表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第七部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/140

136.オーストラリア共和国、宣戦布告

オーストラリア共和国がジェマナイにたいして宣戦布告します。

 キャンベラにある大統領官邸には、今オーストラリア共和国の閣僚たちの主な面々が集まっていた。

 まず、大統領のジェラルド・クレイヴン。52歳。「自由と繁栄の守護者」を名乗っている。

 そして、イヴォンヌ・マクリーン経済繁栄相。40歳。彼女の家族は過去にジェマナイの攻撃で亡くなっているが、それでも「戦争をしないことが最大の防衛」という思想に固執している。

 アーネスト・クローヴァー技術産業相。32歳。北欧系移民の家系で、第四世界大戦後の産業復興期に頭角を現した。

 スタンリー・バーンスタイン国防相。62歳。もとはアメリカのCIAに務めていた経歴があり、移民ではあるが、異例の国防相に抜擢された。たしかな戦略眼と、したたかさをあわせもつ。

 そして、異例なことに、軍事企業であるノルドグレイン・システムズ社のカリン・レイニアス女史がアドバイザーとして同席していた。

 その場にいる誰もが、緊張感をもって臨席している。


 オーストラリア共和国は統合戦線と並んで若い国である。

 イギリスが宗主権を失うとともに、大統領制になり、共和国になった。

 この世界の世界地図のなかでは、ひそかに軍拡を推し進めている国の一つでもある。

 ヨーロッパや北アメリカが世界の覇権を失い、ジェマナイが世界の半分を統治して、オーストラリア共和国は独自の牙を持つに至ったのだ。

 ジェマナイはかつて、オーストラリア共和国にも侵略の手を伸ばした。

しかし、南太平洋が干渉地帯となり、本格的な征服にはいたらなかった。

 今、東南アジアやポリネシアの諸国は、ジェマナイ侵攻の深刻な危機にさらされている。

 ために、オーストラリア共和国では、そうした事態をなんとしても食い止めなければいけないわけなのだった。


 オーストラリア共和国は統合戦線とのあいだには、危うい関係を保っている。

 軍事同盟は結んでいないが、オーストラリアの側では統合戦線との経済的な結びつきを重視している。

 実際、統合戦線の閣僚たちとイヴォンヌ・マクリーンとのあいだでは丁々発止のやり取りがあった。

 とくに、ジェマナイのアルスレーテ空爆後は、経済援助をめぐって議論が紛糾している。

 統合戦線という大国に、なぜ我々がわざわざ投資しなければいけないのか、というのがオーストラリア共和国とイヴォンヌの立場である。

 そして、今回の開戦──ジェマナイと統合戦線との間の本格的な──では、オーストラリア共和国は微妙な立場に立たされている。

 しかし、スタンリー・バーンスタインは自信をもっていた。

この戦争を推し進めようとしているのである。

「今が開戦のときです」というのが、バーンスタインのこのごろの口癖だった。

 それには、イヴォンヌ・マクリーンは顔をしかめざるを得ない。

 しかし、すべては大統領の決断次第なのだ……

 彼女は、ジェラルド・クレイヴン大統領のほうを顧みる。


 ジェラルド・クレイヴンは今までさんざん「弱腰」と言われてきた。

 それで、今回の件を機に支持率を上げたいと望んでいる。

 国民は、戦争を望むものと戦争に反対するものの2種類に区別される。

 今は、その勢力がちょうど拮抗しているときなのだ。

「このままでは、世界がジェマナイに支配されてしまう……」

 そういう危機感を抱く国民は、ジェラルド・クレイヴンによる「参戦」を望んでいる。

 ジェラルド・クレイヴンもそんな世論を汲んで、顔色は悪くなかった。


 スタンリー・バーンスタイン国防相は、

「大統領。そろそろ決断のときではないでしょうか?」

 と、彼に迫る。

 その時点までは、主に経済問題や環境問題のことについて議論が交わされていた。

 しかし、スタンリー・バーンスタインは苦り切っていた。

(大統領は重い腰を上げようとしない。我々の誰かがその話題を切り出すのを待っているのだ……)

 その通りだ。

 ジェラルド・クレイヴンは待っていた。

 そして、

「ほう? それは何についての決断かね? 国防相?」

 と切り返す。

 もちろん、胸のうちに「開戦」についての決断の火種はすでに宿っている。

「ジェマナイとの戦争についてです、大統領」

「分かっている。しかし、戦争をするならするで、その結果としての経済予測や環境予測、政治予測をしなければならない。戦争は我が国を利するのか……」

 ジェラルド・クレイヴンは慎重だった。

 それについて、イヴォンヌ・マクリーンがしぶしぶながら口をはさんだ。

「現在……分析によると、わがオーストラリア共和国がジェマナイにたいして宣戦布告をした場合、500億ドル程度の経済的な利益が見込まれると予想されています。統合戦線との貿易が加速するためです。その一方で、戦争による経済損失は200億ドルを下回りません。はたして、この戦争が利益にかなうものなのかどうか……」

「戦争は、いつでも一か八かです。勝たなければ何にもならない」

 とは、スタンリー・バーンスタイン。


「ああ。しかし、統合戦線はあのQR‐Xでジェマナイのビッグマン2体を撃破したという報告があがっている。わが軍の戦力であれば、十分にジェマナイに対抗可能だ。ビッグマンの独自開発も、事前準備が進められているところだ」

 大統領は、思いのほか事情通という知識を披見してみせた。

 経済問題のことは、現在わきに置かれている。

 スタンリー・バーンスタインは、正直なところ驚きを隠せない。

 ところへ……

「その情報を大統領にお渡ししたのは、わたしたちです」

 と、話に割って入ったものがある。

 アーネスト・クローヴァーである。

 彼は若い。あまりにも若いので、次期大統領の後釜を狙っているのでは? との声もあった。

 しかし、彼自身にそんな気はない。技術馬鹿なのである。

 かたわらには、ノルドグレイン・システムズのカリン・レイニアスがひかえている。

「技術的な話は、ここでは省いておきましょう。ですが、QR‐Xは戦果をあげています。バグダッド攻防戦では、敵の主力であるヴォルグラスとプライムローズを行動不能にしました。もっとも、これは統合戦線のロボ、ライジングアースのサポートがあってのことですが……」

 と、クローヴァーは「サポート」という言葉を強調する。

 その心の奥底には、QR‐Xを複数保有している我が国であれば、単独でもジェマナイに抗し得る、という実感があった。

 その方向性に、スタンリー・バーンスタインも賛成である。

 空軍戦力だけでもジェマナイに対抗し得るのであれば、ロボの開発を急ぐ必要もない……


 アーネスト・クローヴァーは続ける。

「今回の戦争には、アジンバル公国も関わっています。公国は、もっぱらビッグマンの独自開発にすでに着手しているという噂です。アジンバル公国でビッグマンが量産された場合、それはジェマナイのビッグマンの性能を凌駕するという可能性も否定できません。となると、南太平洋方面へのジェマナイおよびアジンバルの侵攻も加速させる可能性が高いでしょう。我々は、これをなんとしても防がなければいけません」

 技術産業相らしい意見である。

 技術産業相は、もっぱら民間の産業技術の促進が仕事だが、軍需にも関連しないわけではない。

 今回臨席している、カリン・レイニアスはクローヴァーのお気に入りと言ってもよい人物だった。

 そのカリン・レイニアスが、口を開いた。

「意見を申し上げてもよかったでしょうか……? 現在、我々はロボの我が国での独自開発をも視野に入れています」

 大統領は驚いた。

 その報告は上がってきていなかったのだ。

「我が国が、ロボの独自開発に成功した場合、戦況は一変する可能性がございます。これ以上、ジェマナイの覇権を許しはしないでしょう」

 大統領は迷った。

「では、そのロボの独自開発が成功した場合、ロボが量産可能となるのは、どれくらいの時期なのかね?」

 イヴォンヌ・マクリーンはあっけにとられていた。

 スタンリー・バーンスタインは、「うむ」という顔をしている。

「1年以内に。それまでは、QR‐Xが戦線を持たせるでしょう」

「なるほど。わかった。では、これから事務手続きを急ぐ。わたしは、8時間以内にジェマナイへの宣戦布告をしよう」

 大統領である、ジェラルド・クレイヴンはその場の面々のすべての意見を引き受けて、そう言った。

 その宣言通り、7時間後にオーストラリア共和国からジェマナイへの宣戦布告がなされた。

 戦争が、一段階深い階層へと踏み込んだ瞬間だった。

オーストラリア共和国ではロボの独自開発を企図していますが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ