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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第七部

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124/140

124.セラフィアの亡命(1)

よく分からない理由で(笑)セラフィアが統合戦線に亡命します。

 それからアルスレーテへは、人型形態のライジングアースで約2日半の時間がかかった。そのあいだ、セラフィアは一睡もせず、である。

 その成り行き……


 ……


 ミューナイトは右手の小指をコムナイト・グリッドに差し込んで、ライジングアースのメイン・システムと連結する。

 それから、左手でコンソール画面を高速でタップし始めた。

 その動作に不審なところはない。

 ライジングアース起動のためのコマンドを入力しているだけだ。

 セラフィアは、ほっと安堵の息をつく。

 ただ、ミューナイトは時折痛みで顔をしかめた。

 セラフィアに撃たれた左足には、今応急の包帯を巻いている。


 これから先自分が行きつく場所は地獄だったが、その水先案内人は彼女に不親切というわけではなさそうだ。

 少なくとも、このミューナイトというネオスは自分の味方になれる素養をもっている。

 子ルーチンとしてのAI脳で、セラフィアはそのように判断した。

 いや、すでにジェマナイとのリンクは切れて、セラフィアもスタンドアローンの思考回路を持ち始めていたのだが……

 それが、事故によって切れたものなのか、彼女自身が意図的に切ったものなのかは、セラフィアにも分からなかった。


 ライジングアースは砂漠のなかで上体を起こす。

 その上には、プライムローズの破損した機体が覆いかぶさるように乗っている。

 ライジングアースの首には、プライムローズのハイ・フリークエンシー・ソードが突き刺さったままである。

 ライジングアースは、自由な左手でハイ・フリークエンシー・ソードを引き抜く。

 そして、砂漠へと投棄。

 自分自身のハイ・フリークエンシー・ソードは背中の鞘に納めた。

 プライムローズの巨体が、砂漠のなかにガタリと崩れ落ちた。

 それを、見守るか見下ろすかのようにしている、ライジングアース。

 それは、コックピットのなかでセラフィアがミューナイトを見守っている、そのままの写し絵のようだった。


「ヘッドアップ・ディスプレイを装着して」

 と、ミューナイトは言う。

「サイガがかぶっていたやつよ。わたしも、アルスレーテへあなたを護送する間にジェマナイの攻撃を受ければ、反撃しないといけない。あなたごと撃墜されるのはごめんだわ」

「……」

 セラフィアは、無言でHUDをかぶる。

 依然として、ピストルは握ったままである。

 しかし、HUDをかぶった瞬間、その画面の複雑さに圧倒された。

 通常のビッグマンのモニタとはレベルの異なる様々な情報があふれている。

(ネオスではなく、人間がこれを見るのか……)

 そのなかには、「人間関数」という数値もあった。

 今、その数値は45%である。

 セラフィアは、その数値の意味を知らない。

 ミューナイトに聞いてみることもしなかった。

 いずれにしても、ライジングアースはプライムローズが完全に補修されるまでの、橋渡しの機体である。

 アルスレーテへ到着すれば、自分はこの後この機体に乗ることはないだろう。


 4、5分の時間が経っただろうか……。

「あなたに、かつての味方と戦う覚悟はあるの? セラフィア」

 と、唐突にミューナイトがセラフィアに尋ねた。

 脅しでも懇願でもない。

 それはただ、ネオスとしての事実確認だった。

 だから、セラフィアは率直に答える。

「ある」

 と、だけ。

 セラフィアがコパイロットという立ち位置に落ち着いた瞬間だった。

 ミューナイトは、後ろを振り返らずに頷いてみせる。

 そしてセラフィアは、ピストルを腰のベルトの間に差し込んだ……


 これはきっと、信頼関係とは異なるものだったろう。

 信頼、というよりは、同盟、といったほうが良い関係かもしれなかった。

 セラフィアは銃によってミューナイトを支配し、ミューナイトは言葉によってセラフィアを支配していた。

 お互いが、お互い同士の虜囚、という関係だったのである。

 そうしなければ、たぶんそのうちのどちらかは命を落とす。

 そして、その関係性はこの後の統合戦線にとっては幸福に働くことになる……


「分かったわ。それならいいの」

 ミューナイトはそう言って、ライジングアースの腰部のジェットを噴射させた。

 プライムローズのボディを抱えて、ライジングアースの巨体が宙に舞い上がる。

「剣は置いていってもいいのね?」

「剣はいらない」


 ──


 飛行の間じゅう、ミューナイトは無口だった。

 子ルーチンであるセラフィアも沈黙にはなれている。

 むしろ、会話が重なると自分の処理能力が追いつかなくなってパニックに陥りかけることがある。

 そう思えば、この飛行(逃避行)は、ミューナイトとセラフィアの双方にとって心地よいもののはずだった。


 しかし……である。

 セラフィアは、聞いておかなくてはいけないことがあるように思えた。アルスレーテへの亡命前に、である。

 そうして、こう言う。

「ミューナイト、お前にとってサイガというのはどんなパートナーだった?」

 どんなバディであれば、あのような戦いができ、自分を追い詰めることができ、ヴォルガを負かすことができるのかと考えたのだ。

 しかし、それに対するミューナイトの答えはそっけなかった。

「ごく普通の、なんでもないバディよ。サイガは仕事を第一に優先する、わたしは任務を第一に優先する」

 セラフィアは口元がほころぶのを感じた。

 この緊張時に、統合戦線のネオスから冗談が聞けるとは、思っていなかったのだ。

 いや、それは冗談だったのか? セラフィアにはたしかにそのように聞こえたのだが……

「仕事と任務か。そうだな。似ているようで、似ていない」

「そう。わたしとサイガは似ているようで似ていなかった。仕事漬けだったのは、お互いにだけれど……」

「統合戦線の人間とネオスは優秀なのだな」

 セラフィアがつぶやく。

 ……

「そうね」

「だが、ジェマナイの子ルーチンと人間も優秀だ」

「それは、どういう意味において?」

 そこで、セラフィアは言葉に詰まった。

 ジェマナイにおける多くの人間は、ジェマナイによって脳内にチップを埋め込まれている。

 この手術は、強制ではないが、多くの者は「自発的に」その手術を受けるようになる。

 そこで、思想と意匠の管理を受けるのだ。

 しかし、それ以外の面では人間たちは比較的自由だ。

 恋愛も好きな相手とすることができるし、危険なXスポーツですら趣味にすることができる。

 賭け事に狂おうが、麻薬を嗜もうが、法律に触れない限りにおいては罰されない。

 そして、人々はおおむね自分の希望に応じた人生を歩むことができる。

 争いがない、という点においては、ジェマナイの統治する統合政体ロシア・アジア共栄圏は、ひとつの理想の国だったと言えるのだ。

 しかし、「何が優秀か」と問われると、セラフィアは答えに窮する。

 ジェマナイの意向に沿うように行動できる人間が評価される、……それは真実だろう。

 だが、それでは支配者が人間からAIに置き換わっただけの独裁国家にすぎない。

 セラフィアは、ジェマナイが単なる独裁国家だとは思っていなかったし、思いたくなかった。

 統合戦線に亡命してからも、その信念はゆらがないだろう。

 しかし……「個人の価値」ということを考えるとき、セラフィアはがぜん自分の認識と経験が不足しているのを感じる。

 15歳の子ルーチンとしていかに優秀だったとしても、15年の経験しか経てはいないのである。

 そして、今自分の目の前にいるこのネオス──ミューナイトも15歳だ。

 だから、こんなふうに問い返さざるを得なかった……

「お前は饒舌じゃないのに、心に刺さることを言う、ミューナイト」

 答えに詰まったセラフィアは、そんなふうに返した。

「それは、あなたも同じよ? セラフィア」

 ミューナイトは振り返らずに言った。

しばらくこんな感じのエピソードが続きます。

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