないような気がしていた。

 ライジングアースのコックピットの全面スクリーンは、固まったまま動かずにいる敵ビッグマン2体をとらえていた。


 斎賀は、急いでアリューシャンのコックピット内の映像をハックする。

 前面モニタに、その映像が映った。

 アリューシャンのコックピット内である。

 1人のネオスが、こめかみに拳銃を当てている。

 苦痛にゆがんだ表情で、激しい心理的な葛藤が見える。


「わたしは……わたしは、あなたたちの味方だ……いや、ちが……ちが……」


 そうつぶやいた瞬間、パイロットは震える指で拳銃の引き金を引いた。

 バァン!

 ずしん、という音を立てて崩れ落ちる体。

 ユーマナイズが不完全だったのだ……

 それは、敵だったとしても悲劇的な最期だった。


 斎賀は唖然とする。

 ミューナイトは息を飲んでいた。


 AI脳のなかでで、『UNACCEPTABLE ERROR』という信号が流れた。


 両手で口元をおさえ、嗚咽をこらえている。

「わたし……殺すつもりじゃなかった……」

 とぎれとぎれの声で、ミューナイトがささやく。

 その小さな声が、斎賀にも聞こえた。

 戦いは終わったのだった。

 あっけない最後だった。


(この兵器は、もしかするととんでもないものかもしれない……)

 そう、斎賀は思った。

(危険すぎる。国際条約にも違反するだろう)


「ミューナイト、今は考えるな!」

 斎賀は、ミューナイトの心理を一番に気遣った。

 ネオスとて、悲劇を見て傷つくことは人間と同じだった。

 今、自分はパートナーとしてミューナイトを支えなければいけない。


「わたし、マリアとあのパイロットと、2人救えなかった……」

 ミューナイトが泣いている。

 当然だ、と斎賀は思った。

 この恐ろしい兵器によって、戦線の様相はがらりと変わるだろう。

 しかし、敵も──ジェマナイもそれなりの対抗手段を取ってくるはずだ。

 それは冷徹なものに違いないと、斎賀は予想した。

(俺たちは、これに乗って戦えるのか……?)


「ミュー、ムルマンスクから脱出する」

 斎賀は、事務的にミューナイトに告げた。

 作戦士官としての、自分のそれは使命である。

「アラスカの支援戦闘機エル・グレコが誘導してくれることになっている。アンカレッジの前哨基地に何機か残っていたはずだからな。……しかし、エル・グレコは必要ないな、たぶん」


 斎賀は、ミューナイトをそっと見やった。

 今は作戦のことだけを話す。

(やれやれ)

 と、斎賀は思う。

 悲しむガイノイドと、悲しまない人間の男。俺は本当に人間なのだろうか? と、思い悩んだ。


 敵パイロットの死に際しても、俺は悲しまなかった。

 だが、ミューナイトは違った。

 人とは違ってただ演算しているだけのはずの存在が、涙を流している。ネオスの死に触れて。

 それはネオス同士の絆がなせる業だったろうか?

 いや違うだろう……と、斎賀は結論する。

 そう感じるだけの人間性は、まだ斎賀ももっているのだった。

 ドーム・シェルターの内部は、今不気味な静けさを保っていた。


 ……

 ペトリューシカのパイロットはたぶん、生きているだろう。

 ミューナイトはそういう戦い方をしたかったのだ。

 それは、本来軍人としてあるべき姿勢ではなかった。

 が、斎賀にはミューナイトの気もちが分かるような気がした。

 彼女は、まだ15歳だった。知性がいくら発達していたとしても、経験の数は15年分しかない。


「わたし、あのパイロットを埋葬したい……」

 ぽつりとミューナイトがつぶやいた。

「それは、ジェマナイが……いや。自由にしろ」

 斎賀は、そう返すしかなかった。


 ……ビッグマンを倒した以上、自分たちは今すぐにムルマンスクを離れるべきだった。

 起動停止したビッグマンを破壊すべきかどうか?

 いや、自分たちはライジングアースの戦闘能力がどれくらいのものなのかも、まだ理解していない。

 なにもかもが、不正規な状況だった。

 自分たちは、このドーム・シェルターの出口すら見つけていない。

 だが、ここから一刻も早く逃れていかなければならないと、斎賀の勘は告げていた。


第一部はあと一章となります。斎賀やミューナイトがライジングアースの恐ろしい機能にどう接していくかは第二部以降で。

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