表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/139

102.バグダッド攻防戦(5)

再び舞台はバグダッドです。

 セラフィアはティグリス川の右岸に展開していた。

(民間の航空施設といっても、ガードが堅いな)

 と、プライムローズのコックピットのなかで思う。

 バグダッド国際空港は完全防備の体制で、エニグマムスタング2の部隊がすでに展開していた。

 上空には時折イングレスαも侵入してくる。

 ビッグマンの防空圏内にAAMを打ち込んでくるが、これはけん制だろう……


 ピエタ三尉のヴェガⅡは、セラフィアよりも若干先行していた。

 彼は15歳と、セラフィアと同年齢だが、いつも少しもの思わし気な顔をしている。

 戦場の様子を詩のようにぽつりとつぶやくことがあった。

 例えば……

「ここにも赤い炎が立ち上がっている。振り返ればティグリス川の青い水がある。空も素晴らしい晴れだ……銃弾さえ飛び交っていなければ」

 などと言った調子だ。

 セラフィアは、無線に向かって、

「詩吟は後にしてほしい、ピエタ三尉。敵の防備が堅い。無人機を回してくれるように、後方に連絡を」

 苦言を呈した。

「はい、セラフィア三将。理解しました。さっそく連絡します」

「頼む……わたしはスホーイにも指示を出さないといけない」

 そういってプライムローズをエニグマムスタング2の死角へと移動させた。


 120ミリ砲弾の雨が降ってくる。

 腰部のミサイルでそれを撃墜。

 プライムローズの直近で爆発が起こった。

(敵もこちらの死角から攻撃してくる……イラク陸軍は優秀だ)

 セラフィアは思う。

 幸いなことに、今回は「声」は聞こえてこなかった。

 あの声に惑わされてしまう自分がいる……よくよく自分に言い聞かせてはいるのだが。

 なぜ、あんな声が混じるのか?

 リュシアス様ならご存じだろうか?

 いや……こんな些事は閣下を煩わせてしまうだけだ、自分で処理しなくては。

 と、そんなふうに、戦いながら気を引き締める。


 セラフィアは、空港に隣接している高層ホテルにミサイルを撃ち込んだ。

 ホテルの屋上にはアル=ナスルが設置されている。

 高層ビル固定型・多点誘導対装甲ミサイル発射設備である。

 それに先立って、無線で避難勧告を出す。

 ビルから退避していく人間たち……

(そのなかにネオスはいるのだろうか?)

 と、セラフィアは思った。

 二の腕に内側にあるミサイルで、中層階を射撃。

 35階あたりが爆音を上げて吹き飛ぶ。

 ビルは煙を上げて崩れ落ちた。

 ……これで、エニグマムスタング2も隠れる場所はなくなったが、こちらとて同じだ。


(これから戦いが楽になることはないだろう)

 と、セラフィアは思う。

 すでにポーランドからの援軍も来ているし、アルスレーテからの援軍も間もなくだ。

 そして、なによりもライジングアースがやってくる……

 ──あの宿命の敵と、今回も自分は戦うことになるのか、

 と考える。

(ミュー……ナイト。彼女をなんとしても味方につけたい。そう思っている自分がいる。これはなぜだろうか……)

 セラフィアは一瞬考えこんだ。

 しかし、そんな考えはエニグマムスタング2の攻撃によってかき消される。

 ジャンプすると同時に両腕を振り下ろして、そのエニグマムスタング2を叩き潰した。

 操縦士は死んだだろう。

(自分とて、運命は同じなのだ)

 そう、セラフィアは思う。


 砂塵が、また舞った。


 ──


 タージ基地でヴォルグラスに対峙していたのは、ガーズィー・バサン中佐である。

 ヴォルグラスは、エニグマムスタング2の射撃をかいくぐって、空軍施設にロケットパンチを叩き込んでくる。

 すでに、いくつかの防空設備がやられた。

 エニグマムスタング2は柔軟に展開しているとは言え、損耗が大きい。

「ビッグマン1機にこれほどやられるとは……」

 つぶやいた。

 風が吹いている。

 砂漠からの風だ。


 ヴォルグラスは、第3世代のビッグマンとは言っても、ヴォルガの意向で全方位レーザー装備などの改修が施されている。

 さらに、この作戦前には量子かく乱フィールド展開装置の追加もあった。

 統合戦線にとっては、ビッグマンの攻撃を受けること自体が数年ぶりだったが、ことにヴォルグラスは最新鋭機と同程度の性能を誇っていた。


 ──


「ふんふん。戦車はアリ君。イングレスαはハエ君なんだよね~。僕にとっては。でも、油断はしないよ」

 と、コックピット内のヴォルガはつぶやく。

「さて、あのライジングアースが来るのはいつごろかな~。ま、明日ってところだね」

 単騎で作戦に参加しているヴォルガは、部下を指揮する必要がない。

 その分戦力は不足するが、そこは自在に動き回れるほうが、ヴォルガにとっては良いのである。

 まさに武人であって、軽薄な軍人ではない。


 ──


 ガーズィー・バサン中佐は、部下のシャイ・ヴァンダル少尉にこんなふうに言う。

「お前、あのビッグマンの股の下まで言って、迫撃砲を撃たないか?」

 もちろん、半分は冗談なのだが、半分は本気である。

 シャイ・ヴァンダル少尉は、無線越しに必死に抵抗する。

「マジですか? 中佐! それって自殺行為ですよ。速攻で踏み潰されます」

「だよなあ……ということは戦車を持っていっても結果は同じなんだよなあ……」

「何のことを言っているんです? 中佐」

「いや。敵の索敵能力のことさ。小さい的なら見つからない、ってことでもないんだな。厄介だ」

「戦車隊の隊形を組みかえるっていうのはどうですか?」

 と、シャイ・ヴァンダル少尉。

「おお、それ良いねえ。日本に車がかりの陣っていうのがあるんだ。その隊形で行こう」

「了解。詳細はモニタに送ってください」

 ガーズィー・バサン中佐はほうっと息をついた。

 要は、ヴォルグラスの全方位レーザーをいかに躱すかである。

 いくらかの損害は出るだろう。

 しかし、全体として勝てば良い。

 コンソールにヴォルグラスを中心とした、円形の陣形を打ち込む。

 その移動経路をインプットし終わった。

 作戦開始である。

「シャイ・ヴァンダル少尉、行くぞ!」


 車がかりの陣とは、渦巻状に相手を取り巻いて、徐々に間合いをつめていくという陣形である。

 ガーズィー・バサンは味方のエニグマムスタング2の軌道をひとつひとつ入力して、陣形を完成させる。

 もちろん、その移動経路にはわざとノイズを混ぜてある。

 それで、ヴォルグラスのレーザー攻撃を躱す狙いだ。

 ビッグマンとて、物理兵器である。

 砲弾の雨を食らえば、座礁する。

 いかに回避し、敵の隙を突くか、ということがポイントなのだ。


 全方位レーザーの照射を躱しながら、エニグマムスタング2がヴォルグラスに迫っていく。

 放った120ミリ砲は、ヴォルグラスの周囲で爆発した。

 レーザーで防いでいるのである。

 砲弾に照準があっている間は、戦車自体は無事である。

 物量で攻める、ということをガーズィー・バサンはよく知っている。

(単騎で乗り込んできたのが、仇となったな!)

 エニグマムスタング2のなかでそう感慨にふけった。

 そしてこれは、敗者の思考ではない……


 ──


「むむむ、やるねえ。戦車隊だけで僕をここまで困らせるとは……」

 ヴォルガは、周囲の戦況を見つめながらつぶやく。

 彼が「アリ」と言った部隊は確実に彼を捕捉しようとしている。

 たしかに、物量は力なのだ。

 ビッグマンという異質な力も、それにだけは抗しきれない。

「イングレスαの部隊がやってきたら、厄介だ。ここはいったん引くか? 頼むよ、陸軍ちゃん……」

 そう言って、全速力で離脱した。

セラフィアとヴォルガの戦況でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ