第42話 外で寝てはいけない
床に横たわる金属の鎧たち。
勝負は一瞬でした。
クロードさんは、腰に佩いている剣を抜くこともなく、一人ひとり拳で黙らせていったのです。
ええ、誰もが一撃で床に昏倒していました。
名のしれた聖騎士というところでしょう。
「流石、魔女様の旦那ですね。サイザエディーロ様もそうですが、それぐらいでないと魔女様の旦那は務まらないのでしょうね」
床に転がっている鎧の足を持って引きずりながら外に運び出している店主。
私は重そうな鎧を着た人の片足づつ持って、人を二人引きずっている店主の方がすごいと思います。
それ、総重量いくらになるのでしょう。
「外に出しておくだけでいいのか?」
「ええ。この辺りは物騒ですからね。外で寝ていると身ぐるみを剥がされて、風邪を引いてしまいますからね」
店主。にこやかに話していますが、風邪どころの話ではないと思います。
「おい! ここに金払いの悪い客がいるぞ!」
「私の屋台を壊した奴らじゃない!」
「このヤロー! 金は払ってもらうからな!」
エルン亭の外で人だかりができています。これでは当分の間、外にはでられそうにないですわね。
「本当に物騒だな」
「普通は領兵が巡回していますから、こんなことにはなりませんよ」
「聖騎士の旦那。いつもは出さない熟成肉です。今回のお礼です」
肉山盛り定食の横に置かれる焼かれた肉の塊。
「おお! 熟成肉とはなんだ!」
そう言いながら肉の塊にかぶりつくクロードさん。本当にお肉が好きですね。
「魔女の店主。ここにいたのですか」
そこにカイトさんの声が聞こえてきました。視線を上げれば、クロードさんの背後に双子のようにそっくりな青い髪の兄妹がこちらを見ていました。
「約束まで時間があるから、そのあたりをフラフラしていたら、プライドの塊だけの物体が倒れているではないですか」
「兄さん。魔導師長の親衛隊の人たちよ」
「レイラ。いくら煩わしくても、下着だけで外に転がすという豪胆さは、称賛にあたいすると思いませんか?」
「兄さん。たぶん、それはさっきすれ違った鎧を持っていた人たちがやったのだと思う」
相変わらずの感じのグランディーア兄妹です。物腰は柔らかいのに、その口から出てくる言葉に何故かトゲがある兄のカイトさん。
その背後からフォローするレイラさん。
仲が良い兄妹です。
「宿屋の店主。飲み物を出してくれませんか? 今日は暑いですからね」
「兄さんの暑がりはいつものこと」
海の精霊の気質なのか、お二人は夏が苦手なようです。まだ、過ごしやすい気候ですわよ。
そして何故か近くのテーブルを引っ張ってきて、席につく兄妹。
「魔女の店主。実は言ってはいませんでしたが、魔女の店主に会いたいと言っていたのは死にかけのジジイなのですよ」
「ラファウール魔導師長よ。兄さん」
コソコソと話している風だけど、声が大きいので全く内緒話になっていないカイトさんから、今日お会いする人の情報がだされました。
なんとなくわかっていました。
王都から要人の護衛をしながらもとってきたグランディーア兄妹。
サイさんからの依頼人が到着したという情報。
そして幻惑の魔女が用意した国王陛下の蝋印が押された封筒。
面倒な感じが満載でした。
「表の現状は、流石の私でも感銘を受けましたね」
「問題ということ」
確かに依頼人の親衛隊とか言っている護衛をボコったのは問題かもしれませんが、下着姿ですか? そのようになったのは、外で寝ていたからなので、関係ありませんわ。
「おい、その下着姿の変態共が領兵に回収されているぞ」
クロードさんの言葉に、店の窓から外を見ると、荷馬車に酔っ払いでも積み込むように乗せられている人たちがいます。
きっと誰かが酔っ払いが暴れているとでも領兵に通報したのかもしれません。
「行くなら今じゃないのか? 身分証もないだろうから、解放されるまで時間がかかるだろう」
そうですわね。親衛隊という人たちとモメたとなると、話が拗れそうですものね。
ですが、私は目の前の白くキラキラしたものに視線を落とします。
「『あいすくりーむ』を食べてからでいいですか?」
「今日は暑いですからね。涼んでから動きたいですね」
「俺はまだ肉を食べている途中だから構わない」
「皆、自由ね。エリンさん。氷をください」
「はーい! ジョッキいっぱいの氷ね〜!」
白い『あいすくりーむ』を堪能する私。
熟成肉に舌鼓を打つクロードさん。
冷たい紅茶を飲むカイトさん。
そして、ジョッキに満たされた氷をバリバリと食べるレイラさん。
ゆっくりとした昼の時間が過ぎていったのでした。
本日、第41話と第42話投稿でした
読んでいただきありがとうございます。
来週は、日曜日まで投稿できるかわかりませんので、先に2話投稿させていただいました。
ということで、次回は日曜日には投稿します。




