第45話 幻惑の魔女への腹いせだった
「だいたい、あの若作りババァが気に入らん。魔女だからというだけで、千年以上も生きるのが気に入らん。吾が何年もかけて研究してきたことを、知っているという一言で終わらせるしまつ」
ただの幻惑の魔女への嫉妬でした。
魔法を極めても魔法使いは、魔女のいただきに立てることはありません。
魔女は魔法を極めるために、血で知を受け継ぐのです。だからこその魔女なのです。
「今回も、時間凍結の魔法の研究を見せれば、『ああ、それね』と言って、簡単に魔法を施行しやがったんだ!」
まぁ、そうでしょうね。今では空間魔法を使う人は少なくなりましたからね。それにアンラヴェラータ魔導王国の文字が読めないとなると、今では使える人はいないのでしょう。
そしてラファウール魔導師長はグチグチと幻惑の魔女への嫉妬心を吐き出していました。
それを私とクロードさんは黙って聞いています。
ご老人の話には付き合い慣れていますから、相槌を打ちながら、これからのことを考えて行きます。
まだ足りない薬草があるので、このあと採取に行かないとなりません。それは今問題があるだろうと思われているグエンデラ平原にです。
あ、そう言えば、この人であればわかるかもしれません。
「魔導師長様。わからないことがあって、お尋ねしたいことがあるのですが?」
「魔女が吾に聞きたいこととは、良いぞ何でも聞くがよい」
機嫌よく受け答えしてくれるラファウール魔導師長。たぶん、頼られることが好きな方なのでしょう。
私は衣服のポケットから出すようにしてあるモノを取り出しました。透明な結界で覆った陶器の破片です。
「これに見覚えはありませんか?」
「何かの破片であるか。全貌がわからない故に……さて……もう少しこちらに持ってくれるか」
結界に包んだまま、渡しました。
「なんと! この魔力食いの香が満ちた空間で結界を保てるとは」
「はぁ、香の阻害をまとわせているので……」
私が魔力食いの香の空間の中で普通にしているのと同じです。クロードさんは別の方法を用いているようですが、あとで聞いてその知識えたいですね。
「ぐぐぐっ。何故に魔女という存在というものは……」
「それでご存知でしたら、無知な私に教えて欲しいのです」
「むっ!そうかそうか。このラファウールが教えてやろう」
そう言って機嫌が戻ったラファウール魔導師長は陶器の破片を観察しだしました。
「シルヴィア。人の扱いが上手いな」
クロードさんがコソコソと話してきました。領主様の代わりにいろんな方々と話をすることがありましたので、ご老人方との話はなれています。
しかし、ファインバール伯爵領であったことは、今の私には関係のないこと。
「これでも薬屋の店主ですから、接客は得意です。あと、このあと薬草を摂りにいきます」
「ヴァングルフにか?」
「ええ」
「わかった」
するとパチンと指を弾く音が聞こえました。そちらの方に視線を向けると、なにやら満足そうな笑みを浮かべているラファウール魔導師長がいました。
「これは魂食いを造作するものであるな」
その言葉に私の中にある知識が呼び起こされました。
魂食い。本来ならば、寄生した肉体の魂を食う肉体を持たない霊体の魔物です。
しかしそれを人工的に作り上げる事ができる術があります。
それが……
「『一魂の器の呪』である」
これは禁呪の一つになります。
魂食いが作られた経緯は、以上繁殖した魔物を簡単に倒すすべはないのかと、その昔の魔法使いが作り上げたものです。
「ふむ。幾度かこの手の呪は見たことがあるが、欠片しかなかったのか?」
「欠片しか出てきませんでした。となると、魂食いではなく……」
「魂魄複合体の創造であるか。これはあまりよろしくない」
ラファウール魔導師長が懸念しているように、これは放置すると大変なことになります。
「なぁ。ソウルイーターはわかるが、キマイラと言うのは人工的に作られた魔物という意味でいいのか?」
聖騎士モードから解除されたクロードさんが聞いてきました。
大まかな意味ではあっているのですが、私が確保した陶器の破片が問題なのです。
「ソウルイーターは迷宮などにいるからわかるだろうし、キマイラを大きく分類すれば、複数に分かれることになる」
はい。一般的には獅子とヤギとヘビの肉体を混合させたものです。しかし魂魄融合体ということは肉体では魂の融合。
「その一つが、あらゆる魂を取り込み続ける厄災となりうるキマイラである」
本日は、コミックシーモア様から先行配信されます!
https://www.cmoa.jp/title/1101455605/vol/1/
本当にまだ物語は始まったばかりで、聖女さんにたどり着くには程遠いです。
電子書籍共々、応援していただけると嬉しく思います。




