第83話 恥ずかしいではないですか
「仲がいいですね。リーダーが化けて出てこないことを祈っています」
サラさん。私とクロードさんの仲は普通ですよ。それからどこに『ラグロワール』のリーダーさんが、化けて出てくる話になるのですか?
「そう言えば、カイトさんが女神シルヴィア教がどうとか言っていましたが、その関連ですか? あと、リーダーさんは被害に遭われたのでしょうか?」
「いいえ、ピンピンして森で暴れていると思います。魔女さんが、気にすることではないですよ。後ろから私がリーダーを笑っているだけなので」
サラさんが言っている意味が理解できず首を傾げてしまいます。
しかし、火傷を負ったのはリーダーさんではないようで、それは主戦力を失わずに良かったというべきでしょうか。
それから、いつになったらクロードさんは私を下ろしてくれるのでしょう。
クロードさんと別行動は無理だと理解できましたので、勝手に飛んで行ったりはしませんわよ。
「クロードさん。下ろしてください。取り敢えず、レバーラの湿原の方に向かいます」
火竜とは予想外のモノがでてきたので、現場も混乱していることでしょう。これは早急に対応したほうがいいようです。
「わかった」
と言って、ケットシーの幼生を私の手のひらの上に置いて、そのまま駆け出すクロードさん。
下ろしてくださいと言いましたわよ。体力がなくても魔力があるので飛行すればいいだけですのに。
「クロードさん!」
私が文句を言おうと口を開いた頃には、冒険者ギルドの前を通り過ぎて、西門を抜けていました。
速いです。
え? 風の抵抗感が全くないのですが、結界を張っているのでしょうか? でも、魔力を使った感じではありません。
「喋ると舌を噛むかもしれないからな。あと、ケットシーを頼む」
確かに前衛として剣を振るうクロードさんより、後方支援の私がケットシーのおもりをしたほうがいいですわよね。
ですが、この状況は何か違うと思います。
そんなことを考えていると、以前にバジリスクが出現した湿地まで来ていました。
あのときはバルトさんがいたとは言え、それなりに早歩きで進みましたのに、それと比べようがないほど速く到着しました。
「ここまで来たが、その薬草とは何処にあるんだ?」
「取り敢えず、下ろしてください」
下ろしてもらわないと薬草の採取もままなりません。
やっと地面に下ろしてもらい、大きくため息を吐き出します。
こういうのは慣れませんわ。慣れる必要もないのですが、凄く恥ずかしいです。
絶対に町の人達に見られていましたわよ。
「クロードさん。私を抱えて移動するのは控えてください」
取り敢えず文句の一つも言っておかないと、今後何度もされても困りますからね。
「何故だ?」
クロードさんは、私が文句を言っている理由がかわからないようです。
「絶対に町の人達から後で色々言われてしまうではないですか!」
辺境の地で人の出入りが激しい場所ですが、異様に統率されている町なのです。
その理由が幻惑の魔女の存在なのでしょう。
だから、町の噂話は一気に広がっていくのです。その原因は、エリンさんがお客さんに喋っているということなのでしょうけど。
「別に問題ないだろう? 幻惑の魔女を抱えているわけじゃなく、妻のシルヴィアなんだからな」
恐ろしいことを言わないでくださいね。それ絶対に、迷いの霧の森に落とされますわよ。
「そうではなくて、恥ずかしいではないですか!」
「シルヴィアは可愛いな」
そう言って、私の頭を撫でだすクロードさん。
「可愛くありません!」
その手を振り切って先に進みます。
「はぁ。これはシルヴィアに、このような認識を植え付けた奴をボコればいいのか?」
なにやらブツブツとクロードさんが言っています。しかし、元夫は呪いに耐えきれていないと思われますし、兄とはもう会うつもりもありませんから、必要ないことですわ。
木の板が敷かれた湿地の上を進んでいきます。
目的地はこの湿原の更に奥にある泉です。
私は外套を羽織って両手を使えるようにケットシーをフードの中に入れていました。
今、思ったのですが、ケットシーっとはこんなによく寝る生き物なのでしょうか?
一日の殆どを寝ているように思うのです。
ケットシーの知り合いがいるというサイさんに、一度確認をしたほうがいいのかもしれません。
「今日は杖に乗らないのか?」
私が板の上をカツカツと歩いていることに、疑問を覚えたクロードさんが聞いてきました。
そうですわよね。
霧が立ち込めていて視界が悪く、数メル先の視界がやっと目視できるぐらいです。
だから、辺りは真っ白と表現してもいい具合でした。
「飛ぶのは楽でいいのですが、この辺りでも……」
欲しい薬草があると言いかけたところで、グニッと私の足は何かを踏んづけてしまいました。
足を止めて恐る恐る下を見ると、沼から出てきている人の手があるではないですか!
「湿原の魚人の手が!」
「いや、どうみても人の腕だろう」
そうですわよね。
現実逃避をしたかったのです。
私の足の下には、冒険者だろうと思われる籠手をつけた男性の腕が沼から出ていたのでした。
83話でした。読んでいただきありがとうございました。
次回は、水曜日ですかね。
よろしくお願いします。




