第93話 六つ目の欠片?
「はぁ……癒しの『ココ』ジュース」
両手を広げたぐらいの大きさの白い果実。それを抱えて上を切り取ったところからごくごくと飲んでいます。
途中で木になっている白い果実を見つけたクロードさんが、私のために採ってくれたのです。
「甘いのに、あっさりとした果汁がやみつきです」
と、五個目を飲み干してしまいました。
移動しているクロードさんに抱えられながらです。
「見ているほうが、胸焼けがしそうである」
杖に乗って並走している魔導師長さんの顔色が悪いですわ。やはり、病み上がりで無理をなされているのではないのでしょうか。
「チョコレートもあるが?」
「食べます!」
「まだ食べるのか!」
クロードさんが板状になったチョコレートを差し出してくれたので、手にとってパクリと食べます。
「ん〜美味しい!」
甘くて香ばしいく、ほろ苦いチョコレート。幸せです!
「そろそろ着くであるぞ」
魔導師長さんの言葉に前方に視線を向けます。
森の木々の奥から青白く光っている部分がありました。
確かに何かの魔術が発動しているようですね。
それよりも、こんなにたくさんのチョコレートを食べてもいいのでしょうか? 商会で売っていたのは、丸くて小粒のチョコレートでした。
こんな板状のチョコレートなどなんて贅沢なのでしょう!
「チョコレートをこんなにたくさん食べて罰など当たらないでしょうか?」
「何を言っている。加工前のものだから、大したものではないぞ」
「加工前?」
加工? それだとカカオということになってしまいます。
あ、貴族受けしやすいように加工するということですね。
「これ、いちゃついていないで、到着したぞ」
いちゃついていないですわ。
そして、私の目の前には、三メルほどの青白くひかった魔法陣がありました。
そしてその中央には……
「魚人であるか? しかし見たことがない種である」
「いや、魚人というより、魚に足が生えていると言ったほうがいいな?」
雷魚人。なんでも呑み込みそうな大きな口に、固い鱗に覆われた魔魚に見えますが、横から鱗に覆われた足がでているので、水中でも陸上でも移動可能な種になります。
この大陸にはいないモノですね。
それが普通であれば、一メルほどの雷魚人が、五メルぐらいの大きさになっています。
「まだ、完全体ではないことが救いですわ」
私の目で普通に見えているということは、呪いを発生させていません。
しかし、この状態で術の介入ができるのでしょうか?
「ふむ。やはり、外部からの干渉が不可となっておるか」
魔法陣を一周してきた魔導師長さんの言葉です。
それは予想していましたが、やはり手を出すと強制的に中のモノが解放されることになるのでしょう。
「もう一つ破片があれば、介入できるのであるが」
もう一つと言われましても手持ちの五つの欠片は使ってしまいました。
今から探しに行けばいいのでしょうか? でもこの術がいつ完成して、中の雷魚人が出てくるかわかりません。
出てくれば、不出来ながらも魂を食らうものとなり、辺境都市『エルヴァーター』を襲うことになるでしょう。
そして、最終的に厄災と成り果てます。
「なぁシルヴィア。ブラックオーガの欠片が残っているんじゃないのか?」
「え?」
クロードさんの言葉に一瞬思考が止まります。ブラックオーガ……ブラックオーガ?
首を傾げます。
「ああ、確かに霊樹が印象すぎて、記憶に残っていないかもしれないが」
はっ! 戦力過剰攻撃で一瞬で倒されてしまったブラックオーガ。確かにいました。
私の空間収納の悪いところは、私が覚えていないものは引き出せないところですわね。
それは魔女の血の記憶も似たようなものですが。
私は空間収納から一つの陶器の欠片を出して、魔導師長さんに結界に覆ったまま渡します。
「ふむ。強制的に介入はできるが、問題は他の魔法陣がどう反応するか」
下手すれば、今使い魔たちが向かっている魔法陣に取り込まれる前に、魔法の変換をされる可能性もあります。
この実験をどこかで見ている目があるはずです。それで対策されてしまえば、使い魔たちは意味をなさなくなります。
「使い魔の到着には、まだ時間がかかります。待ちますか?」
地図上では手のひら大の魔法陣ですが、本来は広大なヴァングルフに点在する魔法陣なのです。
空を飛ぶモノでも、もう少し時間がかかります。
「うむ。これが出てくるのが先か、五つの魔法陣が沈黙するのが先かの話しであるな。取り敢えず、外側に仕込みだけはしておくであるか」
そう言って魔導師長さんは、魔法陣を囲うように杖で線を引き始めました。
その間に私はもう少し魔力の回復に務めていきましょう。
いつも読んでいただきありがとうございます。
5作品連載の上、12月が少々忙しいので、日曜日のみの更新にさせていただきます。
1月には週2回投稿に戻しますので……
よろしくお願いします。




