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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第六部

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119/141

119.砂漠の死闘(4)

ヴォルグラスを倒したライジングアースはプライムローズと対峙します。

 セラフィアは絶句した。

 自分の目の前で、ヴォルガ二将の操るビッグマン、ヴォルグラスが一刀両断にされたのである。

 あの武人であるヴォルガ二将が、敵の前に膝を屈するなど、あって良いことではなかった。

 セラフィアは、即座に通信を試みる。

 ザザッ、というノイズが通信の間に入る。

 なかなかつながらない。

 上空にいる小バエから、なんらかのクラッキングがなされているのかもしれなかった。

「ヴォルガ二将、応答してください。繰り返します、二将は無事なのでしょうか?」

 この時には、任務も何もかもを忘れて、ネオス(子ルーチン)としてセラフィアは話しかけていた。

 メッセンジャーでも、「ブジデスカ? オクレ」と送信する。

 返答があったのは、数秒後だった。

「あーあ。やられちゃったよ、僕としたことが……」

「無事だったのですね、ほっとしました」

「ああ。ビッグマンのボディは頑丈だからな。僕はたぶん、骨折とかはしただろう」

「しかし、無事で何よりです。今後の作戦の指示をお願いします」

「君は三将だろ? 好きにやればいいのさ……」

 ヴォルガがそう言って、通信は切れた。

 セラフィアは安堵の息をつくとともに、憎きライジングアースの姿を見つめる。

 その肢体は、空中に静止するかのようにホバリングしていた。

 まるで、セラフィアの駆るプライムローズを挑発しているかのようである。

 セラフィアは、脳裏を一つの思いがかすめるのを感じた。


 ──


(ミューナイト、どうだ? ヴォルグラスは完全に行動停止したか?)

(見ればわかる、サイガ。胴体を真っ二つに切られて、動けるビッグマンはいない)

(でも、上半身だけ動き出したりとか、あり得るだろう?)

(いや、ないな。コアのカーネルが完全破壊している。もう、あの機体は廃棄確定だろう)

(そうか)

 斎賀はただ同意した。

 なんだか頭が痛かった。

 さきほど、ヴォルグラスからのロケットパンチをまともに食らったせいで、頭痛がしているのかもしれなかった。

 しかし、そんな負担をミューナイトに押し付けてはならないと思う。

 なんと言っても、ミューナイトはまだ15歳の少女なのだ。

 いや……実際には、ネオスの15歳はすでに成人の年齢であるのだが。

 斎賀は、この時も、15歳で死んだ自分の妹のことを思い出していた。

 あの時、なぜ妹は死ななければならなかったのか……

 その思いが、ここまで斎賀を引っ張ってきた。

 自分が戦う理由は、復讐のためかもしれない、といったことも斎賀は思う。

 その復讐の一端がなった今にあって、高揚感や満足感はみじんもなかった。

(この気持ちは、いつまで、どこまで道をたどれば癒されるのだろうか?)

 ──そんなことを思う。

 しかし、そんな考えはすぐに斎賀の脳裏から去った。

 今、自分が負けることは許されない。


(ミューナイト、まだ1体残っている。あの機体と戦うのは3度目だが、今回は分がありそうだ。左腕を破損したままだからな……)

(油断は禁物だ、サイガ。データによれば、あの機体のパイロットはセラフィア。15歳の子ルーチンで、ジェマナイの戦術特務三将だ)

(また15歳か……)

(なにか言ったか?)

 斎賀のつぶやきの意味が分からずに、ミューナイトは問い返す。

(いや、なんでもない。今、何秒ロスした?)

(3秒もかかっていないよ、サイガ)

(なら良いんだ、ミューナイト。作戦を継続する)

 と、気を取り直す斎賀。

(ところで、ミューナイト。ヴォルグラスの攻撃を受けて、ユーマナイズはまだ使えるのか?)

(分からない。胸の照射ユニットが破損してしまっている。起動に時間がかかるか、動かないか。やってみないと分からない)

(そんなことを試している時間はないな……)

(なら、どうする?)

(このまま通常の武装でプライムローズと戦おう)

(了解だ)

 ミューナイトが明るいトーンで返してきた。

 斎賀は、なぜかそのときほっとするのを感じた。


 ──


 ユーランディアは、ライジングアースのおよそ1000フィート上空を旋回飛行しながら、2人の戦況を見つめていた。

 ライジングアースはユーマナイズを発動しなかった。

 なんらかの思惑があったのかと一瞬迷ったが、モニタの拡大映像で胸部のW字型のユニットが破損しているのが見てとれた。

 とすれば、ライジングアースはヴォルグラスを倒したと言っても、相討ちに近い形だったのだろう。

 敵はもう1体残っているが……こちらはヴォルグラスに比べれば難敵のようには見えない。

(左腕を破損した状態で出てくるとは、良い度胸だ)

 と、ユーランディアは思う。

 その機体に乗っているのが、自分より年上のネオスなのか、年下のネオスなのかも知らなかったのだが……


 ユーランディアは、ライジングアースに通信を試みようとしたが『Access Denied』と拒否された。

 何らかの者が通信妨害を行っている?

 いや? ──それは、あの機体からだ……と、ユーランディアはプライムローズを見つめる。

 そのとき、ユーランディアは悟った。

 プライムローズは難敵ではないどころではなく、ヴォルグラス以上の強敵かもしれないのだ!

 自分の機体、QR‐Xがクラッキングされていることを知って、ユーランディアは即座にそのことを理解する。

(あの機体に乗っているのは……恐ろしいネオスだ!)


 ──


 セラフィアは、憎しみに燃える目でライジングアースを見つめていた。

 アルスレーテで、南極で、この砂漠で、3度苦杯を舐めさせられたのが、あの機体だ。

 あの機体には……ミューナイトというネオスの少女が乗っている。

 この戦闘の前に、調べられるだけのことはセラフィアは調べた。

 統合戦線の15歳のネオス。自分と同じ年齢だ。

 ライジングアースに搭乗する前は、イングレスαの飛行士だった。

 ジェマナイとのダマスカスでの戦いで、何機もの味方機を撃墜している。

 生まれながらにして戦士として生まれた少女……と、セラフィアは思う。

 統合戦線という国で、平和を目指す道もあったのかもしれない。

 だが、その一人のネオスが自分の前に強敵として立ちはだかっている。

(あの機体を倒さなければいけない)

 と、セラフィアは思う。

 いや、そうではなかった。

(あの機体を手に入れなければならない……)

 それが、自分の今の心理に対する正解のようだった。

 生かすか殺すか、という価値観では測れないようなものが、あの機体とパイロットにはあった。

 それを、宿命──とセラフィアは思う。

 モスクワに潜入してきたことを知ったときから、あのネオスと自分とはどこかで結び付けられている。

 セラフィアの心には、南極での屈辱のときに脳裏に響いてきた言葉も思い浮かんでいた。

(戦うな。我々は敵ではない……)

 ──敵でなければ、いったいなんだというのだ?

 このままおめおめと引き下がって、リュシアス様の前に拝謁できるのか、わたしは?

 セラフィアは戦闘的な性格ではなかったが、プライドというものはあった。

 15歳にしてジェマナイの戦術特務三将となった、それなりの理由が彼女にはある。

 それは、アジアの各都市での軍事的な制圧の功があってのことだ。

 ジェマナイは、数年ぶりにして、ようやく統合戦線と本格的に戦うことに決めた。

 それを率いているのが、リュシアス一将だ。

 彼女の信頼に、わたしは応えなければならない……

(どこに隙がある? どこだ?)

 しかし、考えれば考えるほど、求める最適解は遠のいていくかのようだった。


セラフィアの迷いが現れました。

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