第40話 肉食の聖獣の契約者って大変ですね
「魔女さん。いらっしゃいませ~」
チリンとベルを鳴らしながらエルン亭に入っていきます。
「聖騎士さんもいらっしゃいませ~。空いている席にどうぞ」
エリンさんの元気な声が、お昼前のまだ客が少ない店内に響きわたります。
入口近くのテーブル席に座りました。少し時間が空いたので、エルン亭で食事を取ってから、冒険者ギルドに向かうことにしたのです。
「なんか今日は、騒がしいのよ」
そう言いながら、近くにある椅子をひっぱってきて、同じテーブルにつくエリンさん。
暇なときはこうやっておしゃべりという情報を私にくれるのです。
「騒がしいのですか? 今日もではなくて?」
私にとっては、毎日騒がしいと思っています。ここは辺境の地ですが、多くの人が集まっている場所です。
毎日がお祭り騒ぎかと思うほど、活気にみちているのです。
「物々しく武装した人たちがウロウロしているっていうの」
「冒険者の人ではなくて?」
「冒険者たちは冒険者たちの情報網があるらしくて、別のところから人が来ても、以前どこに居た冒険者かわかるらしいのよ。でもどうも国の騎士じゃないのかという話」
国? レイアール国の騎士ですか? もしかして、サイさんの知り合いという方たちでしょうか?
「でも、何かがあったわけじゃないのでしょう?」
「我が物顔でいるらしくて、商品のお金を払ってくれないとか言っているお客さんがいたのよね」
どういう状況なのかしら?
品物を購入するのに、金銭感覚がおかしい人は一人知っていますが、品物に対価か必要だと知らない騎士って意味がわからないわ。
国を背負う騎士がそんな横暴なことをするかしら? ……もしかして面倒な人を押し付けたというのは、これも含まれているとかいいませんわよね? 幻惑の魔女。
「あ……できたみたい。待ってて」
できあがった料理を奥に取りに行くエリンさん。
と同時に店の入店のベルがなりました。
「いらっしゃいませ~。空いている席にどうぞ〜」
いつも通りのエリンさんの対応です。
ここには常連のお客さんしか来ませんから。
旅行客は中央区や北地区の方に行きますからね。南地区に来ようというのは深淵の森『ヴァングルフ』に興味がある者ぐらいでしょう。
「あ? ここの店は、客に席の案内もしないのか?」
そう言って入ってきたのは、銀色の鎧を身に着けて、重そうなマントを纏っている人たちです。
それでフルフェイスでも被っているなら、要人の護衛かと思いますが、素顔を晒して頭部が無防備になっていました。
「はい。この店はしがない下町の食堂ですので、席は空いているところに座ってもらっています」
初めて店を訪れた客の対応をエリンさんがしています。私のときもそうでしたが、とても硬い口調で丁寧な言葉づかいになっていました。
「ちょうどいいですね。その料理を持ってきなさい」
空いている奥の席を指しながら言う、騎士っぽい人。その姿を見た瞬間、今まで食事を楽しんでいた常連客の人たちがテーブルにお金を置いて店を後にしていっています。
その常連客の一人が私達に視線で外を示しましたので、早く出るようにということでしょう。
そうですか。この人たちが問題の方々ですか。
「申し訳ございません。先に注文されたお客様が頼まれたものですので、少々お待ち下さい」
エリンさんは堂々とそう言って、私たちのテーブルに料理を置いてくれます。
「エリンさん。私は別にいいのよ」
「ああいうのは人数分いっぺんに出さないと文句をいうからいいのよ」
私とエリンさんがコソコソ話していると、早くしろという声が聞こえてきました。
確かに五人入店してきて、食事が二つしか用意できないと色々言われそうですわね。流石に長年ウエイトレスをしているだけはあります。
「この店のウエイトレスは肝が据わっているな」
クロードさんがエリンさんの背中を感心するように見ていました。
「まぁ、冒険者同士が喧嘩をしだしたら、箒をもって店から出るように言うぐらいですからね」
「それはすごいな」
それぐらいでなければ、ここでは働けないのかもしれません。ええ、店主とエリンさんしか食堂では見ませんから。
しかし、クロードさん。朝から鳥を食べて、更にお肉を食べて、おやつ代わりにサンドイッチを食べたにも関わらず、まだお肉大盛りの昼食を食べるのですか?
「クロードさん。もしかして、聖騎士って聖獣の分まで食べるとかいいます?」
「流石、シルヴィアだ。魔女の知識って侮れないな。肉食の聖獣だと仲間内でも、食事の量が半端なくて引かれるのが当たり前なんだけどな」
いいえ、私は完全に引いていますよ。
「こうやって妻に理解されるって幸せだなぁ」
異常な食欲の理由が解明。
腹の中に空腹の獣を飼っていたようですw




