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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第一部

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10/96

10.シェルター侵入

ちょっとトリッキーな作戦。

「思った通りだ、ミュー」

 ドーム・シェルターのなかに侵入し、マンホールから顔を出した斎賀は、足下にいるミューナイトに声をかけた。

「しかし、光学迷彩は使えないな、これは……」


「思った通りって、何が?」

 すこしくぐもったミューナイトの声がした。

「俺の話を聞いていなかったのか? ほら、ドームの中にはやっぱり町が残っている」


 斎賀は別のことも思っていた。

 すなわち、(奴らはビッグマン奪取の段階で俺たちを捕獲あるいは抹殺するつもりだ……)と。


「つまり?」

「奴らは、ムルマンスクの街を完全に整地して、このドームを作ったわけじゃないっていうことだ。下水道もそのままだったろ?」

「うん」

「ここでは、サテライト群にたいする通信妨害ネットだけが張られている。だから、光学迷彩は使えない」

「だろうね。よくわかるよ」

 すこし斎賀の話を理解した、というふうにミューナイトが返事をした。


「このドームは、ビッグマンを数体作るにしては大きすぎる。いったいなんのためだ?」

 斎賀が首をかしげる。背嚢を背負いなおした。

「分からないよ」

 ミューナイトは、きゅうくつそうに、マンホールのなかから早く出たがっている。

「お前でもわからないことがあるとはな?」

「早く出てよ、サイガ」

 ミューナイトがしびれを切らす。

「あ、悪い」

 斎賀は、ミューナイトの手をつかんでひっぱりあげた。


「ほんとだ。町が残ってる……」

 ミューナイトはあぜんとしたように、斎賀のあとから町の様子を確認する。

「検問がないと分かったとき、ピンときた。送られてきた資料に詳細はなかったが……たぶん、この先に本当の検問がある」

「たぶん、そうだね」

「お前? 少し口調変わったか……?」

「サイガこそ」

「ああ。少し興奮しているのかもしれない」

 斎賀が照れたように言う。

「わたしも」

 ミューナイトは足元の板切れを拾って、不思議そうに見まわしている。

「また……名前を残すのか?」

「さすがに、今はそんなことはしない」

「だな」


 ドーム・シェルターの内側には、斎賀の言う通りムルマンスクの市街地が残されていた。

 しかし、居住者はいないようだ。

 ところどころで、建物の窓ガラスが割れている。

 いたずらか? ……いや、風圧か音圧で割れたように見えるな?


 斎賀は、放射能検知器を取り出して、地面にあてた。

(まさかな。ジェマナイも大半は人間だ。やつらも自滅実験はするまい……)

 斎賀の予想通り、地面にも放射能は含まれていないようだった。

 とすると、核実験後の隔離シェルターではないらしい。

 そもそも、ビッグマンを製造するのに核は必要ない。


 ミューナイトが斎賀の服の袖をひっぱった。

 斎賀は、驚いて振り返る。敵かと思った。

「サイガ、早くここを離れよう。外のスクーターはもう見つかっている」

「そうだな。だが、ここに来るまでずいぶん下水道の路地を曲がってきた。ここ、という特定はされていないだろう」

「でも、念のために……」

「ずいぶん慎重だな? 敵兵と格闘戦になっても、お前なら勝てるだろう?」

「それでも、銃で撃たれれば死ぬ」

 ミューナイトは不満そうに答えた。

 斎賀は笑う。

「だな。用心にこしたことはないか……例のあれ、持ってきているか?」

 斎賀は、もう一つ別の用心も心に描いていたのだが……

「パンくず? 持ってきている。背嚢のなかよ?」

 と、ミューナイト。

「よし、いくつかマンホールを見つけて、セットしておこう」

「何分くらいで済ます?」

「そうだな。25分」

「了解」

 パンくずというのは、人型の立体熱源を形成する熱源模倣ナノマシン群だ。

 熱源探知による居場所の特定を防ぐときに、いくつかのおとりポイントに設置しておく。

 すると、ナノマシン群が勝手に移動して、人が通った痕跡のようなものを残してくれる、というわけだ。


 斎賀とミューナイトは、町のなかをなるべくまっすぐに歩いた。

 パンくずをまいてきた以上、無駄にうろつきまわる必要はなかったし、何よりも時間を節約したい。

 なぜか街には、人の姿も動物の姿もまったく見えなかった。


「まだ人がいるのか?」

 斎賀は驚いて言った。

 いくつかの建物で、人のいるらしい生活音が響いている。

「とすると、……いや、職員の宿舎か?」

「そうだと思う。あるいは、職員のなかにもいたずら者がいるのかもしれない……」

「勘弁してくれよ、なんの想像だ?」

「いやらしい想像はしていない……」

 ミューナイトは、すこしだけすねたように横を向いた。


 実際には、違っていた。

 ミューナイトは、一軒の建物の影に野良猫を見つけたのだ。

 斎賀もそれに気づく。

「やはり……この町のシステムは完全に生きている。本当に謎だな?」

「そうでもない。人だけがいてはいけないんだ。動物は大丈夫」

「そうなのか?」

 斎賀が怪訝に首をかしげる。

「そうだと思う。たぶん」

 ミューナイトも確証はもっていないようだった。

《心理負荷試験稼働中》という謎めいた張り紙が、建物の壁に貼り付けられていた。

 ……それを、斎賀はなんということなく見逃す。


 と、

「ミュー、隠れろ!」

 とっさに、斎賀がミューナイトの体を押しのけた。

「なに? サイガ!」

「人がいる。いや、子ルーチンだな。若すぎる……」

「倒しちゃったらだめなの?」

「おっかないこと言うね? 人間だったら後味が悪い」

「ネオスだったら良いっていうこと?」

「そういうことは帰ってから議論することにしてだな……」

 ぶうたれた。

 斎賀が試しに、光学迷彩のスイッチを入れてみる。

 思った通り、作動しなかった。

 サテライト群はもう復旧している。

 とすると、やはりこのドームの内部にジャミング・ネットが形成されているのだ。

 その理由が、斎賀にはわからない。

 こんなシベリアの奥地にそうそう人類側のスパイが潜入できるはずもない。(何を警戒しているんだ?)


 斎賀が、ふたたびマンホールを見つけて、ミューナイトを誘う。

「さきに入れ」

 斎賀が、ミューナイトの肩を押す。

「ドームの中心部に向かうの?」

「いや、違う。衛星から送られてきた画像で、一か所だけどうみても熱量分布のおかしいところがあった。ビッグマンはたぶん、そこだ。港に近い場所がある」

「建造するなら港でしょう?」

「ところが違うんだな」

 斎賀が、彼の勘を頼りにして答える。

 ミューナイトは、そんな斎賀のことを不思議に思った。

「サテライト群が統合戦線にも使えてよかったね。でなければ、わたしたち苦労してた」

「良し悪しだな。敵地に潜入するのであれば、ありがたいが」

 ミューナイトに続いて、斎賀もマンホールのなかに降りていく。


(次にマンホールを抜けるときには、敵陣のどまんなかだ……)

 と、斎賀は思った。

ライジングアース奪取までまだもう少しかかります。

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