第95話 反転の反転
「『転移』」
転移をし作り出した使い魔のところに移動しました。
「光を喰らい、全てを闇に包め『昏天黒地』!」
転移をした瞬間に全てを闇に覆う魔法を使い視界を奪います。
はい。これは私たちの視界も奪うのです。
その後に続く鈍く響く音。そして何かが地面に落ちる音が聞こえました。
「シルヴィア」
クロードさんの呼びかけに闇を解除します。と同時に緊急信号を打ち上げました。
空に向かって打ち上がる光ですが、途中で霧散してしまいました。
やはり上空にとどまっている魔力食いの花粉の効力で無効化されてしまいましたね。
「クロードさん。もう一度転移を使います」
「わかった」
「『転移』」
間をおかず、近くにいるクロードさんの腕を掴み、再び転移をしてました。そして白い木々が視界に映り込みます。
そして丁度魔導師長さんから打ち上げられたのであろう光が東の空を明るく照らしていました。
いけます。
「『使い魔たちよ。魔法陣に飛び込め』」
私はこの場で命令を発しました。
そう、この場でないと森の方と平原の方の使い魔に命令が届かないからです。
魔力食いの木が邪魔なのです。
すると次々と白い光の柱が空に伸びて行きます。全部で5つ。
魔導師長さんが以前使っていた反転の術式が起動したのなら、10つの魔法陣の内、連携した半分の5つが沈黙したはずです。
「シルヴィア。この者なんだが……」
「クロードさん。少し待ってください」
クロードさんが意識を失ったケットシーを抱えているのはわかっています。
ですが、何かおかしい。
光の柱が空に伸びたままです。
魔法陣が沈黙したのでしたら、光の柱はすぐに消えるはず。
「シルヴィア!」
クロードさんの呼びかけに視線を向けると、視界に黒いモノが……
『おや? この地に住まうのは幻惑の魔女のはずですが、貴女はどの魔女でしょう?』
気づけば私はクロードさんに抱えられて、先程いたところより数百メル離れたところに移動していました。
そして、私にどの魔女かと尋ねたモノはドロドロと溶けかけている黒い毛並みのケットシーです。
細胞の融解?
いいえ、力に耐えきれず肉体が崩壊しています。
『まぁ、良いでしょう。いいえ、良くないのでしょうか? 魔力食いの林の中とは……これでは中途半端になってしました』
中途半端?どういうことでしょうか?
しかし、話しているモノはケットシー自身の意志ではないことが確定しました。
肉体が崩れているのに平然としていられるはずがありませんから。
『しかし、これはこれで良い。それでは名を知らぬ魔女。宴を楽しんでいってください』
そう言ってケットシーだったモノが地面に崩れていってしまいました。
そして崩れていったケットシーを中心に音なき声が発せられます。
こ……これは、命を対価にした呪。その呪文はこの地にいる精霊を伝って伝搬していく精霊術の禁術。
『玉響の残響』
死の寸前に助けを呼ぶ術です。しかし、これは……そういうことですか。
だから空に向かう光の柱が消えなかったのですか。
「失敗しました。裏をかいたつもりが、それを利用されてしまいました」
「いや、俺が悪かった。シルヴィアに言われていたのに、殺すことに躊躇してしまった」
クロードさんが謝ってきました。
ケットシーのことでしょう。
確かに私は事前に予想を口にしていました。そして、操られているモノだろうと。監視の目があるだろうと。
普通は簡単に割り切れることではないとわかっていたので、事前に情報を口にしたのですが、言わないほうが良かったのかもしれません。
魔女は理のためなら、無慈悲にもなれる存在です。
そうですよね。人と魔女とは違いますものね。
「クロードさん。後悔は後でもできます。それよりも先にしなければならないことがあります」
クロードさんは後悔しているようですが、この場にケットシーを連れてきたことは結果的に良かったと思っていました。
この場所は魔物も避けますが、精霊も避ける場所です。
ですから、あのモノは中途半端になったといったのです。
呪を伝搬する精霊が少ないと。
「シルヴィア、何をすれば……」
「いったい何が起こったの!」
「すまぬ! 利用されてしまったのである!」
クロードさんの声を打ち消すように、幻惑の魔女と魔導師長さんの声が響いてきました。
お二人仲良くタイミングがいいですわね。
「突然グランディーア兄妹の洗脳が解けたのだけど? あとあの光の柱はなに!」
「ふん! お前さんたちが魔物に手こずっておるから、魔法陣の始末をつけようとした結果である」
術を使っていたケットシーが崩れていったので、グランディーア兄妹の術も解けたということなのでしょう。
しかし、早くあの光の柱を止めなければ大変なことになってしまいます。
「あと、反転の術がきっかけで繭が割れ始めたのである」
え? あの鼓動を繰り返すように光っていた繭が、割れ始めたのですか?
最悪です。




