第50話 魔女が作った料理
「これはなにかと、聞いても良いでしょうか?」
私が人の背よりも大きな鍋を、鈍器に座りながら混ぜていると、カイトさんから声をかけられました。
下をみれば、私を見上げるカイトさんとレイラさんと視線が合います。
どうやら、周辺の調査が終わったようですね。
「クロードさんが、料理を食べたいと希望されたので、今作っているところです」
「料理? 魔女が薬を作っているみたい」
確かに薬を作るときに使う鍋です。しかし、綺麗に洗ってあるので問題はないですよ。
「魔女の店主。このような場所でその量の料理など、ゴミになるようなもの」
……下から見ているのに、よく中身がどれほど入っているかわかりますわね。
大量に薬を作るための鍋の六割程が満たされたスープを混ぜているのです。普通であれば食べきれません。
「ほぼお肉なので大丈夫だと思いますわ」
はい。下味をつけたお肉をベースに香草をいれただけのシンプルなスープです。スープと言うよりは、鳥肉の煮込み料理と言い換えたほうがいいでしょうね。
「何が大丈夫なのかはわかりませんが、聖騎士殿は何をしているのですか?」
鍋を挟んだ反対側を見下ろすと、先程倒した鳥の肉を直火で焼いているクロードさんがいます。
「お肉を焼いていますね」
すると呆れた声が聞こえてきました。
「誰が食べるのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「クロードさんです」
「その鍋の中身は?」
「クロードさんのお腹に収まると思います」
機嫌が戻ったクロードさんは、嬉々として魔鳥を解体して、お金になる魔石そっちのけで、お肉の仕分けをしていましたからね。
お昼ご飯が足りなかったのかもしれません。
今、思いましたら、燃費効率が悪いですわね。聖獣使いの特徴と言われれば、仕方がないところなのでしょうが。
「魔女さんは何を食べているの? 美味しそう」
私はスープを混ぜながら先程買ってきたパン屋のシュークリームを食べています。
外がふわふわの生地に覆われて、中から甘くて濃厚なクリームがむにっと出てきて、口の中を蹂躙していくのです。
小腹を満たすには最適な食べ物です。一個ではなく百個ぐらい買っておくべきでした。
「中央地区にあるレメーリアのシュークリームよ。一個しかないし、ケーキは私のものだから駄目よ」
「甘いものに目がないことは知っている。兄さん。私もアレを食べたい」
「良いですよ。今回の仕事が終われば行きましょうか」
兄におねだりする妹。それを受け入れる兄。本当に仲が良い兄妹ですわね。
料理ができあがったので、空間からお皿を取り出して1人分づつ分けていきます。あとはおかわり自由ですわ。
「できましたので、いただきましょう」
「このような場所でも妻の料理を食べれるなんて幸せだな」
え? クロードさんが料理を食べたいと言ったのではないのですか。てっきり、私が作った効力を期待してのことだと思ったのですけど……。
そしてグランディーア兄妹の前にも差し出します。
「我々の分もいいのですか?」
「ロックバードって初めて食べる」
受け取ろうとする二人の手が出てきたところで、あっと声を上げてお皿を引き下げました。
「一つ忠告がありました」
「忠告ですか?」
「はい。この料理を食べると、体力上昇、攻撃力上昇、空間認識付与。鷹の目付与の効果が一時的に与えられます」
「「……」」
なんです? その何を言っているのかわからないという顔は?
「継続時間は丸一日です。今からガンディス渓谷に行くので必要かと、この料理にしたのですが、食べる食べないはお二人で決めてくださいね」
グランディーア兄妹の前にお皿を置いて、私はクロードさんの元に向かいます。クロードさんは、既に焼いたお肉を食べていました。
「シルヴィア。さっき行っていた効果って本当か?」
「ええ、本当ですよ」
禁厭の魔女が作った料理ですからね。しかし、殆ど手が込んでいない料理ですので、これぐらいですね。
「持っていない能力を付与するって凄いじゃないか!」
「そうですか? 元々岩大鷲が持っていた能力ですよ?」
その素材が持っている効力を最大限に引き出すのが、禁厭の魔女というものです。大したことはないですわ。
「ガンディス渓谷へ行くなら、必要かと思いましてね。ちょうど岩大鷲が襲来してきてよかったですわ」
「美味い! シルヴィア。これただ焼いた肉より凄くおいしいぞ」
素材を最大限に引き出したのです。それはお肉も美味しくなることでしょう。
だから以前、ドラゴンの肉は私が焼きましょうと言ったのですよ。
しかし、これを口にすると私がお肉を焼くかかりになりそうなので、言いませんわ。
普段から能力上昇しているクロードさんって危険過ぎますもの。
「お口にあって良かったですわ」
私はそれを言わずに、にこりと笑みを浮かべて鳥のお肉を口にしたのでした。
あら? 本当に岩大鷲っておいしいのですね。




