134.ライジングアースの正体
ミューナイトが整備班の面々と面会します。
ミューナイトは一人、整備班の面々が待つライジングアースの整備場へと降りていった。
左足がまだ痛む。
たんぱく質生成オイルは塗っておいたが、どうも自分は機能不全を起こしているようだ……
敵のクラッキングを受けたのだろうか?
それは考えにくかったが、あるいは亡命してきたセラフィアの影響か?
そんなことを考える。
整備班の面々は、屹立するライジングアースのそばに並んで立っていた。
リーダーのハルク・エンベルク大尉は、右手に書類の束を抱えている。
膨大な機密情報のファイルだった。
そのうちの何枚かを、ティア・ラモン少尉が手に取って眺めている。
サモ・オクンジ軍曹は陽気にライジングアースを見つめていた。
その輪のなかに、ミューナイトも入っていく……
「ハルク・エンベルク大尉……。ライジングアースの改修作業はもう始まっているの?」
「改修作業ではない。修復作業だな? まだだが、新しい武装の追加も決まっているから、もう間もなくだろう……」
「その書類の束は?」
「軍事機密だ。今朝、情報軍から上がってきた。どうやらオリヴィア博士はユーマナイズの秘密を解明しつつあるようだが」
「大尉は、オリヴィア博士と知り合い?」
「知り合いというほどでもないが、ネオスと戦闘機のAIとの連携で話し合ったことがある……ずいぶん昔のことだが」
「そう? オリヴィア博士は信用して良いと思います」
「優等生的な答えだな?」
「??」
ミューナイトは首を傾げた。
自分が今優等生的なことを言ったとは、ミューナイトには思えなかった。
しかし、斎賀がいなくなって、今自分は一人きりでライジングアースと向き合わなければならない。
コパイロットは誰になるのか、そんなことも考えなければいけなかった。
「どういうことでしょうか?」
「うむ。今、君はライジングアースと真剣に向き合わなければいけない。コパイロットのサイガもいないのだからな。我々の修復作業も、君のアドバイスにもとづいて行っていかなければならない。今までのようにだんまりでは、困るのだよ」
「わたし、そんなに黙っていたでしょうか?」
そう言うミューナイトに、ハルク・エンベルクとティア・ラモンが顔を見合わせた。
思わず吹き出しそうにしている。
「あなたは寡黙だったわ?」
と、ティア・ラモンが引き取って言った。
「サイガ中尉が行方不明だということは、わたしたちライジングアースの整備班は聞いている。でも、今は軍内ではまだ極秘扱いなの」
「それで、書類の束ですか……」
「これは、ユーマナイズとユー・フォーチューンに関する資料ね?」
「ユー・フォーチューンの秘密、分かったんですか? サイガが心配していた……」
「その心配は杞憂だと思って良いみたい。これは、ユーマナイズの上位武装ではなくって、まったく違った機構を示すらしい。きっと、相手のネオスを死に追いやることはないわ」
「そうだと良いんですが……」
ミューナイトは押し黙った。
もとより、ミューナイトは饒舌なネオスではない。
自分の感情を表すということもめったになかったし、本心は心の奥に秘めておくタイプだった。
しかし、今はコパイロットが誰になるのかを含めて、先行きの不安が胸のうちにくすぶっていた。
「それでね? あなたも気になっているコパイロットの件なんだけれど、どうやらオバデレ准将はジェマナイから亡命してきたあの将校をあなたのコパイロットにあてようとしているらしいの。小耳にはさんだ情報なんだけれどね?」
と、ティア・ラモン。
「セラフィアが?」
ミューナイトにとってそれは意外だった。
なぜなら、セラフィアはネオスであって人間ではない。
であれば、ライジングアースの人間関数も反応しないのではないだろうか?
ピストルで脅されている間、人間関数が一時的に上昇することはあったが、それは最大で56%だった。
とても、実戦に耐える数値だとは思えない……
しかし、ユーマナイズを使いたくないというミューナイトの心情からすれば、それは幸運だったのかもしれないのだが。
そして、ライジングアースの横にはプライムローズも横たえられていた。
サモ・オクンジは、そちらにも熱い視線を送っている。
「この機体、カーネルが停止しているんですけれど、それでも動くんですよ? 不思議だと思いません?」
と、ハルク・エンベルクに話しかけている。
「統合軍では、まだカーネルの仕様は未解明だが、ビッグマンに動力を送る機構だということは分かっている。あとは、それの作動のさせ方だが……」
「実験を繰り返せば、わかりますって。きっと、イグニションになるキーがあるんです」
「それでは単純すぎるな。もっとロボの根幹部分に深く関わっている気が、俺はする」
「大尉は慎重ですね。ビッグマンもネオスと変わりありませんって」
「俺は、お前のように楽観的にはなれない」
と言って、ハルク・エンベルクは笑った。
サモ・オクンジが照れたようにしている。
しかし、彼は彼なりに有能なのだ。
ライジングアースの起動試験でも、様々な視点から分析レポートを提出していた。
ミューナイトは、そのことを思い出す。
「あの……軍曹。その機体は直るんですか?」
ミューナイトは、サモ・オクンジに尋ねた。
プライムローズは重症である。
胸部ユニットにハイ・フリークエンシー・ソードを突き立てられて、機能停止に陥った。
ここまでは、ライジングアースが抱えてけん引してきたのである。
それが即座に修復されるとは、ミューナイトには思えなかった。
しかし、サモ・オクンジの答えは違っていた。
「ばっちり直します。我々整備班を信用してくれて結構ですよ!」
それは、結構なため口だった。
ミューナイトは呆れる。
いや、サモ・オクンジというこの整備班の軍曹には、出会って以来呆れっぱなしだったのだが……
プライムローズも短期間で修復できる、という言葉を聞いて疑わないほうがおかしい。
おかしいのだったが、ミューナイトのその予測も外れることになる。
「で? プライムローズは誰が操縦することになるの?」
ミューナイトは尋ねる。
「ダレンザグ中尉が適任じゃないかって、軍内の噂ですがね……」
サモ・オクンジが答えた。
(そう。ダレンザグ中尉が……)
と、ミューナイトは心のなかで反芻する。
(彼であれば、たしかにプライムローズをうまく操縦できるだろう。でも、だからこそわたしのコパイロットが誰になるのかが気になる……)
それは、人間的な疑問だと言ってもよかった。
本来、ネオスは命令には素直に従う。
そのようにプログラムされているし、それが生き方でもある。
ただし、ミューナイトにはディープ・コーディングの能力がある。他のネオスとは違うのである。
そして、再びライジングアースに目をやった。
(このロボは……なにか他の機体とは違う。わたしと誰であれば、うまく操縦できるんだろう? サイガはいないのに……)
それは、ミューナイトが不安を感じ始めた瞬間だった。
そして、「ライジングアースの正体」というものがとたんに分からなくなる。
ユーマナイズやユー・フォーチューンの意味。複座であることの意味。人間関数。
そのすべてが、依然として謎に包まれていた。
そのとき、ふっとミューナイトの心に萌したことがあった。
それは、「このライジングアースは、実は小さなジェマナイなんじゃないかしら?」ということだった。
それは、セラフィアも感じていたことだった……
斎賀も、ジェマナイがライジングアースをわざと盗ませたのでは、と話していたことがある。
とすると、この機体はジェマナイが内側から統合戦線を変えようとしている証拠?
そんなふうに、思いを巡らせる。
しかし、その結論は出なかった。
ミューナイトは、依然としてジェマナイと戦わなければいけなかった。
いろいろな噂話を聞かされるミューナイトでした。




