118.砂漠の死闘(3)
逆境を逆にチャンスに変える斎賀です。
(ミューナイト、上空にオルリヌイ・ルーチは進入してきているな? スホーイなら、なお良いが……)
(大丈夫だ、サイガ。上空に12機のオルリヌイ・ルーチと3機のスホーイがいる。この作戦なんだが?)
ミューナイトは怪訝になって尋ねる。
(なんだ?)
(背水の陣を敷くってことじゃないのか? そんなことわざが日本にあると思ったんだが?)
(バカな。俺がそんな無謀な作戦を考えるか。ミューナイト、ヴォルグラスのコックピットにハッキングをしかけて、レーダーの精密照準にどれくらいの遅れが生じているか計算しろ)
(ああ、そういうことか、サイガ。了解、やってみる)
(ミリ秒単位の遅れでも良いんだ。頼む……)
(1000分の5秒だな。最大値で計算すると、そうなる)
(十分な時間だ。子ルーチンはジェマナイ経由の演算をするだけに、タイムラグは重要なチャンスになる)
(今のわたしたちの会話が、10分の5秒だ。たしかにサイガの言う通り、これは十分な時間差だ)
そう伝えたときには、ミューナイトはすでに斎賀の作戦に完全に納得していた。
敵のAI照準システムにわずかな遅れを生じさせる。
そして、可能であれば、敵の無人機あるいはSu‐77にヴォルグラスへの自爆攻撃をしかけさせる。
いずれにしても、敵の判断に遅れを生じさせることができれば良いのだ。
なんなら、ユーランディアに指示してスホーイにAAMの誤射をさせても良い。
ライジングアースは、今は完全にバグダッド市街地の方向に向かって振り向いていた。
前方からは、セラフィアの駆るプライムローズも高速でつっこんできている。
たぶん、セラフィアはミサイル攻撃をしかけてくるだろう。
前回の砂漠での対決では、ビッグマン同士に相討ちをさせるようにしかけたが、今回はそれが航空機に代わるわけだった。
敵の数というものは、時として多いほど有利にもなるものなのである。
とくに、ライジングアースやヴォルグラスのように単騎で攻撃をしかける機体にとっては、そうしたことが言える。
(とにかくやってみるさ!)
と、斎賀は気張った。
──
「見えているよ、ライジングアース。君が太陽を背にしているのがね? そうそう、こちらにはセラフィアのプライムローズがいる。それを甘くみたね?」
ヴォルガはつぶやいた。いや、ささやきに近い低声である。
そして、セラフィアに向かってAI通信を行う。
「セラフィア。ライジングアースの周囲15メートルの範囲内にむけて、まんべんなくミサイルを撃ち込め! ライジングアースへの止めは、こちらが刺す!」
いつになく厳粛な口調だった。
プライムローズは、すでにライジングアースとヴォルグラスの半径0.5マイル圏内に進入していた。
ヴォルガの厳しい口調に、セラフィアも思わず息を飲む。
セラフィアはヴォルガを信用していない。
しかし、この即席の連携は成功しそうだった。
もしかすると、ライジングアースに致命的なダメージを与えられるかもしれない。
鹵獲、という最大の目標は失われることになるが……。
「了解。二将の作戦に従います」
セラフィアもまた厳粛な口調で返した。
ヴォルグラスは、今空中にロケットパンチをゆらゆらさせている。
(何をするつもりだ? ヴォルガ二将?)
セラフィアがそう思う間もなく、戦闘は始まった。
まず、ライジングアースがライジングアース・アイフラッシュを起動。
太陽を背にして目視がしにくくなっているのに加えて、敵のコックピットをクラッキングして誤情報を送り込む。
これで、ヴォルグラスのレーダーにはライジングアースが数機に分裂して見えるはずだった。
さらに、上空に10数機の戦闘機群がいることで、照準のつけにくさが増す。
うち、何機かからヴォルグラスに向けてミサイルが発射された。
同士討ちである……いや、これは単なるけん制だと言ったほうが良かっただろう。
ライジングアースは、ヴォルグラスの顔面に左腕のロケットパンチを撃ち込むとともに、プライムローズ目掛けて右腕を発射する。
ライジングアースが以前ムルマンスクで取ったのと同じ作戦だ。
さらに、上空のQR‐Xから榴弾の雨が降り注いだ。
(これだけの攻撃を単騎、いや上空の戦闘機と合わせて2機で行えるのか?)
と、セラフィアは愕然とした。
ヴォルグラスはミサイルと全方位レーザーで応戦するが、その切っ先はライジングアースまでは届かない。
機体の周囲でミサイルが爆発する爆炎が上がる。
それらがみな、砂漠の砂に向かって吸い込まれた。
ここまで、2~3秒である。
遅れて、プライムローズもミサイルを発射。
(わたしとしたことが、この判断の遅れは致命的かも?)
セラフィアは一瞬不安になったが、即座にその不安はかき消された。
──ライジングアースは、わたしとヴォルグラスを合わせてユーマナイズの照準に定めるつもりか? それとも、ヴォルグラスの退路を断ってヴォルグラスのみにユーマナイズを浴びせるつもりか?
(いずれにしても、今回のライジングアースは遅い!)
いや、ヴォルガが早いのだ。
ヴォルガは、ライジングアースとセラフィア自身の行動を完全に予測したうえで攻撃を繰り出している。
(これは、勝てるかもしれない?!)
と、セラフィアは思った。
その通り、ヴォルガは実際にライジングアースとプライムローズの挙動を予測していた。
さらに言えば、上空にいる小バエ、QR‐Xまでをも含めて。
空中にゆらゆらとただよっていたロケットパンチの一方が、上空に向かって高速で伸びる。
それは、ライジングアースの機体を通過した。
斎賀は、(やった!)と過信した。
ヴォルグラスの攻撃を躱したと錯覚または誤認したのである。
だが、それは間違っていた。
ヴォルグラスの右腕のロケットパンチはライジングアースの上方で高速で反転。
そのまま、ライジングアースの背中をがっしりと捉える。
(しまった!)
と、思ったのは斎賀とミューナイトである。
敵は、ロケットパンチを命中させるのではなく、ライジングアースの機体制御に使ってきた!
(しめたぞ!)
と、ヴォルガは思った。
それから徐に、左手のロケットパンチをライジングアースの胸部ユニットに目掛けて射出。
ライジングアースは逃げる暇と術がない。
ユーマナイズを発生させる、胸のW型のユニットが砕け散った。
その一瞬前、W型のユニットはユーマナイズを発生させる虹色の光点を集積させていたのだが……
勝負は、ヴォルガにあったのである。
──
ライジングアースの周囲で、セラフィアの放った十数発のミサイルがさく裂する。
これは、完全に囮だった。
ミューナイトの心理演算が、エラーを導き出したのである。
これは、AIであるからこそわかっている、AIの弱点だった。
斎賀は、即座に思考を切り替える。
「ミューナイト、ハイ・フリークエンシー・ソードだ!」
この時には、斎賀は思念通信も忘れて叫んでいた。
「了解!!!!」
ミューナイトも全力で答える。
ライジングアースが背中のハイ・フリークエンシー・ソードを抜刀。
そのまま、ヴォルグラスへと向かって突進していく。
ヴォルグラスの両腕は、ライジングアースのボディにがっしりと食い込んだまま、離れない。
このコンマ数秒の時間差が、ライジングアースに味方した。
ヴォルグラスの胴体が、ちょうど腰の部分で、ハイ・フリークエンシー・ソードによって真っ二つに両断される。
ズシン、と音を立てて砂漠に崩れ落ちるヴォルグラスの上半身と下半身。
ユーマナイズを浴びせることはできなかったが、ライジングアースはヴォルグラスを完全に作動停止にした。
ヴォルグラスを倒しました。




