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2100年、アフリカ人の小金持ちが増えている

 あんまり眠くないな。事前に火星のことをもう少し調べておこう。そう思って僕はARグラス越しにSNSアプリを開いた。人気のハッシュタグの上位に「#MARSCRISIS」があったのでタップ。

 一番上のポストは……たしか宇宙物理学者のガブリエル。名前の後ろに「@MARS」と書いているので、火星圏に住んでいるはずだ。いいねが二十万、リポストが二万くらいか。

「急げ。UMOの速度はこれから非線形的に増加する。改めて何度でも言おう、間違いない、高度な知的生命体だ #MARSCRISIS」

えっ、えええ? えぇとフォロワーは……八百万人か。超有名人じゃん。

「ヘイ、このガブリエルさんってどんな人」

「ガブリエル・ベーカーはイギリス出身の宇宙物理学者で、重力波を専門としており、現在百歳です。火星開拓初期の二〇五五年から火星圏に在住しており、影響力は多岐にわた」

「百歳?」

「えぇ、二〇四〇年の第一次アンチエイジング期からいままで数多くのアンチエイジングを実施し、現在の身体年齢は五十歳ほどです。そんな彼の功績ですが、UMO重力圏の変動予測アルゴリズムを開発し、国際社会の迅速な対応に貢献しています」

そりゃいいね伸びるわ。こんなに権威のある人がUMOは知的生命体だって断言してるんだから。NASA含め宇宙機関の公式発表は「調査中」の一点張りのはずだ。何か断定する根拠はあるのか?

 でもこれ引用ポストか。引用元は、マーク・バロウズ。

「UMOが微細な異常加速を起こした

引き続き、滞りなく地球への帰還業務を進めている

カドモスは全身全霊をもってこのミッションを遂行する

#MARSCRISIS」

「ヘイ、誰この人」

「マーク・バロウズは二一〇〇年三月現在で、火星軌道上ステーション「カドモス」の艦長です。アメリカ出身で年齢は四十二歳、二〇九六年から現職です」

艦長さんか。こちらのフォロワー数は……百万人。いや多いなぁ。

「フォロワー数が百万って、なんでこんなに多いの?」

「直接的な要因は分かりませんが、彼は火星圏社会において非常に強い権力と権威をもっています。特に、二〇九五年以降の小惑星採掘中止に合わせた地球帰還ミッションで、計画タイムラインを大幅に短縮したことで評価されています」

なるほど。とりあえず頼れる艦長って感じか?

 まぁいいか、それから他のポストは……ガブリエルさんへの反論ポストとか。あと、ガブリエルさんが「その通り」と引用した、UMOが知的生命体である根拠を並べ立てたポストとか。しかもこのポスト、艦長マークさんが「憶測で断定をするな」と反論している。仲悪いんじゃないか? この二人。

 ん、このポストは……占星術界隈か?

「火星―それは情熱と変化の象徴。しかし今、その力が封じられつつある!

あぁ、もう止められない。私たちは暗黒の停滞に陥る。

思い出せ! 海王星の崩壊を。夢と幻影の時代がとうに終わったことを。

目を背けるな! 土星の逃走を。私たちの土台が失われ、混沌のみが残されたことを。

あぁ、運命だ。残酷な運命だ。

だが希望はある。

拡大と成長の象徴たる木星をひきつれた救世主が、煌々と私たちを迎えにいらっしゃる。


不安。恐怖。諦め。

全てだ! 全ての感情を救世主が解き放つ。

それは、救世主と太陽が一体化するとき。

伏して祈り待て。

黙して祈り待て。

集いて祈り待て。

#MARSCRISIS

#UIS」

強烈だなぁ。というか今占星術? カウンターカルチャー的な? まぁ確かに、前半の解釈は分からなくもないな。あと、救世主? UMOのことか? 占星術界隈ではそういう捉え方になっているのか? あとハッシュタグが謎だな。

「ヘイ、UISっていうハッシュタグ、何?」

「これは占星術界隈で流行りのハッシュタグで、「UMO イズ セイヴィアー」の略語です」

セイヴィアー、救世主か。

 とネットサーフィンをしているうちに、飛行機の窓から雲ではなく海が見えてきた。着陸準備だ。水平線上に、雲を突き抜ける一本の黒く細い線が見える。スカイブリッジだ。

 スカイブリッジに近づくにつれ、ほとんど人工島と化した元無人島―ベーカーアイランド―が視界に入る。

 かなり大きい。浅瀬にあるスカイブリッジに対して、百倍はあるんじゃないかという敷地面積だ。でも空港とか港とかホテルとかを考えるとそのくらいが妥当か?

 着陸。降機。浅瀬のエレベータに向かう水中シャトルトレインに乗る。周りを見ると、アフリカ人が多い。飛行機では見なかった人たちだ。別便だな。

「ヘイ、チャイニーズ! あんたも儲けたのか?」

じろじろ彼らを見ていると、話しかけられた。

 儲ける? あ、そうか。最近、なんか仮想通貨が上場していたっけ。それで初期からそのトークンを買っていたアフリカ人が、大量小金持ちになったってクチか。

「いや、仕事だよ。あんたら、仮想通貨で儲けたのか?」

「あー、まぁ半分くらいはな。イカしてる俺みたいなヤツらはそうだ。あっちにいるちょっとお高くとまったヤツらは、サーバー投資だよ。おもんねぇことしてるぜ全く。利回りが年十五%になったとかで無様に喜んでやがる。こっちは一発で百倍だってのに」

「そういうヤツもいるんだな」

「あれ、そういえばチャイニーズならこっちに来ないよな普通。中国系アメリカンか?」

「ジャパニーズだよ。そういうアンタらも、普通は中国資本のケニアの宇宙エレベータ使ってるんじゃないの?」

「あ~ジャパニーズか、久々に見たよ。あぁ俺らも普通はケニアにいく。でも今は、それこそ俺らみたいなやつらが多すぎて満席だったんだ。まぁいいや、アンタ何しにいくの? 俺らは普通に月旅行だけど」

「僕は仕事で火星まで行くよ」

「ワオ、マジ?! 今ヤバいんじゃないの?」

「まー死にはしないよ、多分ね」

「OKOK、そうだ、SNS交換しようぜ。火星の写真送ってくれよ」

「いいね、ハルモニアの綺麗な写真を撮って送るよ」

「ん? ハルモニアってなんだ?」

「火星表面にある都市」

「はっはぁ! テキトーな名前だな。とりあえずフォローしといたぜ、またよろしくな」

「おう」


 シャトルトレインを下車。スカイブリッジを見上げたいが……そうか、もう施設内だから見えない。えぇと、高度三万六千kmだっけ。富士山で三千六百m……三・六kmってことは、ちょうど一万倍の高さか? 想像もつかないな。

 施設は、空港に似ている。うぉぉ、巨大ホログラム。エレベータの現在地をリアルタイムで投影しているな。コンビニ、両替、SIMなど普通の空港っぽいのがあるが、それを見ている暇はない。早く手続きに向かおう。

 看板はあるけど不安だな。安全にARマップで行くか。まずはチェックイン手続き。顔認証でパスし、スーツケースを預ける。カドモス行きの輸送船では必要だから、地球のステーションに着いたら受け取ることにしよう。

 次は簡易的な脳の検査。検査員から渡された大きめのヘッドセットを装着し、一分ほど座って目を閉じる。ピピっと鳴った後、検査員がヘッドセットを取り外す。PCの前に座っている二人の検査員が、画面を指さしながらゴニョゴニョと話している。

「田中さん、二次審査が必要です。こちらでヒアリングをさせてください」

「えぇ?」何に引っかかった? 検査項目の相場はテロリスト・スパイ指数、脳内ウイルス感染リスク、もしくは深刻な反社会的傾向くらいじゃなかったか? 内心愚痴をこぼしながら、席に座る。

「ようこそ田中さん、二つの項目で要審査です」

「えぇぇ?」



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