第44話 青二才が吾に口答えするでない!
「コレが禁厭の魔女か。ふん! 胸糞悪い魔女などに頼るのは、大いに癪だが、この吾を治す事を許可してやろう」
はい。サイさんに示された住所と全く同じ場所にカイトさんに案内されました。
貴族が泊まるホテルと言う感じの高級ホテルです。
そして待ってましたと言わんばかりにホテルの従業員の方に案内された部屋には、一人の老人がベッドに横になっています。
白髪に白いひげを蓄えた老人が不機嫌そうに、こちらに視線を向けていました。
その老人がいる室内は魔力食いと言われる『デレニエル草』の香の煙で満たされていました。
魔力食いの香。それに満たされた空間には大気にあるはずの魔素は存在せず、普通の人はその空間で居続けるのは困難です。ですから、グランディーア兄妹は部屋の前まで案内すると『魔女の店主。此処から先は生き地獄です。ご武運を』と言って帰って行きました。
生き地獄。確かにそうでしょうね。
人は大気の魔素は異物ですが、取り込んでも普通はなにも問題は起きません。
ですが、その魔素も排除した空間は、生きている人から魔力を奪っていく空間になっています。
デレニエル草は猛毒指定の毒草です。しかし、このように魔力造成器官が不具合を起こした方にとっては命綱になっています。
「早う治療せい!」
「申し訳ございませんが、サイさんからご依頼を受けたのが昨日のため、まだ用意が整っておりません」
「誰が口答えしていいと言った! 穢らわしい魔女が!」
うーん。名を名乗ることがありませんでしたので、なんとなくそのような感じはしておりました。
しかし、まだ『ネプラカリス』を使えるようにしているところなのです。魔力不全の治療の薬はあと二日は欲しいです。
「ご老人。人に物を頼む態度ではありませんね。我々はここで帰ってもいいのですよ」
そこに何故か聖騎士モードのクロードさんが口を出してきました。それ、凄く怒られるやつです。
「誰が死にかけのジジイだと!」
そこまで言っていませんわ。その言葉を言った人はここには居ません。
「青二才が吾に口答えするでない! 吾はこの国を守護してきた者ぞ!」
ラファウール魔導師長の名は、王都から離れたファインバール伯爵領でもよく耳にしていました。
王都全体を覆う結界の魔道具を作っただとか、どこどこで暴れていた魔物を倒したとか、王太子殿下の命を守っただとか、守護してきたとは誇張ではなく事実と言っていいでしょう。
「さて、私はアンドラーゼ聖王国に居た者ですので、この国の魔導師に頭を下げる意味はないですね。あなたがこのまま死のうが生きようが、全く関係のない話です」
クロードさん! そんなことを言っては色々問題が!
ほら! 凄くプルプルして顔が真っ赤になってしまっているではないですか。怒りすぎて血管がぷっつとイッてしまうかもしれません。
「ですが、プライドもなにもかも捨てて禁厭の魔女に頭を下げるのであれば、先程の非礼を忘れて差し上げましょう」
「誰が魔女になど!」
「それをあなたは『聖女様』におっしゃっていましたね。おかげで機嫌が治られるまでとても大変でした。ええ、とてもとても……」
凄く嫌味が入っています。
聖女さんの機嫌が治るまで、何があったのかは聞かないでおきましょう。
「ん? お前、まさか! 聖騎士ハイヴァザールか! 何故、この国にいる!」
流石クロードさん。有名人ですね。ラファウール魔導師長に名前を覚えられるほどとはすごいです。
「私の主が禁厭の魔女だからですね。主をけなされた聖獣は、今にもあなたの首に食らいつくことでしょう」
「むむ……聖騎士が魔女を主になど……聖獣が認めたと? ありえぬ。そんなことは天地がひっくり返ってもありえぬ。聖が魔に仕える? それは魔女の使い魔として天使がいるようなもの。いや、その女が魔女ではなく額の魔石が偽物という事もありえる。だが……」
なにやらブツブツと考えごとをつぶやき始められました。
えっとこれはどうすればいいのでしょうか?
「ふむ。事実が目の前にある以上、認めなければならない。それに聖騎士を敵にしても吾の利にはならない。禁厭の魔女。あとどれぐらいかかる」
え? 今までの態度は何だったのかと言いうぐらいに、普通に話してこられました。
「先に非礼を詫びてもらえますかね?」
「クロードさん。そこまでは……」
「はぁ、悪かった。これで良いか。だいたい権力を振り回す女は、勘違いしている者が多い。先にその鼻っ柱を折っておくことに限る」
それは誰のことですか? これ絶対に過去に何かあった腹いせも入っていませんか?
私は何も権力というモノを持っていませんわ。
「それは大いに賛同できます」
クロードさん。それ聖女さんのことですよね。




