第88話 早すぎますわ
「ツヴァイさん!」
クロードさんを見送ったあと、ギルドの広い室内を見渡すと、見知った人がいました。
バルトさんとチームを組んでいる治療師のツヴァイさんです。
「火傷薬を持ってきました!」
離れたところにいるツヴァイさんに呼びかけました。
すると疲れた様子のツヴァイさんが顔を上げこちらに視線を向けてきます。
「あ……ああ、魔力回復薬をお持ちではありませんか?」
相当お疲れのようで、フラフラとしながら、こちらにやってきました。
これは魔力切れ一歩手前でしょうか。
しかし残念ながら、お店の薬は渡してしまいましたから、手持ちの薬は少しだけです。
それに魔力の枯渇など想定していませんので、持ち歩いてはいませんわ。
「残念ながら持っていません」
「そうですか。サラさんもダウンしてしまって、そろそろ私も……」
え? サラさんの姿を見ないと思っていましたら、魔力の枯渇で寝込んでしまっているのですか。
これは問題ですわね。
戦う人員は多いようですが、回復できる人が極端に少ないです。
やはり神官騎士のエリアーナさんに、戻って来てもらったほうがいいのではないのでしょうか。
「ツヴァイさん。この火傷薬を必要な人に使ってください。私は急いで回復薬を作りますわ」
私は火傷薬を空間から取り出して、ツヴァイさんに押し付けます。
そして、急いで冒険者ギルドの裏口に行きます。
裏には訓練場があり広い敷地があるのです。
ギルドマスター曰く、訓練場が併設の冒険者ギルドは少ないそうです。ここにある理由は一攫千金を狙って深淵の森『ヴァングルフ』に挑戦するも、戻ってこない冒険者が多かったからだそうです。
私にとっては薬草の宝庫で、何に困ることがあるのかわからないのですけどね。
広い敷地の一角に魔法陣を描き、その上に大きな鍋を置きます。人の背丈と変わらない高さがある鍋です。
そして鈍器を取り出して、横にしてその上に座り、鍋の上まで飛びます。
これで料理を作っていたとか言わないでくださいね。あれから綺麗に洗いましたよ。
収穫してあった薬草をザバザバと巨大な鍋の中に入れていきます。
私の薬草畑で収穫したものですから、大量に使っても問題ありません。
回復薬はよく売れるので、いつでも作れる準備はしてありました。
そして魔法で水を入れて、下の魔法陣に魔力を流し、鍋を加熱します。
これまた巨大な棒で、鍋の中をかき回して、全てがドロドロに溶けるまで混ぜていきます。
「魔女さんが魔女っぽいことをしている!」
突然聞こえてきた声に視線を向けました。
魔女に魔女っぽいとはどういうことですか?
視線の先には、ギルドの裏口の扉により掛かるように青い顔色のサラさんが立っていました。休んでいたのではないのですか?
「どうされましたか? 薬はすぐにはできませんわよ」
たった今作り始めたところなので、一時間はこうして混ぜておかないといけません。
「旦那さんが探しています」
……旦那さんとは、先程外に追い出したクロードさんのことかしら?
まさかね。いくらなんでも早すぎですわ。
「シルヴィア。ここにいたのか」
私はクロードさんの姿を見て遠い目になります。町に侵入してきている魔物を討伐してと言ったつもりですが、近くにいた魔物だけを倒してきたということでしょうか?
「南側にいた魔物は全部倒してきたぞ」
にこやかに言いながら近づいてくるクロードさん。
それもなんだか、頭の上に丸みを帯びた耳が見える幻覚が起きています。
私も疲れているのですか?
瞬きを繰り返して再度みても、クロードさんの銀髪の間から丸い耳が生えてきています。
最近、忙しかったのでだいぶん疲れていますわ。
「早かったですわね」
目の錯覚は無視をして、言葉をかけました。
早いのにも限度があるでしょうと。
「ああ、大したことはなかったからな」
そうですか。
あの……背後に白いしましまの尻尾も見えるのです。それもゆらゆら揺れているではないですか。
回復薬が出来上がったら、私も服用したほうがいいのかしら?
「聖騎士の旦那さんって尻尾って生えていました?」
サラさんの声にハッとします。
サラさんも見えているということは幻覚ではありませんの?
まさかガンディス渓谷で戦ったときと同じ状態だと。聖騎士の謎ですわね。
「あ? 身体が軽いと思っていたが……気にするな」
気になりますわ。
しかし、今まで見えていた丸みを帯びた耳やシマシマの尻尾は消えてなくなっていました。
これはクロードさんの無意識だったということですか?
何かと耳と尻尾の幻覚を見ることが多いのですが、もしかしてそれも無自覚だったということ?
言い寄って色々聞きたいところですが、今の私は手が離せません。なぜなら、鍋の中身に均等に魔力を注ぎ込んで混ぜ続けないといけないのですから。
しかし、そうですか。あれは幻覚ではなかったと。可愛いと思ってしまったことは内緒ですわ。




