104.バグダッド攻防戦(7)
イラク陸軍と統合軍の連携作戦、および再びライジングアースです。
そのころ、イラク陸軍のほうでもチーム・アマリとの連携体勢に入っていた。
イラク陸軍を指揮しているのは、少佐のナギーブ・ネシンである。
「了解しました。我々は陽動のミサイルを放てば良いのですね? はい。了解です」
そんなふうに通信を終える。
それから、部下に向かってこう宣言した。
「野郎ども! 全速力で後退しながら、敵の腹に陽動のミサイルを撃ち込め!」
それは、イラク陸軍としても誇りの一言だったし、統合戦線への信頼の一言でもあった。
ジェマナイのビッグマンにむかって、エニグマムスタング2から発射されたミサイルが飛んでいく。
四方八方からミサイルを発射されれば、ビッグマンとて逃げ場はない。
あるとしたら、上空へだ。
3人のパイロットたちは、一斉に上空へとビッグマンをジャンプさせた。
アマレスが「くそっ」とののしっている。
マーシャ・ツヴァルは「きゃっきゃ」とはしゃいでいた。
シズマ=ロークだけは冷静に「ふ~ん、そんな攻撃」とつぶやいている。
ジェマナイのビッグマン軍団が油断した瞬間だった。
「今だ」
と、チディ・マベナが叫ぶ。
20機のイングレスαから射出される、リードル・ワイヤ。
この「リードル」というのは「ニードル」と「リドル」をかけ合わせた造語である。
敵のAIコンソールをクラックして、偽情報を送り込む。そういう統合戦線の最新鋭の武器である。
それが、このときにも確実に作用した。
敵ビッグマンが、お互いの機体に向けてミサイルを撃ち始める。
アマレスは、「おおっ」とうなった。
シズマ=ロークのタルタロスからミサイルが発射されてきたのである。
ぎりぎりで躱したものの、自機からマーシャ・ツヴァルの機体へとミサイルの照準がついている。
「ダメだ!」
叫んだものの、遅かった。
アマレスのタルタロスから発射されるミサイル。それが、マーシャ・ツヴァルのタルタロスへと向かう。
マーシャ・ツヴァルはぎりぎりで対空ミサイルを発射して防御。
ぎりぎりのところで直撃は逃れたが、爆風で地面へと叩きつけられるマーシャ・ツヴァルのタルタロス。
統合戦線側のパイロットたちは「やった!」と喝采をあげた。
シエスタはコックピットのなかで手を叩いた。
「それ見ろ、ジェマナイめ!」と言った感じである。
が、チディ・マベナは言った。
「撤退する」
「なぜですか?!」
シエスタは無線にむかって即座に叫ぶ。
しかし、そこから帰ってきた声は冷静だった。
「敵は弾を撃ち尽くしている。そして、ダメージも与えた。今はタージ基地の防御が先だ」
「了解……わかりました」
シエスタも即座に状況を飲み込む。
自分たちが帰投すべき基地がなくなってしまっては、元も子もないのだ。
旋回しつつ、ビッグマンを見下ろすシエスタ。
たしかに、敵にはかなりのダメージを与えたようだった。
あとは、イラク陸軍に任せるしかない。
シエスタは夕日を前に、機体をタージ基地へと向かわせた。
ナギーブ・ネシンは一言つぶやいた。
「ふむん、統合戦線。俺たちのおもりがなくっちゃ勝てないってわけじゃないんだね?」
「少佐、無線がオンになっています」
と、タンクに同乗している部下が慌ててつぶやいた。
「うなあ? わざとオンにしているに決まっているだろう!?」
「そうでしたか、失礼しました」
かしこまる部下。
「だが、助け合えるならそれはそれで悪くない」
ナギーブはさらに一言つぶやいたのだった……
──
そのころ、斎賀たちライジングアースとQR‐Xは、アレキサンドリア上空でスホーイの部隊に囲まれていた。
「くそっ、囲まれた! まずはサテライト群をクラックする!」
コックピットのなかで、斎賀が無線に向かって叫ぶ。
それは、ユーランディアに通じた。
「情報ネットをかく乱するのですか?」
「そうだ。貴官のQR‐Xは目視でこちらから確認できる。これからは有視界飛行で対応してくれ」
「了解しました」
ライジングアースは飛行形態のまま、1マイルほど飛行する。
QR‐Xもそれに並行してだ。
敵のスホーイはこちらの1マイル圏内にすでにつけているようだ。
斎賀は焦りはしなかったが、それでもコマンド入力を急いだ。
ライジングアースの横を敵のスホーイがすり抜ける。
0.5マイルの圏内を飛行している。
威嚇のためだが……攻撃はしてこない?
どうやら、QR‐Xのクラッキングが効いているらしい。
ユーランディア少尉は14歳のネオスにしては有能なようだった。
斎賀は、一瞬(自分がすることはないのでは?)と思う……
「ユーランディア少尉。貴官は、敵戦闘機のAIをクラッキングしているな? 詳細を報告してほしい」
「はい。スホーイの目標コードに虚偽のデータを送りました。奴らは雲を狙っています」
「雲……か。それなら、晴れると逆にヤバイわけだ。俺にもっと良い考えがある。畑を狙わせるんだ」
「地面の……畑ですか?」
ユーランディアが怪訝そうに尋ねる。
「そうだ。それがもっとも被害が少ない戦法に思える。ほかに良いアイディアはあるか?」
「いいえ、中尉の指示に従います。敵のAIネットを再度かく乱してみます」
それから数十秒が過ぎた。
「できました。敵のAI照準システムに地表の畑を狙うように指示。それ以降の指示はキャンセルするように設定しました。敵の方でもデバグしない限り、わたしたちにミサイルは撃てないでしょう」
「上等だ。よくやった、ユーランディア少尉」
斎賀は、心から感嘆して言う。
たしかに、このQR‐Xという機体とユーランディア少尉は統合戦線にとって大いに役に立ちそうである。
そして、自分たちにとっても、背中をあずけあう仲になれる。
シエスタたちがAIの手を借りずにAIと戦っているときに、斎賀たちはAIの手を借りてAIまたは人間と戦っているのだった。
ライジングアースは飛行形態のままさらに進んでいく。
眼下にはアレキサンドリアの市街が見えた。
ユーランディアのQR‐Xは、ライジングアースのすぐわきを飛行している。
そろそろ畑地にミサイルを撃ち込ませる、という作戦はできなくなる。
「ユーランディア少尉。俺たちが囮になる。貴官はそのクラッキング能力で、敵同士が撃ちあうように設定してくれ」
斎賀が言う。
「了解しました。かならずあなたとミューナイト少尉を救います……」
という言葉が、ユーランディアから返ってきた。
(ひゅーっ、さて、どうするか)
(サイガ、「ひゅーっ」じゃないよ。何も考えていなかったの?)
(あ、こういうのは即興で考えるのがいいんだよ。用意しておいた回答は、必ず敵から見破られる)
(それはそうだが……)
(ミューナイト、まずは人型形態に変形しろ。そうだな、それからスーパー・アンブレラの準備!)
(了解。すべてあなたに任せる)
高速の思念通信は終わった。
今、ライジングアースは包囲しつつあるスホーイの群れのただなかで、空中に屹立していた。
次章以降に続きます(長いです)。




