線
「行かないで」
僕は叫ぶ。
そこは真っ暗闇。辺りを見渡しても闇、闇、闇―――闇。
僕は踏み出す。迷っていても仕方がない。徐々に加速し、走り出す。
すると、そこには一つの光。
「出口か」
光にあふれている。暖かい。眩しい。
急に体が浮いた。ふわり。宙を舞い、眩しくて開けられない瞼をさらに強く閉じた。
***
今日の日付は9月10日、まだ残暑が厳しいあのころだ。しかしそれでも日が落ちる時間はとても早くなっている。午後7時には辺りはすっかり暗くなっていた。
時間が過ぎるのは早いものだ。
年が明け。春が来て、夏が来て、今、秋を迎え、過ぎようとし、冬は訪れる準備をしている。
僕は今、家路についているところだ。忙しさのせいで時間を余り感じられていない。時計を見る。7時。もう、今日僕が起きてから13時間が過ぎようとしているのか。
疲れと、疲れのせいで、今、僕の顔は死んでいるのであろう。
チラと時計を横目で見据えた。7時15分…。たったこの少しの時間考えていると思っていただけで、時計の秒針は15分…1分は60秒、5分で300秒。すでに、1500秒も秒針を動かしている。早い。
7時30分までに着かないと、怒られてしまう。また僕はチラと睨むように時計を見る。また5分進んでいた。
僕は少し歩幅を大きくし、なおかつ速度も速めた。
「ただ今」
時計の針は6を差している。…30分ぴったりだ。
「あら、陽おかえりなさい。疲れたでしょう?外は寒いし、お腹も減ってるでしょう?お風呂とご飯どっちが良い?」
子供のようにくしゃくしゃにした笑顔を僕に向けるのは、母さんだ。
「あぁ、母さん。先にお風呂に入るよ。」
「陽、顔が死んでるわよ?」
母さんはそういうと、僕の鞄を持ってくれた。僕は疲れ切った小さな声で返事をした。
「うん。」
僕は、制服を脱いで、綺麗に壁にかけた。消臭剤をさっと吹き。押し入れから、下着を出す。
シャツとパンツのままで部屋を出る。
僕は、洗面所の鏡を見た。じーっと見た。とても醜い顔だ。見た目がではない、中身だ。
ガリ、ガリ、……ガリガリガリ…ガリ。
僕は、顔を引っ掻く。醜い。
風呂場にに入り、軽く身体を洗い。湯船につかった。そして静かに瞼を閉じる。
人は愚かだ。人は身勝手だ。人は他人を犠牲にして、自分の居場所を維持しようとしている。
「そんなことはない、僕たちは平和を望んでいる」
なんて、何処かの誰かが言っていた気がする。でも平和と言う物は、所詮、都合よく捻じ曲げた綺麗言だ。
僕は、醜い。
ガリ、…ガリガリ。
顔を引っ掻く。爪の間にたまってしまう、
人間は、弱い。そんな小さなことだけで、痛みを感じる。
ガリガリガリガリ…ガリガリガリ……ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ――
僕は顔を引っ掻く。
風呂場の姿見を見つめる。―――僕は醜い。―――僕は醜い。
風呂から出て、シャツをパンツをはいた。タオルで顔を拭くと、ところどころに赤い斑点が着く。タオルの繊維でさえ傷口に触れると痛い。―――人間は弱い。
僕は軟膏を取り出し、傷口に塗る。クリーム状の物質でも痛みを感じる。―――僕は醜い。
また、鏡を見つめる。―――僕は醜い、僕は醜い―――僕は弱い―――
「陽~!、ご飯出来たわよ!、お風呂あがってるんだったら早く食べて頂戴」
「あぁ、母さん」
僕は、軟膏を塗りたくった顔で、キッチンへと足を運んだ。
「陽…また…したの…?」
「母さん…ごめん。」
母さんは、酷く悲しい目をした、目元の笑顔で出来きるであろうしわが、より一層に悲しいという感情を引き立たせている。
「…まぁ、早く食べちゃいなさい。ハンバーグよハンバーグ!」
母さんはすぐに表情を元に戻した。心配していないのか、またはもう成れってしまったのか…もしかしたら、もう、そんなことどうでもいいのか。
僕は椅子に腰かけ、食べ始める。いつも通りのハンバーグ。美味しい。
疲れは少し癒え、僕は「正常」に戻りつつあった。
さっさと、食べて食器をかたす。
「陽…疲れてるとおもうから…もう寝なさい」
「…うん。分かったよ、今日は寝る」
僕は母さんにこたえて、今日は寝ることにした。
―――ガリ―――ガリガリガリガリガリガリガリ――――――――
自分の手を眺める。爪の隙間についた皮膚。指先に付着する血液。
―――僕は、醜い。―――僕は脆い。―――
―――醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い醜い醜い――――
存在する理由が分からない。
…うーん。なんか微妙だな