16.危機一髪
ロボ戦です。漫画です。
(サイガ、ピンチだ……)
ミューナイトが、斎賀のヘッドアップ・ディスプレイにメッセージを送ってきた。
今の衝撃で、膝関節のストレス係数が最大値に達したらしい。
ライジングアースに精神感応しているミューナイトは、実際に左膝を痛そうにしている。
斎賀にもその情報は伝わる……
(いや、逆にチャンスだ。ミュー、半径100メートルで旋回して、やつらの背後に回り込め!)
斎賀が冷静なアドバイスをする。
(どうするの?)
と、ミューナイト。
(アリューシャンを左手に、アコーディオを右手に布陣する)
(よく分からないけれど……分かった)
ミューナイトのAI脳と斎賀のヘッドアップ・ディスプレイのなかで、メッセージが高速で取り交わされる。その間は2秒もない。
その後も斎賀の思考の断片は流れてきていたが、ミューナイトは斎賀の作戦をすべては把握していない。敵にも味方にも作戦を秘匿する、プロフェッショナルな意識を斎賀はもっているのだ。AIスキャンによってミューナイトの行動が読み取られた場合、その挙動は敵に筒抜けになる。
逆に偽情報を流すことも可能だと斎賀は思ったが……
しかし、今のところ、敵ビッグマンはこちらの行動を予測演算してはいないようだ。
コックピット要員のホール・スキャンが済んでいないのかもしれない。
轟音でジェットが起動。
そのまま、ライジングアースはホバリング状態で、半径100メートルの円を描いて、アコーディオとアリューシャンの背後へと向かっていく。
ちりちりと、火花が散る音がする。
敵も黙っているわけではない。
アコーディオのロケットパンチが空(=くう)を切り、アリューシャンのミサイルがビルに命中した。
どうやら、ジェマナイ側は本格的にこの街を犠牲にすることに決めたようだ……
その間にも、何機かのドローンがアコーディオのパンチに撃墜される。
ライジングアースは、アコーディオとアリューシャンの真東の位置に停止して、レディ状態にセットする。
ミューナイトは、ストレスのかかっている膝関節にクッショニング・メタルをリカバーして、仁王立ちになる。
(これで大丈夫、サイガ……)
(さすが、最新鋭機だね)──お前も、と斎賀は思った。
(冗談を言っている場合じゃない。どうするの?)
(正面作戦さ!)
幅50メートルほどの道路の先に、アコーディオがやはり仁王立ちになっていた。
アコーディオは、メインカメラはつぶされているが、すでにサブカメラに切り替えて、こちらを補測している。
そして、アリューシャンは背の高いビルのうえにジャンプして直立していた。
(アコーディオの左手はドリルなんだな?)
(そうみたい)
(なら、ロケットパンチは1発!)
(あ、そうか、分かった──)
ミューナイトの意志がそうHUDに表示された瞬間、敵、アコーディオの右腕のロケットパンチと、アリューシャンの4発のミサイルが同時に発射された。
再度、敵側の攻勢がかかる。
そして、敵パイロットの呼吸が一瞬、ミューナイトの意識へと流れ込んでくる。
敵は──一人がネオスで、一人が人間だ。
ライジングアースも、アコーディオとアリューシャンの攻撃に呼応するように、ロケットパンチを発射する。
ビッグマン(ロボ)のロケットパンチは有線である。
これは対電子線を意識したもので、リアルタイムに誘導サブルーチンを更新・改変することで、敵のEMP攻撃を回避することができる。
しかし、その分射程は1.5~2マイルほどと限られる。
しかし、この狭いドーム・シェルターのなかではそれで十分だった。
うなるワイヤー。斎賀も顔をしかめる。
ぎゅるんときりもみ軌道を描いて、アコーディオのロケットパンチとライジングアースのロケットパンチがぶつかりあった。
飛び散る火花。ビルとビルあいだに、衝撃波が伝わっていく。
がこん! と、ライジングアースのコックピットが揺れた。
足下の地面が、すこしくぼんでいる。
一方、アリューシャンのミサイル攻撃に対しては、左腕のロケットパンチが向かっていく。
手には、さきほど引き抜いたクレーンが握られている。
(昔見たアニメの『ルパン三世』のようだな?)と、斎賀は思った。
その意識が、ミューナイトにも伝わる。
高速でアーカイブを検索。
(ルパンの味方、石川五ェ門のように、斬ればいいのね?)
左腕に握られたクレーンが、アリューシャンのミサイル4発を高速で次々に叩き落す。
地面とビルにたたきつけられたミサイルが、爆音を上げる!
(やった!)
と思うミューナイト。
斎賀もほっと息を吐いた。
これで、アコーディオとアリューシャン両方の攻撃を相殺できた。
(サイガ、この子、飛行形態に変形できるよ?)
突然、ミューナイトが声を高めた。
(なんだって? そんなこと今わかったのか?!)
斎賀がメッセージを返信。
ミューナイトはコンソールを操作している。
(ボディ各パーツの情報は把握していた。でも、その稼働システムとなると、ライジングアースは部分的にしか情報を伝えてくれないの。まだ、わたしとこの子は同化の途中にある……)
(つまり?)
斎賀は、まだよく分かっていない。
ミューナイトが高速でメッセージを送る。
(この子のボディを思いやってあげないと、実際にどのように稼働するのかが分からないの。人格サブが、情報開示を拒否しているの。まだ、未知の武装なんかもあるのかもしれない……)
(なるほど。敵にも味方にも謎の武器ってことか!)
たしかに。
それでは、正規パイロットが配属される前は、このライジングアースも本来の性能すべてを発揮することはできなかっただろう。
さっきのように、輸送・移動の途中で人間に奪取されてしまう、ということも起きてしまうのだ。
それは、現場と司令部との齟齬から起こったファクトだろう。
斎賀は、あらためて自分たちの幸運を思った。
(ミューナイト、飛行形態で飛び去る前に、その未知の武器とやらを試すことはできないか?)
斎賀が、高速で思考をめぐらせた。
(できると思うけれど……何が起こるのかの分析はできないよ?)
(それでも試してみる価値はある。今は、とにかくピンチだ)
ミューナイトは、ネオスらしくもなく息を飲んだ。
そして、斎賀は落ち着きはらっている。
ロボ戦、次章に続きます。




