第97話 今度は失敗しない
「光が収まらないが大丈夫か?」
クロードさんの言う通り、光の柱に変化は見られません。
あれは、魔力を奪うものなので、根本的解決方法ではありません。
発動する力を奪うもの。
そう術は発動してしまったのです。命をかけた術を止めるすべはありません。
ですから、発動する力を奪う。
暗闇を映す空には光の粒が集まってきている。
小さな精霊たちが集まりだしてきています。
「寝起きでお腹を空かせた魔力食いの木の食欲に賭けましょう」
あとの駆除が大変ですが。
その時、森になんとも言えない叫声が響き渡りました。
「繭が孵化したようですね」
「あの魚人もどきか?」
「たぶん、姿は変化していると思います」
「え? 変化するものなのか?」
そう言われると、私の知識にはどういう姿だったのかという情報がないので、苦笑いを浮かべてしまいます。
「おそらく、繭なので、中でドロドロになって変体しているという予想が、魔女たちの中では一般論ですね」
仕方がありません。魔女たちの中でその姿を認識できた者がいなかったのと、厄災魂を食らうものを認識した者が生き残らなかったのですから。
「私たちも行きましょうか」
眼下を見下ろすと、凄い勢いで森の中を爆走しているのか、木々がなぎ倒されているのが見えます。
「しかし、間に合わなかったのでしょうか?」
幻惑の魔女がいるのであれば、人の移動も容易だと思ったのですが。
グランディーア兄妹であれば、足止めぐらい……もしかして……
「洗脳の後遺症が現れている? しかし、神官騎士であれば、治せるはずです」
「取り敢えず、急ごう。あのスピードに追いつかなかっただけかもしれない」
確かに森の中を進む勢いは、遠く離れたここからでも、早すぎると感じるほどです。
で、何故にクロードさんに抱えられているのですか?
私なら、鈍器に乗って飛んでいきますよ?
「あの! 私は自分で飛びますので、降ろしてください」
「大丈夫だ。追いつく」
「え?」
……見下されるクロードさんの頭の上には、可愛い耳が見えるのですが? 気の所為でしょうか?
そして、私を抱えたままクロードさんは崖から飛び降りたのでした。
ひっ! 自分で空を落ちるのと、感じが違いますわ。
重力など感じられないほどの着地。
そして、森の木々が背後に流れていきます。
速すぎます。
『禁厭の魔女。ディー曰く、敵は人の形をしているわ』
青い鳥が近づいてきたかと思うと、幻惑の魔女の声が鳥から聞こえてきました。
ああ、それで一瞬怯んでしまったと。
「了解しました。それで、どうするのです?」
『霧の森に誘導するわ。ただ、追いつかないから足止めを。こっちも全力で飛んでいるというのに!』
「だそうですが?」
「今度は失敗しない。大丈夫だ」
クロードさんは、ケットシーの件を失敗と捉えているようです。しかし、そのお陰でまだ空に精霊門は形成されていません。
「わかりました」
『たのむわよ!』
そう言って、青い鳥は空間に溶けていなくなってしまいました。
「クロードさん。ケットシーの件は失敗ではありません。敵の思惑から外れたのです」
世界を混乱に陥れる者『ドルヴェデイド』の意思を受け継ぐ者。
その者の性格は、そうとう歪んでいるようです。
人が嫌がることをよく理解しています。
あ、もうすぐ接触しそうです。
ゾワゾワする感じが強まってきています。
「いた」
斜め前方を移動している黒いモヤがいました。
「『防御結界』五層!」
普通であれば、身を守るために施行する魔法。それを移動している物体Xの前方に展開しました。
一瞬動きを止めたものの、私の防御結界を壊していく物体X。
「シルヴィア。ありがとう」
クロードさんは、離れた位置に私を降ろし、その姿を消しました。
いいえ、速すぎて私の目には追えないのです。
何かできないことがないのかと、視線を上げれば……
「うそ、門が形作られていっている。光の柱は?」
周りを見渡しても木々が邪魔で、よくわかりません。
流石に上位の精霊を止める方法は知りませんわよ。
「やっと追いついたわ……ちょっと! 門が開きそうよ。任せないと貴女は言ったわよね!」
「霧が……」
周りがいつの間にか霧が立ち込めてきています。
こちらは、ここで足止めして討伐するということですね。
ただ、私の目には物体Xに斬りつけているクロードさんの姿しかわからないので、物体Xにクロードさんの攻撃が効いているのかわかりません。
「わかりました。死の森にしていいのなら、まだ打つ手があります。それで、他の方々は?」
「私が先行して足止めよ! 死の森でもなんでもいいから、扉を消しなさい!」
それであれば……。
私は途中で折ってきた白い枝を空間から取り出したのでした。
読んでいただきありがとうございます。
久しぶりの投稿です。遅くなりすみません。




