121.砂漠の死闘(6)
ライジングアースとプライムローズの死闘です。
死闘はなおも続いた。
エアリアル・ステップを作動させながら、プライムローズにキックを浴びせるライジングアース。
その切っ先は敵のメインカメラにあたって、ぐしゃりとユニットが潰れた。
乗機を自分の体のように感覚しているパイロットであれば、すでに相当の痛みを感じていただろう……
何よりも、照準の精度が格段に下がる。
しかし、相手は抵抗をやめないし、撤退するそぶりも見せない。
何かに取りつかれたように、ライジングアースを攻撃してくる。
斎賀はあらためて、(これは、恐ろしい敵だ……)と思った。
迷った後で、斎賀はミューナイトに伝えた。
(ミューナイト、覚悟を決めるぞ。この敵は殺さなければ倒せない。ユーマナイズが使えればよかったんだが?)
(だめだ、サイガ。この人は殺しちゃいけない。なんだか……そんな感じがする!)
ミューナイトは抵抗した。
あからさまな作戦にたいする批判は、この時が初めてだったかもしれない。
斎賀は驚いた。
その間、コンマ数秒。
(いつものミューナイトらしくない)
と思う。……敵に感化されたのか?
いや、そんなはずはないと斎賀には思えた。
であれば、なぜ?
今まで多くのネオスを殺してきているはずのミューナイトなのである。
──俺が甘いのか? ミューナイトが甘いのか?
その思考がミューナイトに伝わらないように、細心の注意を払う。
(もはや、向こうも捨て身の攻撃になってきていないか?)
と、斎賀は思う。
その一瞬の躊躇が、致命的な判断ミスになった。
高速で突進してきたプライムローズは、ライジングアースを避けるどころか、その両足でライジングアースの機体をがっしりととらえる。手が使えなければ足を──そういう作戦だ。
当然のことながら、制動を失った両機は地面に向かって落下し始める。
高度1500フィートからの落下である。
ライジングアースはソードを握っていないほうの腕で、プライムローズを押し返そうとした。
しかし、力が通じない。
これは、機体の性能の差なのか? パイロットの腕の差なのか?
斎賀は、じんじんと頭が痛むのを感じる。──このままでは、やられる!
(ミューナイト、腰部ミサイルを射出! いったんプライムローズの後方に逃がしたあと、やつの背中に命中させる!)
(了解、やってみる!)
プライムローズは、だっこちゃん状態でライジングアースに組み付いている。
斎賀は、ソードでの攻撃を止めて、自由になっている腰から下での攻撃に切り替えた。
250メートルほど飛んでいったミサイルが急旋回して、自分たちとプライムローズに向かってくる。
体をひねって躱そうとする、プライムローズ。
しかし、躱しきれない。
落下態勢のまま、ライジングアースの放ったミサイルは、プライムローズの右足と背中に当たる。爆音。
(やったな! これで拘束を解ける!)
斎賀は、一瞬幸運に包まれたように思った。
ミューナイトの言うように、相手を殺さずに勝つことも可能かもしれなかった。
……しかし、それもさらなる判断ミスだった。
右半身の制動が自由になったプライムローズは、そのまま右腕のハイ・フリークエンシー・ソードをライジングアースの喉元に突き付けてきた。
ミシリ! と音を立てて、プライムローズのハイ・フリークエンシー・ソードがライジングアースの頸部を貫通する。
コックピットの直上である。
コックピット内にスパークが走った。
とくに、斎賀の位置に衝撃は強く伝わった。
電磁スパークが斎賀の脳内に流れる。
「うおおおおおっ!」
斎賀は叫ぶ。
「サイガ、大丈夫なのか?! 無事なのか!?」
ミューナイトも、思念通信を忘れて叫んだ。
ミューナイトは焦る。
狭いコックピットの中のことなのに、斎賀一人の安否すら確認できない。
彼女は人間の、ひいてはネオスの限界を思い知った。
ミューナイトは抵抗の手段として、必死でハイ・フリークエンシー・ソードをプライムローズの胸元に突き付ける。
胸部装甲にめり込む、ハイ・フリークエンシー・ソード!
敵のカーネルを停止させた……。
そのまま、2機の機体は砂漠にむかって落下していく。
ロボ(ビッグマン)のコックピットにはショック・アブソーバーが装備されているから、地面に叩きつけられて即座に死ぬということはない。
しかし、その衝撃は相当なものだった……。だろうと思われた。
というのは、多くのネオスにとってもそうした衝撃というものは未知なのだ。
ミューナイトは思わず奥歯をかみしめる。
ズシン、という衝撃。
2つの巨体が、砂漠に突き刺さった。
「サイガ、大丈夫か?! サイガ、返事をしてくれ!」
ミューナイトの声は、コックピット内部の静寂な空間に吸い込まれた。
斎賀は意識を失っていたのである。
……ただ、ジジジという低い電子ノイズだけがコックピット内に走っている。
──
セラフィアはすぐに状況を確認した。
だめだ──計器類がすべて死んでいる。
カーネルもやられたらしい……ライジングアースの剣がプライムローズの胸部を貫通している。
(これは、動けないな)
と、セラフィアは即座に直感した。
(すると、自分は統合戦線の虜囚となるのか……?)
ネオスは、たとえば敵の虜囚になるといったことについて、屈辱には感じない。
単に、演算のパターンが以前とは異なるものになるだけである。
人間でいえば、「転向」に近いものだろうか?
しかし、このときのセラフィアには統合戦線の捕虜になる、という選択肢はなかった。
たとえ捕虜になったとしても、リュシアス一将は講和の条件として、セラファイアの引き渡しを要求してくれるだろう。
(……しかし、それではだめなのだ)
なにがだめなのか、彼女自身にもよくわからなかった。
ただ、AI脳の演算結果だけが、「そうではない」と伝えている……
幸いなことに、現在のライジングアースは作動を停止しているらしい。
電力不足による、一時的なデフォルト状態だろう。
(ヴォルガ二将は、戦闘空域から離脱できたのだろうか?)
作戦上、そんなことがセラフィアの胸をかすめる。
(しかし、ヴォルグラスが墜落した地点より、ずいぶんとバグダッドよりに来てしまっていた……)
──これではまずいな、とセラフィアは思う。
セラフィアはコックピット・ハッチの外に出た。
そこは高さにして、10数メートルはある。
そこから、セラフィアは思い切ってライジングアースの機体へとジャンプする。
ちょうど肩の部分に着地できた。
コックピットはプライムローズと同じく頸椎の部分だろう。
さきほど、頸部をハイ・フリークエンシー・ソードで貫いたから、敵にも相当のダメージを与えているはずだ。
しかし、ここは慎重になるに越したことはない。
ゆっくりと、歩みを進めていく。
そのまま、コックピット・ハッチへとたどり着いた。
セラフィアは、胸ポケットから夜光虫を取り出す。
クラッキング専用のナノマシンである。
それを、ゆがんだハッチの隙間からコックピット内に差し入れる。
十数秒後、ライジングアースのコックピット・ハッチががしゃんと音を立てて開いた。
セラフィアは、手にピストルをもっている。
そこにいたのは、一人の人間と一人のネオスである。
──トムスクでその存在を感じ取った、斎賀とミューナイトだった。
セラフィアは新たな行動に出ます。第六部はこれで終了で、次回からは第七部になります。




