第31話 ボンキュッボンになれるのでは!
色々ありましたが、なんとか家までもどってきました。
私は今日採取したモノの下処理をするべく魔女の庭に行きます。
「なんでまだ明るいんだ?」
澄み渡った青い空。流れる白い雲。
庭に流れる小川に大きな籠を入れて、採ってきた葉っぱを入れます。
不純物を洗い流すためです。
「何を言っておる。朝だからに決まっておるじゃろう」
「は? 夜だろう?」
流れる小川の水は冷たいですが、その中に膝まで入り、次々と洗っていきます。
「その鳥は何じゃ?」
「『ネプラカリス』の『ネプラ』の方だ」
「何じゃ。出涸らしか」
「シルヴィアも言っていたが出涸らしってなんだ?」
不純物を取り除けば、小川から上げて大きな壺に入れて二晩寝かせておきます。
これで下処理は終わりです。
「出涸らしは出涸らしなのじゃ!」
「何故、またここに来ているのです? エルフの御方」
そうなのです。ここに何故か金髪碧眼の十六歳ぐらいの少女がいるのです。
今朝、服の見本冊子を渡して、帰ってもらったはずのエルフ族の少女です。
「うむ。こっちとこっち。どちらが良いじゃろうか?」
私が渡した見本冊子のページをめくりながら言うエルフ族の少女。どれも際どいラインのドレスですわ。
背中が凄く空いているか。胸の布地が少なすぎて胸がこぼれそうなドレスか。
これは妄想の中の彼女が着てる感じなのかしら? それともただ単に着たい願望なのかしら?
「このようなドレスは、もう少しふくよかな方が着るようなものですわね。強いて言うのであれば、バックレスドレスタイプのイブニングドレスかしら?」
でもどこに着ていくのでしょう?
結婚式でもあるのかしら?
「わかったのじゃ! しかし『ネプラカリス』とは珍妙なモノを食べようとするのじゃな」
「食べてみたいそうですよ」
そう言って私とエルフの少女の視線は、白い鳥の羽をむしっているクロードさんに移ります。本当に肉を食べるためなら、労力を惜しまないのですね。
「出涸らしなのにか?」
「そう言いましたわよ」
すると私たちの視線に気がついたのか、不満げな視線をクロードさんは返してきました。
「だから出涸らしとはなんだ?」
「出涸らしは出涸らしじゃ。そのモノから得る魔力はない」
「味はどうなんだ?」
「そのまま焼けば脂が乗ってないパサパサした肉じゃ。ただカリスの香りがする」
「むー」
あら? 鳥を見ながら固まってしまいましたわ。私は事前に出涸らしだといいましたのに。
そうですわね。ネプラの調理方法としては確立されていませんが、美味しくなりそうな方法がありますわ。
「クロードさん。カリスに一晩つけてみますか?」
「え? カリスってことは、上についていた葉っぱの方にか?」
「はい。一人分の薬であれば、これ程の量は必要ありませんし、カリスの持っている効果が上手く行き渡るかもしれません」
「それをやってみよう」
流石に、パサパサのお肉は食べる気が起きなかったようですが、再び鳥の下処理に取りかかったクロードさん。
本当に美味しい肉へのこだわりが凄いですわね。
その内ドラゴンを狩ってきそうですわ。
「ふむ。カリスの効力を持ったお肉。もしかして食べれば、ボンキュッボンになれるのではなかろうか!」
「なりませんよ」
エルフの少女の願望も強すぎるようです。
そもそも魔力が肉体の変化を起こすのは、特殊な種族あるいは、第三者からの力が働いたときぐらいです。
「むむ! しかし魔女はかのように姿を変化させるではないか。妾をボンキュッボンにするぐらい簡単ではないのかのぅ」
「使い魔の姿に変化させることは、容易いですよ」
「そうじゃないのじゃ!」
涙目で訴えられても困りますわ。
そもそも私の領分ではありませんもの。
「シルヴィア。一羽はそのまま食べるから、それ以外をカリスに漬け込みたい」
「いいですわよ」
結局、どういうお肉なのか一羽分は食べてみたいということですわね。
先ほどより少し大きめの壺を出して、下処理を終えたネプラの肉を入れてもらいます。
その上からカリスをまんべんなくかけて封をします。これでいいでしょう。
「こんな簡単な感じで美味しくなるのか?」
「やったことはありませんが、大丈夫ですよ」
「さて、妾も帰るとするかのぅ。『いぶにんれす』というのができたら見せに来てやるのじゃ」
そう言ってエルフの少女はドラゴンに乗って帰っていきました。
見せに来なくてもいいですわよ。それから『イブニングドレス』ですわよ。
はっ! どこぞのハイエルフの恥ずかしい日記を返し忘れましたわ。
「シルヴィア。今日の晩ごはんはこれを焼肉にする」
「クロードさん。それは美味しくないので、他のお肉でしましょう」
そうして遅い夕食は、晴れ渡った青い空の下で、焼肉をすることになったのでした。
「それでここは何故夜じゃないんだ?」
「ここが朝の時間ですからね」
「意味がわからん」




