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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第六部

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103/139

103.バグダッド攻防戦(6)

シエスタがバグダッドに到着します。

 シエスタたちイングレスαの部隊はバグダッド上空に到着した。

 バグダッド市街にビッグマンが現れてから、6時間後のことである。

「くそっ、街が丸焼けじゃないか! 統合戦線は何をしてたんだ……」

 つぶやくシエスタに対して、チーム・アマリのリーダーであるチディ・マベナは穏健に答える。

 シエスタは、無線をオンにしていたことを一瞬呪った。

「アレーテ中尉。戦争は全体で決まる。部分の消滅を敗北ととらえてはならない」

「わかってはいますが、この光景は悲惨です……」

「悲惨だが、まだ希望は十分に残っている。そういう悲惨だ」

「わかりました。オーバー」

 シエスタは通信を切る。

 それは、リーダーらしい言葉だった。

 自分がもし、チーム・アマリのリーダーになったならば、そんな言葉が話せるのだろうか、とシエスタは思った。

 しかし、今はそんな思考すら余計な雑念である。


 アルスレーテからバグダッドに送られてきたのは、アルスレーテ北空港を発したチーム・アマリ、チーム・ンデゲ、アルスレーテ南空港を発したチーム・キアリ、チーム・ムルワの合計87機である。

 あとは、エル・グレコ101機だ。

 しかし……バグダッド市内からはビッグマンはほとんど撤退しており、今はジェマナイ陸軍とスホーイが展開していた。

 バグダッド市内に現在展開しているビッグマンの部隊は、アマレス、シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァルのアジンバルお子様部隊と、セラフィア、ピエタのディストリクトFの部隊のみである。

 シエスタたちチーム・アマリのイングレスαは、ディストリクトAのアジンバルお子様部隊に向けて進路を取った。

 チーム・アマリのイングレスαは20機、対するアジンバルのお子様部隊はビッグマン3体である。

 戦いは互角であるように思われた。

 が、シエスタは舌打ちする。

「ちぇっ、これではまるで、事務仕事の残務処理だ」

 それが、生まれながらの戦士としてのシエスタの直感を物語っていた。


 ──


 子ルーチンのアマレス貴下のアジンバル部隊は、バグダッドの市街地を破壊していた。

 ミサイル弾頭でビルを破壊する。

 逃げ惑う市民たちを踏み潰す。

 迫りくる戦車群をパンチで叩きつぶす。

 まさに第4世代のビッグマンである、タルタロスの性能を十分に発揮していたのである。

 ジェマナイにとっても、市民に恐怖を与える、ということは理に適うことだった。

 アジンバル部隊は、この戦争の肝を握っていたと言っても良い。

 ヴォルガたちジェマナイ直属の部隊が戦争の倫理を握るとすれば、アジンバル部隊は戦争の暴虐を握っていた。

 そして、その暴虐はこの戦争にとって必要なことだった。

 少なくとも、統合意識体であるジェマナイはそう判断していた。

 彼らは、理想的な子ルーチンであったのである。


 タルタロスのコックピットで、マーシャ・ツヴァルは狂気的に叫ぶ。

「いやっほー。イングレスαがやってきたよ。あたしたちの的だよ? 的?」

 それをいさめるようにアマレスが言う。

「油断するな? 俺たちが的になるかもしれないよ?」

「ないって。ないって。ありえない。あたしの触手がうずうずしてる」

「そういう気もち悪いことを言うなよ、戦闘中に」

 シズマ=ロークがつっこみを入れる。

 しかし、マーシャ・ツヴァルには効果がなかった。

「あのさあ、あたしたちがそれぞれ何機ずつ撃墜できるか、競争しない?」

「そうだなあ、その競争には乗った」

 一番冷静であるはずのアマレスが答える。

 その内心では、それ以上いさめてもマーシャ・ツヴァルには効果がないだろうということもあったが、彼自身の高揚感もあった。

 彼は、誰にも知られずにタルタロスのコックピット内で舌なめずりする。

 そして、また市民の一人を踏み潰した。

 彼の残虐性は、今姿を現そうとしていた……


 ──


 イングレス部隊は、アジンバル部隊を取り巻くように布陣する。

 それから、旋回してらせん状に彼らを取り囲むような位置を取った。

 このときのリーダーは、チディ・マベナである。シエスタはリーダーではない。

 だが、彼は優秀だった。

 まず、全機にAAMの射出を指示。

 そして、ランダムな方向にSTSMを発射するように指示した。

 要するに当てずっぽう……なのだが、これが今回は有利に働いた。


 AAMを避けようとするビッグマン。

 当然の行動だ。

 しかし、そのビッグマンを時間差でSTSMが追尾する。

 STSMはスピードもAAMより遅いし、破壊力も劣っているが、細かな誘導において優れている。

 そのSTSMのいくつかが、敵ビッグマンに命中した。

 装甲が軽くはじけ飛ぶ。

 そして、いくつかの弾頭は敵のミサイル発射機構を粉砕した。


 ──


「くそっ!」

 と、コックピットのなかで吐き捨てるアマレス。

 彼のタルタロスは、ミサイル発射機構の一部を破壊されたのである。

 シズマ=ロークも同様だった。

 量子かく乱フィールド発生装置を破壊されて、防御力に不安が出る。

 これでは、ビッグマン無双というわけにはいかなかった。

 イングレスαは、想定以上に手ごわい敵なのである。


「イングレスα、強いっすねえ、伊達じゃないっす」

 そんな素っ頓狂な声を出した。

 アマレスは、またいさめなければならない。

「だから、注意しろと言ったろう? 相手は航空戦力とは言っても、最新鋭なのだ」

「油断していました。これからは気を付けるっす」

 シズマ=ロークは舌を出す。

「これからじゃない! 今からだ!」

「了解」

「上空のスホーイ部隊に連絡。支援を要請する!」

「了解!」


──


 チディ・マベナはまず敵パイロットを分析することから始めた。

 第一のパイロットは「誠実、だが型破り」。第二のパイロットは「軽薄、だが実直」。第三のパイロットは「混沌」だ。

 そんな敵を相手にするにはどうすれば良いか……

 チディ・マベナの空軍兵士としての15年の勘が、こう伝えている。

 ──敵をできるだけ馬鹿にせよ。激高させよ。

 と。

 チディ・マベナはコックピット内でふむんとうなった。

 それから無線に告げる。

「無線はまだ通じているな? どうやら敵は油断しているらしい。こちらが航空戦力だけだと思ってな」

「どうするのですか?」

 と、サブ・リーダーのイーヴリン・ケイン。

 こちらもいずれ劣らぬ実力派である。

「うむ、敵に『錯覚』を見せてやるんだ。同一の軌道を取ると見せかけて、微妙にずらした旋回軌道を取る。それから、リードル・ワイヤで敵の脳をクラックする……それで行動不能に追い込めるだろう。まあ、一時的にはな?」

「なるほど、良い作戦です。相手はきっと若造でしょう。こちらに勝機がありますね」

「そういうことだ」

 作戦は決まった。シエスタもそれに従う。


(あ~、リードル・ワイヤを使っての攻撃は命がけなんだよな。でもまあ、この際仕方がないか……)

 シエスタは心のなかでつぶやく。

 リーダーに反旗を翻すのはチームの一員として厳禁である。

 シエスタであれば、STSM中心の攻撃を考えたが、ここはリーダーの長年の勘に頼るしかない。

 ゆるい旋回軌道を取りつつ、シエスタは敵ビッグマンに狙いを定めた。

 味方機も同様の行動をとっている。

 唯一、チディ・マベナだけが陽動のSTSMを放った。

(やっぱり)と、シエスタは思うのだった。

次章に続きます。

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