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ピッタリ年齢を当ててしまっただけなのに

「ヘッド、危ない」田中の警告にヘッドは答えない。

「やっぱりか……ヤバいぞ」ヘッドがため息をついた。

「何があったんですか?」

「十四体のノイドが物理的にクラッシュした。最低限半分は直したい」

「まじ……すか」

「あぁ。艦内の至るところにノイド固定用の装置はあるんだが、ここまでの負荷は想定されていなかったようだ」

 どうします? と安易に聞こうとしたが、そんなことはヘッドが今考えているだろうから口を閉じる田中。

「田中、ノイドの物理的な修理は得意か?」

「全くダメです」

「ハハッ、俺もだ。よし、ハードウェア室に連絡をとって修理用の人員を回してもらう」

プルル。

「こちらロボット制御室のヘッドだ。今いけるか? ベルト解除許可が出てから? 知るか! 今からだ。十四体のノイドが破損し、機能不全に陥っている。四体は軽傷のようだが、最低でも七体は修理しないとかなりの悪影響が出る…………あぁ? 破損区画への対処でこっちに人員が出せない? 何とかしろ!」

ヘッドが電話口で叫ぶ。

「了解、ありがとう」ヘッドの笑顔とともに電話が終了した。

「よし田中、ハードウェア室とビデオ通話をする。グラスで入れ」

「了解です」

 ヘッドと田中はグラスをかける。田中はヘッドとのDMに送信されたリンクを踏み、ビデオ会議を開始した。開始すると、グラス越しに三次元の人間が浮かび上がる。

 現れたのはアナント。

「早速ありがとう。こちらはロボット制御室のヘッドと田中だ」

「こちらハードウェア室のアナント」

「本名?」ハミルトンが質問する。

「です」アナントは田中を認識し、少し目を開いた。

「アナント久しぶりー」田中が朗らかに声をかける、

「あれ、もしかしてお前ら知り合い?」

「仕事の話を」アナントが雑談の芽を摘む。

「OK。アナントくん、どこまで聞いてる?」

「破損が十四体、うち七体は修理したいと。期限は聞いていない」

「最優先でなるべく早く……といったら何時間でできる?」

「破損の程度による。直近で修理対象のノイドは後でマーキングして伝える」

「助かる。もしヘルプが必要なら田中に連絡してくれ」ヘッドが頭に浮かんだ汗をぬぐう。

ガチャ。

「アイツ、もしかして不愛想?」ヘッドが田中に聞く。

「かなり。でも実は可愛いやつですよ。酒と数字が好きらしいです」

「そりゃいいな。一緒に吞みたいぜ」


 プルル。田中のデバイスにアナントから通話。

「どうしたアナント」

「一旦修理対象のノイド七体をマーキングした。ハードウェア室まで持ってこれる?」

「え、僕?」

「メンドイし」

「運搬用のノイドも故障してるしな……」

「なんとかなるでしょ。よろしく」

ガチャ。

「ヘッド、やっぱアイツ可愛くないです。ハードウェア室にノイド持っていきます」

「ハハッ、いってら」

 BCIを使って一体の健全なノイドに接続し、アナントがマーキングしたノイドを一体ずつ運んだ田中。アナントからは、一体ずつ修理が完了次第連絡すると告げられた。


 十一日目。

 昨日から断続的にアナントから修理完了連絡が入り、ついに七体の修理が完了した。残りもやってしまおうということで、田中に運搬作業がのしかかる。


 夜。不意に艦内連絡が始まった。

【艦長マークより各管理室へ。UMOが再度重力異常を引き起こし、見かけの質量が増加した。潮汐力による火星の崩壊は未だ無さそうだ。さらに悪いことに、地球側との通信が途絶えた。ラグランジュ点にある通信衛星が故障したか、木星圏との接近による磁場の異常が考えられる。とはいえ航行計画は現状でもギリギリだ。このままでいく】

「マジか……もうちょっとだってのに」ハミルトンが手を止めて愕然とする。

「地球との通信が途絶えた……? ヘッド、僕ら帰れますかね」田中も狼狽える。

「何があっても俺は帰る」

「帰れるかなぁ……」

「田中、なんかどっちでも良さそうな言い方だな。地球に帰りたくないのか?」

「でもどうせ、UMOが太陽と衝突したら地球も終わるでしょ? 数か月の違いかなって」

「多分な。じゃあいいんじゃないか? 火星に骨をうずめても」

「ヘッドは絶対帰るんですか?」

「一か月後、娘の結婚式なんだ。十三年会ってない」

「ワオ。十三年? 単身赴任ですか?」

「あぁ。その当時……今もまさにだが、人類最前線の火星に憧れてな。家族の心配を押し切ってこっちに来た。月一くらいで連絡はとってたんだが、嫁から娘が結婚するって」

「今だからこそ結婚式かぁ」

「お前は帰ってどうするんだ?」

「まぁ確かに、あと数か月でどうせ地球も終わるなら、地球に帰って仲いいやつらと遊びたいですね」

「いいな。結婚式呼んでもいいか? シアトルだ」

「えぇ? ぜひ!」

「ハハッ、よし、やる気が出てきた。ラストスパート頑張るぞ」

「オッス!」

 プルル。不意に、室全体電話が鳴る。

「はい、こちらノイド制御室のハミルトン」

「マークだ。急で済まないが一点頼みがある。明日、中国側の衛星から一人、フライトコントローラが応援に来てくれる。十四時頃にハルモニアシャトルと同じところからドッキングだ。その時のノイド作業も頼む」

「了解。艦長、一点だけ」

「どうしたヘッド。少し声が震えているぞ?」

「俺ら、帰れます? 地球との通信が途絶えたって聞いて」

少しの沈黙。そして、力強い声が響く。

「任せろ。娘さんの結婚式だろ? 大丈夫だ。艦長は私だ。今度こそ、全員生きて返す」

「了解。以上です」

ガチャ。

「中国側からの応援、いります?」田中が疑問を声に出す。

「確かにな。こっちのフライトコントローラが早めの地球帰還を申し出たとか?」

「あ~、なら必要ですね」

「この時間、俺は別件があるから田中に頼む。 多分、ほぼノイドが自律的にやれると思うが、ウォッチはしておいてくれ」

「了解」


 十二日目。

 十三時頃。室全体電話が鳴る。ヘッドが不在なため、田中がとる。フライトコントロール室からの連絡だ。先日の小惑星残片の衝突の影響で、中国側からの応援人員のシャトルのドッキングの際、ノイドが必要なそうだ。簡潔に手順を聞き、田中はドッキングの場所近くのノイドにBCI接続をした。


 十四時前、もう一度電話が鳴る。

「ニーハオ! 饕餮から応援に来たよ! ドッキング大丈夫そ?」若い女性の声。

「ノイド制御室の田中です。大丈夫そうです」

「田中? ザ・ジャパニーズじゃん。珍し。東アジア同盟結成だね!」

「うん、えっと、え?」聞き返す田中。

「私のことはマオシンって呼んでね! 猫星って意味。饕餮では『まるまる星』系のあだ名が流行っててね。まぁ私が流行らせたんだけど」

「マオシン、了解」

「声的に、若いよね? でも渋さもあるな。二十八くらい?」

「あー惜しい。最近二十五歳になった」実年齢より上と思われて、少し声が上ずる田中。

「えー若い!」

「マオシンも若いよね……二十八歳くらい?」

「うわ……ぴったりビンゴ。もしかして童貞?」

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