第79話 十五年前……私は悪くありませんわ
「今から、ラファウール魔導師長のところに行こうと思っていますので、話を通しておきましょうか?」
あの様子だと魔力造成器官が治れば、すぐに動き出しそうな感じでした。だから、話を通すぐらいはできます。
ただ実際に動いてくれるのかは、ラファウール魔導師長次第ですが。
「薬が出来上がったのか。タイミングがいい。サイザエディーロが、是非にと言っていたと伝えてほしい」
「元気になったら、王都に戻れクソジジイと言っておきなさい」
私の言葉に、サイさんと幻惑の魔女が同時に返答をしてきました。それも正反対のことを。
「お二人の伝言はお伝えしておきます」
「絶対にくるなと付け加えなさい。それから、この二人は私が監視しておくから、気にしなくていいわ」
ここに入ってくる前に出された青い蝶が、グランディーア兄妹の周りを飛んでいました。
私は知り得た情報を伝えたので、冒険者ギルドを後にします。
伝えたのは、ギルドマスターさんではありませんでしたが。
「という伝言を承りました」
私は万能薬を結界の中にいる魔導師長さんに渡しながら、サイさんと幻惑の魔女の伝言を伝えました。
これでどう動かれるかは、魔導師長さん次第です。
しかし親衛隊の方々はまだ解放されていないのか、何事もなくラファウール魔導師長との面会が叶いました。
あの方々がいらっしゃると、面倒なことになっていたと思うので良かったですわ。
直接やったのは、エルン亭の店主さんですが。
「そうか。そなたから魂を食らうものの名が出たので、吾も調べさせておった」
あら? これは、親衛隊の方々にということですか。
「流石に魂を食らうものを出現させるわけにはいかぬ」
そう言い終えて、魔導師長さんは中身を確認することなく、小瓶の中身を一気にあおりました。
あの、私としては信頼していただいて、嬉しいのです。しかし、これは魔導師長としては、軽率な行動ではないのですか?
「私が言うのもなんですが、中身を確認されなくてよろしいのですか?」
「むっ……あの若作りババァは好かぬが、魔女の力は疑っておらぬ」
これは個人的に、幻惑の魔女が魔導師長さんに突っかかっているということですか。
しかし魔法を扱う者として、魔女の力は認めていると。
「何が血の力であるか! ズルいではないか! 吾は幼少の頃よりコツコツと勉学に励んでいたというのに、魔女だからという理由で吾が積み重ねた知識を一瞬で得るなど、ズルすぎるであろう!」
……凄く嫉妬心を向けられています。
そう、言われましても魔女ですからとしか言いようがありません。
「あと魔女は嘘はつかぬ。つく必要がないとも言えるのだが」
魔女は個人により能力が違うのは明白です。嘘を言う必要がないというより、己の限界を知っているので、いらないことを言わないということですわね。
例えば、私が先陣を切って戦いますということです。
そんなことは無理なので絶対に言葉にしません。それに己を偽る時間があるなら、自分の好きなことに費やしたほうがいいというのが、魔女の性というものですわね。
「ああ、それで人工的に作られた魂食いであったな。確か三十年ほど前に同じことが起きておった」
もしかすると、魔導師長さんも関わりがあった事件だったのでしょうか?
「そのときは結局術の大元は見つけられなんだ。吾も未熟だったことは認めよう。しかし精霊術であるか。精霊術の厄介なところは強力で、効果範囲が広いことである。そして感知されにくい」
話している魔導師長さんの身体に、魔力が巡り始めました。万能薬が、魔力造成器官を回復したようです。
「そうなってくると、この町まで効果範囲に入っている可能性があるかもしれぬ」
「何の魔法が施行されていると思われているのでしょう?」
「そうであるな。認識阻害はされておるだろう。先程の話にあった精神操作であるか」
それはあまりにも危険な話です。それだとこの辺境都市の住人が、精神操作されている話になってくるではないですか。
「あの……住人に対しての精神操作とは、規模が大きすぎるのでは?」
「いや、なに。術の設置場所に近づくなという単純なことでよい。恐らくここ十年ほどではないのかと考えられる」
ん? 十年? その基準はどういう意味でしょうか?
「どうしてでしょうか?」
「人工的に魂食いを作り出そうとすれば、高魔力の素材が必要になる。確か十五年ほど前か。それぐらいにドラゴンの素材が市場に流れたことがあった」
ん? 十五年前?
「滅多にでない質がいい、ドラゴンの素材であったので、手に入れようと色々つてを使って集めたものである。だが、吾でも一部しか手に入れられなかったゆえ、術者が手に入れていてもおかしくはない」
あ……もしかして……
「シルヴィア。あの肉、十五年ものだと言っていなかったか?」
背後から、クロードさんの声が聞こえてきました。
はい、十五年もののドラゴンのお肉でした。
確かに私はドラゴンの毒が欲しかったので、必要な量以外の素材は全て売ってしまいました。
でも、そんなにドラゴンは珍しいものではありませんわよ。
「あれほどの高魔力の飛竜は、この大陸にはおらぬゆえ、いったいどこから流れてきたのか不思議であったな」
「ドラゴンなら、ファエラ大陸にはいっぱいいますわ」
「そこは魔物が異常繁殖した大陸であるな」
「それは俺も聞いたことがある。人が住む場所じゃないとな」
二人からの視線が痛いですわ。でも先代の禁厭の魔女が住んでいたので、戦えなくても住めますわよ。
79話でした。読んでいただきありがとうございます。
次回は……お休みがないので、週の半ばに投稿できればと思っていますが、投稿できなかったら、日曜日になります。