13.ライジングアース、起動
ライジングアース起動します。暴力描写あります。
「俺たちをどうするんだ?」
コックピットのなかの人間とネオスは、おびえてそう言った。
正規のパイロットではないらしい。
ジェマナイの体制からすれば、それくらいの準備はできていそうだったが……
「殺しはしない。そのコックピットから降りてほしい。生き延びたかったら、俺たちの乗ってきたドローンがある。それで離脱しろ」
斎賀は、冷静に言い放った。
手には、シグ・ザウエルをかまえている。
もう、それは「工作員」という面持ちだった。
必要なら、人間であれネオスであれ射殺する。
「わかった。このビッグマンは……お前たちに、明け渡す。だが、俺たちの安全は……」
と、人間のほうが言う。
ジェマナイの人間は脳内に埋め込まれたチップによって、理性や感情を制御されているとはいえ、死への恐怖というものはぬぐい去れないらしい。
最後に、斎賀は聞いた。
「お前たちは、正規のパイロットじゃないな?」
「俺たちは、」
と、人間の方が答える。ネオスは黙っている。
「この機体をパイロットの詰め所に移動させて……」
斎賀は彼を撃った。
人間のほうが、うめいた。
ネオスのほうが、彼の肩に手を添えて抱える。
殺してはいないが、斎賀の目はあくまでも冷静な光を宿していた。
……その一瞬、マリアの死が心をとがめていたミューナイトは、コンマ数秒ほど放心したように宙に視線をさまよわせた。
しかし、彼女はすぐに我に返る。
「お前一人無事なら、ドローンは操作できるだろう?」
斎賀は冷徹だった。
「必ず生きて帰る」という思いが、彼を貫通している。
そして、作戦を必ず成功させるというプロ意識。
そのためには、ネオスや人間の命など、かまっている余裕はなかった。
非情に、口笛をひと吹きする。
──
敵のネオスと人間が離脱したあと、斎賀とミューナイトはビッグマンのコックピットに着席した。
「複座なんだな?」
「そう。今までのビッグマンは単座だったけれど……この子は、どこか変」
「どうしたんだ?」
斎賀がいぶかる。
「反応してくれないの。普通なら、コア・プロトコルをハッキングすれば起動するんだけれど……」
ミューナイトは、見るからに焦っていた。
AI脳が高速で稼働している。
右手の小指をコンソールにすえつけられたコムナイト・グリッドに差し入れつつ、ビッグマンとのコンタクトを取っている。
NNN‐3のLEDコンソールは、ただついたり消えたりを繰り返している。
「もうすぐ敵のビッグマンがドーム内に入ってくるぞ? 1体はアコーディオだ。戦闘データがある」
「戦闘データは、たぶん役に立たない。このドーム内では、サテライト群が死んでいる」
「それは、分かっているんだよっ!」
斎賀は、いらだたしい声をあげた。
NNN‐3は奪取したものの、歩行を止めたまま、動きだそうとしない。
その間にも、敵ドローンや高射砲が、無意味な攻撃を続けている。
しかし、120ミリほどの弾丸がビッグマンに効くわけもない。
NNN‐3は沈黙しているものの、高い音を立てて、装甲表面で敵の銃弾を反射していた。
「サイガ、分かった。この子……名前を入力しないといけないんだ」
いつにない緊張した声音で、ミューナイトが斎賀に告げる。
「名前……そんなの分かんないよ?」
と、ミューナイト。
「名前ってなんだ? このビッグマンはNNN‐3じゃないのか?」
「それは開発コード。起動にはパーソナル・ネームが必要なんだと思う」
ミューナイトは、急速に考えをめぐらせた。
過去に敵の機体たちと接続したデータを参照している。
それに対して、斎賀のほうが冷静に答えた。
「自我プログラムが組み込まれているっていうことか?」
「たぶん……そう。この子はネオスと同じ」
ミューナイトが戸惑ったように言う。
「もしかしたら、メインルーチンに自我参照サブルーチンが直リンクされていて、そこをクリアにしないと主体思考がうまく働かないんだと思う。今のままでは、空っぽの個性として無限ループを繰り返してしまうの」
「俺たちをパイロットとして認識してはいるんだろう?」
「違う。座席についていても、生体データを制御サブにわたしているだけ。正式なパイロットとして認識してくれてはいない」
斎賀は、
「なら、適当な名前を入力して動かすわけにはいかないのかよ?」
「それはだめ」
ミューナイトは拒絶した。
「敵と同じ名前を使わないといけないってか? そんな情報ないぜ?! パイロットは追い出しちまった」
斎賀が首をふった。
「たぶん、そういうことじゃないと思う」
そう言うミューナイト。なにか、胸に思惑があるらしい。
「どんな意味だ?!」
「この子に、生きる意味を与えないといけないの。使命感を感じさせるような名前」
決然とした顔で、ミューナイトが言った。
「ミュー、お前が考えろ!」
「そんなのできないよ……わたし、ビッグマンとの交感なんて、初めてだもの」
首を振る。
「やるんだ!」
「わかった。考える。……この子は、そう……『ライジング・アース』地上すべての存在が立ち上がって、一身になるの。そのための希望。お願い、ライジング・アース、わたしたちに応えて!」
ミューナイトが叫ぶ!
計器類が、ヴィーンという唸り声をあげた。
モニタ表面に「RISING EARTH READY!」という文字が表示される。
明滅するカーソル。
次々に点灯していくLED。
音声で、「わたしはライジングアース。あなたをパイロットと認識した」という声が流れた。
「やった! サイガ、この子反応してくれた!」
ミューナイトが喜んで手をたたいた。
「俺のことはどうなんだ?」
「ライジングアース、この人はコパイロットのサイガ。わたしはミューナイト、登録して」
彼女は急いで告げる。
ライジングアースは、
「了解した。あなたはパイロットのミューナイト、コパイロットはサイガ。正式に登録する」
コックピット内に今までとは違う作動音が響き始めた。
コックピット上部で、無数のLEDがきらめき始める。
それは、夜の海の波のようでもあり、ライジングアースの意志のようでもあった。
その光に、ミューナイトが感応する。
ライジングアースは、まさに「生きる意味」を求めていたのだった。
それが、コア・プロトコルのパイロット認識サブで処理されると、1体のビッグマンとして生き始める。
第4世代のビッグマンの最初の1体として、今ライジングアースは正式に起動し始めた。
「わかったわ。ライジングアース。……あなたは生きているのね? わたしも生きてる。これから、いっしょに戦っていきましょう!」
ミューナイトは、一種の感動を感じて声を震わせている。
「俺もだ、ライジングアース。俺は斎賀。斎賀真一だ」
斎賀は冷静に話しかける。彼一流の、プロ意識である。
「了解。あなたはコパイロットのサイガシンイチ。操縦・管理システムに正式に登録する」
ライジングアースの音声ボイスが響いた。ロボット音声のようではなく、低い男性の声だ。
それまで歩行を停止していたライジング・アースが、両腕大きく振り上げた。
腰の部分のジェット噴射ノズルが作動し、鋭角に傾く。
爆炎。それとともに、ライジングアースの体が宙に浮いた。
そのまま、ドーム天井をめがけて突進する。
こんな感じでライジングアースの名前もつきました。




