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第73話 いいから飲みなさい

「やっぱり、結婚退職って夢よね」


 私はエリアーナさんの向かい側で、朝食代わりのホールケーキを独り占めして食べています。

 これは、ここ最近の楽しみなのですからあげませんわよ。


 それにしても美味しすぎます。朝から贅沢ですわ。


「聞いているの?」

「聞いていますが、結婚に希望が持てて若くていいわねと思っていますわ」

「ああ、アレが旦那とかあり得ないわ」


 エリアーナさんからアレ呼ばわりされたクロードさんは、小さなキッチンで大きすぎる平鍋を洗っています。後で中庭で洗うと言いましたのに。


「違いますわ。貴族の結婚には望まない結婚もあるというものですよ」

「あら? 私は平民だから関係ないのよ」


 そうでしたか。それなら、いらないお節介ですわね。


「家が貧乏の割に兄妹が多くて、私が稼がないと駄目なのよ。だから金持ちのいい男を捕まえて、結婚退職をするのよ」


 言っていることが矛盾していますわ。

 それだと、血縁がない妻の家族も夫が養うことになってしまいます。

 それほどの金持ちだと、貴族位を持たないと無理ではないのでしょうか?


 あとは、大手の商会の若旦那とかですか?


「どうして結婚退職にこだわるの?」


 そこに拘らなければ、いいと思うのです。結婚しても働く方もいらっしゃると思いますから。


神官騎士(アレアリエーレ)の職って、お金はいいのだけど突然解雇されるのよ。昨日まで普通に来ていた上官が解雇されたからと、小隊長に繰り上がったのよ。お陰で勇者討伐戦に行くことになってしまった。あれは神官長を恨んでいいと思う」

「解雇ですか?」

「そうよ! 同期も数年で解雇されたのよ。家に行っても家族ごと引っ越しているし、どこに行ったのかぐらい普通は連絡するでしょ」


 これって、帝国は相当ヤバいのではないのかしら? そこに疑問を持たないの?

 それとも、持たないように教育されているのかしら?


「その……先程の白……御使様という存在を召喚するのは頻繁に行われていたのかしら?」

「毎日とかはしないわよ」


 そうよね。きっと特別な日で年に一度ぐらいですわね。


「毎週の礼拝の日だけよ」

「多いですわ!」


 毎週、意味もなくパフォーマンスのために喚び出されていたのですか? あの霊獣白羽(フェアメージュ)が。


「そう? でも神官長が私を褒めてくれるのよ。『エリアーナ君。君は素晴らしい。神に愛された存在です』って!」


 それはエリアーナさんの聖気が、ダダ漏れだからではないのですか?

 霊獣白羽(フェアメージュ)がその聖気だけで満足してしまっただけでは? もしくは、ものすごく寿命が長いかですね。


 そう言えば、生命力なのか寿命なのかどちらが取られるのでしょうか?

 寿命でも生命力でも抜き取られれば、死期が近づくと弱っていきますのに。

 上官に変化は見られなかったということも不思議なものですわね。


「あの? なにか毎日日課にされていたことはありますか?」


 エリアーナさんが日課にされていることがあるのなら、そこに違いがでてきているのでしょう。


「ここは帝国じゃないからいいよね。実は毎日こっそりと聖水を飲んでいたの。貴重だと言われていたけどね」

「聖水……」

「だって、平民の私がお貴族様と肩を並べて戦えるはずないじゃない? いい男を捕まえるには、それなりに名が挙がらないと無理よね」

「それですわ!」


 私は空間から壺を出して蓋を開けて、小さめのコップに透明な液体を少し入れます。


「飲みなさい」

「え? なに? その怪しいツボ」

「いいから飲みなさい。貴女が解雇されなかったのは、聖水を飲んでいたからよ」


 これで、エリアーナさんから漏れ出ている聖気の多さにも納得できます。

 魔女の私の皮膚が焼けるほどの多さ。

 そして霊獣白羽(フェアメージュ)が対価で求めた命の代わりになる力の根源。


「少ないんじゃない? いつも大きめのコップで飲んでいたけど?」

「魔女が作った聖水だから効き目は十分よ」

「え? 魔女って聖水を作れる……」

「いいから飲みなさい」


 凄く嫌そうな顔をしているエリアーナさんにコップを押し付けて、しゃべっている口から聖水を流し込みます。


「うぐっ!」


 ビクッと痙攣して、床に倒れ込むエリアーナさん。

 飲めて良かったですわ。これでサイさんに言われて喚び出した対価の分は補充されたでしょう。


「シルヴィア。何故、聖水を飲んで痙攣しているんだ? その壺を間違えていないか?」


 クロードさんは、聖水を飲んで痙攣しているエリアーナさんと私が出した壺に視線を向けています。

 そんな怪しい壺を見る目で見なくても大丈夫ですわよ。


「何を言っているのですか? 聖水は神からのギフトとか言われているではないですか。力の付与には肉体の改変が必要ですから、こうなりますよね?」


 床で白目を剥きながら、うめき声を上げ痙攣しているエリアーナさんを指し示します。

 しかし毎日飲んでいたというエリアーナさんを尊敬しますわ。

 私はきっと耐えられません。こんな意識を失うほどの激痛なんて。


「いや、普通はこうはならないぞ!」


 おかしいですわね。

 聖水の作り方なんて、カリスを冷水で洗って一晩寝かせるという単純な作り方です。

 どこに間違う要素があるのでしょう?



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― 新着の感想 ―
聖水で補充出来てたから無事だったってことは寿命系ではなくて生命力系だったか、いわゆる取り殺される系の衰弱死か 所で、御家族は何処に引っ越しされたのでしょうね?
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