15.白昼の激闘
うーん。激闘なのか……とりあえず、ライジングアース、本格始動です。
ここまでで15章……遅っ!
「ミュー、敵のロボについて何かわかったか?」
斎賀は、思わずロボという言葉を口にしながら、それでも平静にミューナイトに尋ねた。
パンくずは予定通り機能しているようだ。
目の前のモニタは、3体のビッグマンがパンくずを囲むように展開しているのが分かる。
たぶん、熱源は2つあっても、そのうちの動くほうに照準を定めているのだろう。
「待って、サイガ。あなたの足元にHUDか何かない? 人間サポート用のツールがあるって、ライジングアースが言ってる」
「もうこいつと会話できるようになったのか? 早いな」
驚いて、斎賀が言う。
「すこしだけね。五感を研ぎ澄ませるようにすると、この子のボディの各所についての情報が伝わってくるの」
「すごいな。ヒュー」
思わず、斎賀は口笛を吹いた。
いや、ミューナイトならやりかねない。
ライジングアースのコア・プログラムをクラッキングして自分のものにしてしまいかねない。
でも、彼女はそういうことをしていない。
あくまでも、このビッグマンと一心同体になって戦うつもりなのだ。
「あった。ヘッドアップ・ディスプレイだな? 今装着する」
「頼むわ、サイガ。そちらにデータを送るから」
斎賀がヘッドアップ・ディスプレイをかぶると、体感を刺激するように視野に情報が流れた。
1体はアコーディオ。第3世代のビッグマンで、重装甲・近接戦闘用。右腕のロケットパンチ・掴み攻撃が主武装で、殴り合い攻撃を仕掛けてくる。
2体目はアリューシャン。同じく第3世代のビッグマン。中速・遠距離戦闘用。ミサイル・追尾弾搭載、航空支援的に動く。距離を取って撃ち合うスタイル。
3体目はペトリューシカ……第3世代のビッグマンで、電子支援・撹乱用。短距離EMP・電子妨害・サポート兵装を装備。動きは小気味良く、他2体を補佐する。
(なるほど……)
と、斎賀は思った。
3体が過去に統合戦線の衛星国と戦った際の交戦データまで流れ込んできた。
「これは……アコーディオの背から突入していくのが良いな」
斎賀が思案顔で言う。
「どういうこと?」
と、ミューナイト。
「まず、ペトリューシカをやる。奴の電子戦装備はやっかいだ。こちらに電子兵装はないが、クラッキングが妨害されると戦闘がやりにくい」
「そうだね。ジェットでアコーディオの背後にまわる」
「うむ」
パンくずの残り稼働時間は、1分半とHUDに表示されていた。
今は高層倉庫や建築ドッグのあいまにいるから、ライジングアースの実体は補測されていないが、パンくずによるデコイ作戦がバレるのも時間の問題だろう。せいぜい45秒といったところか。
「良いことを思いついた。ミューナイト、敵のドローンをクラックしろ!」
斎賀が、思わず叫んだ。
「なんで、それサイガのほうでできるじゃん。ライジングアースはあなたにも操作できるんだよ?」
「そうなのか? たしかにな……よし、できた」
どうやら、ヘッドアップ・ディスプレイのなかで視線を動かしたり、まばたきをするだけでプログラムを操作できるらしい。
これはかなり便利なシステムである。
ミューナイトは、斎賀の適応能力も人間ながらにさすがだと思った。
「サイガ、ちょうど良いビルがあったわ。アコーディオの背後につけた」
「よし、最大速度で加速しろ!」
「ラジャー!」
ライジングアースが地面を蹴って助走する。
地面のコンクリートがめくれあがり、機体のまわりに砂埃が待った。
それにしては、コックピットの内部は不思議なほどに静かである。
斎賀は、ふとおかしい、と思ったが、今は気にしないことにした。
ライジングアースの機体は、ほぼミューナイトの精神とリンクしている。
つまり、ミューナイトが片足を上げたいと思考すれば、その通りに動く。
右手を伸ばしたければ、そこからロケットパンチが出る。
このロケットパンチはヴォルグラスのものと同様、有効な武装になりそうだった。
ライジングアースが1棟のビルをぶちやぶって、アコーディオの背後に出る。
ぎゅん!──という音。
アコーディオが振り向くよりも数段階早く、その頭を蹴って宙に舞った。
アコーディオのメインカメラが砕け散る。目の前には、ペトリューシカがいる。
左前方に、アリューシャンが身構えていた。
斎賀は何も動作をしていないが、ただミューナイトを信頼していた。
どうやら、それはまるで奇跡のようだったが、斎賀の精神がミューナイトに同調するとき、ライジングアースの挙動は格段にアップするようなのである。
そういうことを、斎賀はこの短時間(4~5分)の間に認識していた。
(ミュー、無理するな?)
斎賀は心で言った。
HUDの内部に、(わかってる)という文字が瞬く。
話すよりも速いのだ。
ライジングアースは高度40メートルほどの高さに舞った。
そのまま、道路ともう一つのビルを飛び越える。
そして、ペトリューシカの眼前に着地。ミサイル4発をすべて叩き込む。
その直前……
(全部使っちゃっていいの?)
(かまわん。全部使え)
という心理的な会話が、ミューナイトと斎賀の間で交わされていた。
ペトリューシカの胴体部分が爆散した。
右手と左手がばらばらに道路に落下する。
両足は、地面を踏みしめたまま硬直している。
腰から上が完全に吹っ飛んだ形だった。
ミューナイトは、右腕、左腕、心臓、頭部それぞれ別々に照準を定めてミサイルを撃ち込んだのである。
斎賀のヘッドアップ・ディスプレイには、『MISSILE:0』という表示が浮かぶ。
(ふーっ、やるじゃないか)
と、斎賀もすばやく心のなかで思考した。
ミューナイトはそのまま機体を50メートルほど滑空させると、急反転させた。
が、アリューシャンのミサイルが迫っている。
斎賀のヘッドアップ・ディスプレイのなかに、緊急事態を警告する赤ランプが点灯する。
(やばっ!)
(この街のなかで撃ってくるかわからなかったけれど……撃ってきた!)
ミューナイトの頬が紅潮した。
──味方を犠牲にしてもかまわない。そんな考えへの怒りからだった。
ミューナイトは、さっきのマリアの声も回想していた。
その分、ライジングアースの挙動がわずかに狂った。
もんどりうって転倒する。だが、それが良かった。
(しかし、斎賀は痛い。左肩を思いっきり壁にぶつけた)
AI制御されたミサイルは、ライジングアースの向かうほんの少し先に着弾する。
そして1発は、ミューナイトがクラッキングした敵ドローンに当たった。
爆音と煙! 煙幕がライジングアースの姿を隠した。
敵ドローンが、ライジングアースにとってはちょうどよいデコイとなった。
次章も戦闘続きます。




