第98話 魔女の制裁?
精霊門の危険性は魔女であれば誰でも認識しています。
魔女の魔法と精霊魔法が違い過ぎるので対応が難しいのです。
それに実態のない精霊は基本的に死はありません。倒すということができないのです。特に上位精霊は手も足も出ないでしょう。
なので、空に浮かび上がる精霊門が開くと、あとは精霊のなすままに受け入れるしかないのが現状なのです。
私は鈍器に腰掛け、その精霊門に向かって飛んでいきます。
直上、門と地面の中間地点。
このような中途半端なところで留まっているのは、聖騎士との間に発生している誓約の問題があるからです。
本当に、あの誓約をどうにかしないといけませんわ。
そして白い枝をまだ閉ざされている門に打ちつけるように四本飛ばします。
「枯れ枯れの白き魔樹よ。力を吸い取り本来の姿を取り戻せ。亭亭と伸び万朶の花を咲かせよ『落英繽紛』」
物理的に存在しない扉にヒビが入りました。いいえ、扉に沿うように木の根が伸びていきます。
細かい粒のような光が、逃げるように飛び去っていきました。
ええ、このまま留まれば、魔力の固まりと言っていい精霊は、魔樹の成長するためのエネルギーとして使われるだけですからね。
そして、開こうと少し隙間が開いた扉を抑えるように伸びた根から魔力を吸い取り、一気に成長していく魔力食いの木。
夜の空に溶けるような黒い幹を伸ばし、血のような赤い花を枝いっぱいに咲かせていきます。
そして花粉を飛ばしながら、赤い花びらを散らしていきました。
空から降ってくる花粉と花びらを散らす黒い木は、この森の魔素を。そして、我々の魔力も奪っていく本来の魔力食いの木の姿です。
しかし、そのお陰で空に浮かんだ門が空間に溶けるように消えていっています。
いつの間にか、白い光の柱も見えなくなったので、魔法陣の上の魔力食いが根付いたのでしょう。
「ちょっと! こっちの霧が消えていくじゃない」
下から幻惑の魔女の文句が飛んできました。死の森にしていいと言ったではないですか。
ですから、門が完全に消えるまでは、このままです。
私は、上空の様子を確認しつつ、地面に降り立ちます。
「だから、あれはなによ!」
降り立った私に幻惑の魔女が突っかかってきました。
そうですね。今は本来の姿を保った魔力食いの木は存在しませんから、知らないのでしょう。
「死を招く魔力食いの本来の姿ですね」
「噂通り、禁厭の魔女の制裁は恐ろしいということね」
……何ですか? その噂は?
あと制裁って、個人的に私怨をぶつけることは、魔女の理に反しますよ。
わかって言っているのですよね。
「禁厭の魔女が動くと、森が魔界と化すというのは有名よね?」
「なにですか? 私は薬を作ることしか力を持たない魔女ですよ」
「まぁ、いいわ。それで赤い花びらのせいで、囲っていた霧が消えてしまったわよ。あれが街まで行けば最悪よ」
そう言って幻惑の魔女は、霧が晴れて見えてきた物体Xを指し示しました。
白い霧か黒いモヤかの違いですか。
「黒い霧にしか見えません」
「私もそう見えるわね」
やはり、魔女には黒いモヤの物体に見えるようです。
「ヤレヤレ。これでは吾は役に立たぬ」
そう言って魔導師長さんもこちらにやってきました。
今まで補助魔法や回復魔法を使っていたようですが、上空に咲く魔力食いの花の影響を大きく受けるので、こちらにきたようですね。
そして、今謎の黒いモヤと戦っているのは、クロードさんとグランディーア兄妹のカイトさん。謎に若返ったサイさんにトゲトゲの巨大鉄球を振り回しているエリアーナさんです。
黒いモヤに攻撃しているので、私の目には攻撃が通っているのかわかりません。
「あの……繭から出てきたものは、どういうモノなのですか?」
魔女の私たちには見えませんが、魔導師長さんなら見えていますよね。
「ふむ。見た目は子供であった」
子供だった? 過去形ですか?
「しかし、この数分で十歳は歳を取ったと思える」
歳を取った? いいえ、身体が大きくなったという解釈ですか。
厄災魂を食らうものの不完全体というのであれば、完全になるため食らっているということ考えられます。
……いったい何を食らっているのです?
「一番成長した瞬間はありましたか?」
「ああ、吾が攻撃魔法を使ったときであるな」
「だから、魔法系は使えないから、私は足止めだけとディーにいわれたのよ」
それでグランディーア兄妹のレイラさんの姿もないのですね。
この空間にも生き物にも魔力が存在しています。
それを常時取り込んでいるとすれば、こちらに勝ち目はありません。
なんというエゲツのないモノを作り出したのですか。
いいえ。そういうモノを世界に解き放つのが『ドルヴェデイド』という者なのですから。




