第49話 チームで行動するって難しいですわ
昨日とは打って変わって、涼やかな風が吹き抜ける森の中を進んでいます。
昨日の大量の魔物の進行により獣道が広がり、小枝や草が蹂躙されとても進みやすい道になっていました。
「昨日の魔物の死骸はどうしだんだ? 綺麗サッパリとなくなっているが?」
歩きやすくなった獣道を進むクロードさんから疑問が出てきました。
「動かぬ獲物が転がっているのです。皆がこぞって己の物にしようとしますよね?」
「新人たちからすれば、森の中程にいる魔物には手がでない。いわゆるお金がその辺りに転がっているようなもの」
自分たちの実力では、森の浅瀬でしか活動ができない人たちからすれば、美味しい話です。
何の努力をしなくても、森の中腹にいる魔物の素材が手に入るのですから。
「ふーん。魔物が食ったのかと思ったが、素材として解体されたのか」
「聖騎士殿が権利を主張されても、もはや遅いですよ」
「いや。もしかしたら、アレほどの量の魔物を食べるものを引き寄せてしまったのかと、一瞬頭をよぎっただけだ」
確かに、魔物が弱い魔物を襲うことはあります。
「グエンデラ平原の魔物が森の方にまで出てきたのでしたら、この森に生息する殆どの魔物は姿を潜めて、当分の間は出てこないでしょうね」
まぁ、そうでもない魔物はいるようですが。
「上空からね」
私が光がよく入るようになった、木々を見上げながら言います。
昨日までが鬱蒼と茂った森と表現したほうがいい場所でしたが、今は頭上にある太陽の光が地上に落ちるほどです。
私は主語もなくただ上空と言っただけで、クロードさんは剣を抜いて、何もない上に向って振るいました。
すると巨大な鳥が木の枝を降りながら落ちてきます。
見た目ではどこも外傷がないので、もしかして魔力断ちというものなのでしょうか?
「シルヴィア。この鳥は美味いか?」
「食べたことはないですわね」
岩大鷲は森の方まで普通はきませんもの。バジリスクと同じくグエンデラ平原の岩場を住処としている魔鳥なので、素材は市場では滅多にでません。
「でもこのヴァングルフは魔素が豊富なので、基本的においしいものが多いですわね」
「あの……」
私が話しているとレイラさんが声をかけてきました。どうされたのでしょう?
「私が索敵をするはず」
「ああ、ごめんなさい。レイラさんの仕事でしたわよね?」
私はいつも一人で、森の中を進んでいるので、チームで動いているというのが、頭の中から消えていました。
駄目ですわね。
「そうじゃない。この魔鳥は私の索敵に引っかからなかった。私はわからなかったのに、どうして魔女さんはわかった?」
ん? どうしてと言われても困りますわ。
そもそも単独で行動することが多い私には、普通の基準がわかりませんわ。
それに私が声を上げて、直ぐにクロードさんが動いたということは、クロードさんもわかっていたと思いますもの。
その辺りを聞こうかと、クロードさんの方に視線を向ければ、岩大鷲を、収納袋に入れようとしているところでした。
それ、食べる気なのですね。
しかし、どう答えたらいいのかしら?
「レイラ。魔女の店主とレイラを比べる方が間違っているというものです」
「しかし、兄さん」
「レイラは魔女の店主のように常に浮遊をし続けられるのですか?」
はい。私は武器である鈍器を横にして、その上に腰をおろして宙に浮いて移動しているのです。
まぁ、森の中を移動するには、とても便利というだけですわ。
「そう言われたら無理」
「魔女は人のかたちをしていても、魔の者と……」
「おい! それ以上言うと、その首を刎ねるぞ」
岩大鷲を回収し終わったクロードさんがいつの間にか戻ってきました。それも殺気をまとってです。
以前もいいましたが、 カイトさんは嘘は言ってはいませんよ。
「クロードさん。回収が終わったのでしたら先に進みましょう」
「シルヴィア。これは言っておきたい。カイトと言ったか。シルヴィアは俺の妻だ。それを魔女というだけで、差別をするなら次は殺す」
「はぁ。クロードさん、言い過ぎです。カイトさんは間違ってはいませんよ。ほら先に進みましょう」
というか。妻だとか堂々と言わないで欲しいわ。なんだかこそばゆいです。それにただの契約婚だと言っているではありませんか。
「聖騎士殿。気に触ったのでしたら謝罪します。しかし、我々も似たような者ですので、褒め言葉のようなものですよ」
「そう。人じゃない者は、その能力に飛び抜けている。私達は水の中では最強。人とは違う」
はい。存じております。ですが、人でもなく海の精霊のニンフでもない。どこの種族にも属さない二人だからこそ、褒め言葉という認識になっているのでしょう。
「クロードさん。カイトさんは嘘は言っていないと以前もいいました。私は魔女です。それ以上でも以下でもありません」
人の世界で暮らしていけば、色々言われるのは当たり前です。そしてお二人もまた、流れに流れて、この辺境の地にたどり着いたのです。
人ではないモノが人の世界で生きるのは大変ですのよ。
「クロードさん。もう少し進めば『ヴァンウルフ』と遭遇したところです。先程の鳥でも焼きましょうか?」
ギルドからの依頼で、お二人は周辺の調査をしなければなりませんからね。多少の時間がありますから、クロードさんのご機嫌取りでもしておきましょう。
雰囲気が悪いまま進むのは、危険ですもの。




