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貨物として運ばれたい男と、ぬいぐるみを座席に置きたい少女

「今から一時間以内に、現在待機中のノイドの最大八十%を使って、ナノグレイ1トンとその他必要物資を輸送船に積載したい。まず、実現可能性のシミュレーションを頼む」

すると、右上の制御ウィンドウがログを流し始める。

” リクエストを解析中 ”

” ノイドのDBにアクセス中 ”

” 対象の輸送船を確認中 ”

“ 輸送船_1034に積載する物資を確認中 ”

ピピッと通知が鳴り「積載箇所を指示してください」と画面に表示される。

「全て、輸送船側の貨物倉庫だ。積み方は任せる」

ログが再開される。

“ ナノグレイ以外の物資コンテナの電子タグが確認できないため、ドッキング区付近のカメラから積載対象の物資コンテナを確認中 ”

“ 積載対象の物資コンテナを特定するため、航行計画のデータベースにアクセス中 ”

“ 別タスク、および重量とスペース上限の整合性を確認中 ”

“ 高機能順にソートした待機中ノイドを使うと仮定して、簡易シミュレーションを開始 ”

ピピっと通知がなり、画面に「約四十八分で完了予定です。稼働を開始しますか?」と表示される。その下には、待機中三十三体のノイドのうち、今回操作権限を付与する二十五体のノイドがリスト形式で表示され、それぞれに担当が割り振られている。

 事前に設定していた虹彩認証を済ませ、稼働開始ボタンを押す。

 次いで、このタスクの識別色を紫色に変える。すると左上のマップ上に、このタスクに割り振られたノイドの点が紫色に変わる。

「ヘッド。今から何事もなければ、物資の搬出は五十分程度で完了です」

「OK」

 そういえば各物資の用途はなんだろう? そう思った田中は航行計画のドキュメントに目を通す。ドキュメントによると、ナノグレイはベッドと簡易座席用。その他物資は食料がメインで、残りのほとんどは事前に梱包された乗客の私物だった。

 田中は次に、マネジメントAIの制御画面で、既に稼働している「乗客案内」用タスクの確認を始めた。識別色はオレンジ、稼働中のノイドは四体。そして、「人間対応の要請」を示す注意アイコンの右上に「2」という数字が表示されている。すぐにアイコンをタップすると、内容が表示される。

” 「私はどうしても貨物として積んでくれ」という要望 ”

“ 超大型ぬいぐるみの特等席確保問題 ”

なんだこいつら……火星住民のリテラシーどうなってんだ?

 ため息をつきながら、ノイドとのBコネクトを始める。自分の視覚と聴覚のみをノイドと同期。その他の感覚はノイド制御室にいる自分の体のまま。慣れているとはいえ、最初の数秒はまだ気持ち悪い。その後、要対応の三名が眼前に見えた。

「人間のオペレータです。まずは貨物として積んでほしいお客様から」

「やっとか。俺はモノだ。俺は荷物! 人類の荷物! 貨物室が落ち着くんだ!」

「乗客の皆様は、原則として客室に配置されます」

「どうしてもだ!」

「承知しました。輸送船内のオペレータに確認します」

そう言ってノイド同期を切り、輸送船内のオペレータに確認を取る。

「もしもし、こちらカドモスの乗客案内オペレータ」

「こちら輸送船一〇三四の乗客対応オペレータ。どうした」

「どうしても客室じゃなくて貨物室で寝泊まりしたいという客がいる。説得は無理そうだ」

「こんなクソ忙しい時に全く。腹立ってきたな、よし、今からいう言葉をそのまま伝えてくれ」


 ノイド同期を再開。

「お客様、確認しました。そのままお伝えします。『OK、貨物室にぶちこんでやる。ただし絶対文句いうなよ。客室に移動とかさせねぇからな?』とのことです」

「やったぁ。ありがとうありがとう」

そういって男は突っ伏しておいおいと泣き始めた。

「搭乗後、インフォメーションセンターにて再度ご希望をお伝えください。さて次は、ぬいぐるみ用の特等席をご希望のお客様」

 身長一三〇cmくらいの小さな少女が、自分より大きい熊のぬいぐるみをだきしめている。

「私のお父さんなの。私の隣の席を確保してあげてほしいの」

「それはさすがに厳しいと思いますが……」

すると、隣にいた母親らしい人が泣きながら話し出す。

「すみません、このぬいぐるみ、この子の父であり私の夫の形見なんです。四歳の誕生日プレゼントでこれを娘に渡したあと、小惑星帯から帰ることができず……」

「承知しました。輸送船内のオペレータに事情をお伝えします」

先ほどと同じようにオペレータに確認を取る。

「確認しました。そのままお伝えします。『お嬢ちゃん、安心しな。とあるクソ野郎が貨物室に行ってくれるおかげで席が一つあいたぜ』とのことです」

「やったぁ!」

「うぅ……ありがとうございます」

「偶然、貨物室移動のお客様の席が隣でしたので、そのままお使いください」

そう言ってBコネクトを終了し、二つの案件のステータスを「完了」とする。

 その後も何件かの人間必須対応を行った。


 物資搬出タスクは、途中で他タスクとの整合性問題で少し遅延したが、目標の一時間以内に完了。約千人の乗船も済ませた。

【まもなく地球行き輸送船が出発します】

艦内全域にアナウンス。ドッキングが外れ、輸送船はカドモスから距離を取る。エンジンを噴射してもカドモスに影響がない距離まで離れて、加速を始めた。

 ヘッドがアナウンスを確認し、田中に話しかける。

「問題なかったか、グッドだ」

「疲れましたよ……火星圏って変な人多いんですか?」

「富裕層、夢見る層、その家族、それにくくることもできない意味不明の層がいるな」

「これがあと三十回くらいか……」

「この時期の求人なら給料高いんじゃないのか?」

「日本人にとっては破格ですね。確かに金で頑張れます」

「その調子だ。よし、もう今日は休んでいい。次は十時間後から作業開始だ」

「了解です」

【フライトコントロールより連絡。小惑星の回避行動のため】

「まじかぁ……」

「気にせず帰ってもいいぞ。自己責任だが」

「さすがに怖いっすね」

そういってカドモスの変速を制御室でやり過ごしたあと、スーツケースとリュックをもって部屋に向かう。


 制御室から田中の部屋までは約十五分。ちょうど道中にあった喫煙所で一服を済ませたのち、部屋に到着。アパートのようなものの三階で、遠心重力が小さい。

 部屋は個室だが、四帖ほどしかない。ベッドと机で視界はいっぱいだ。壁とベッドの両方に身体固定用のベルトがある。

 はまりのネットゲームをやろうとしたが、火星圏にサーバーが無かったので諦め、すぐ寝ることにした。

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