第28話 やはり気になるのは肉のほうですか
「ほら、クロードさん。ぼーっとしていないで、手伝ってください」
私は地面に落ちた白い鳥を拾い、持ち上げます。その白い鳥をはたくと、周りにまとわりついている雪が剥がれていきました。
「この鳥をこう持って、ブチッと頭のトサカを引っこ抜いてください」
まだ凍っている鳥の首と頭部を軽く持って、トサカのように頭から生えている葉っぱを採取します。
「それって引っこ抜けるものなのか?」
「ええ、凍りついているので、奥の方に根っこを残して簡単に取れます。時間が経てば、再び葉っぱは生えてきます。『リヴァーヤ』の木自体が、あまりありませんから、貴重種ですね」
そう説明しながらも、地面に落ちている鳥からトサカを引っこ抜いていきます。
「ということで、この籠に入れていってください。鳥は出涸らしなのでいりませんので、絶対に入れないでください」
「出涸らし……この鳥の肉は?」
肉好きのクロードさんとしては、白い鳥の肉の味が気になるようです。
「味としては香草に漬け込んだ鳥肉だと知識にはありますね」
しかし、鳥と言っても、胴回りを両手で掴めるほどの大きさしかありませんので、それほど食べごたえがあるとは思えません。
「食べてみたい」
「そうですか。では血抜きしたのをこちらの籠に入れてください。しかし『カリス』に寄生された『ネプラ』も貴重種なので、十羽までにしてください」
白い鳥の『ネプラ』は普通に見かけるのです。しかし『カリス』に寄生された『ネプラカリス』となると、世界中でも生息地が十にも満たないでしょう。
ですが私の知識も更新が必要なため、正しいとはかぎりません。
「わかった。因みに先程の言い方だと、木の方の『リヴァーヤ』が存在することが重要だったりするのか?」
「え? だって『リヴァーヤ』がどんなところでも生息できるように水属性の『ネプラ』に寄生種を植えたのですよ。それは『リヴァーヤ』が存在しないと『ネプラカリス』は存在しません」
「それはあの曲がった枝が動くとか言わないよな」
クロードさんは、大木の枝を指しながら聞いてきました。白い鳥たちは幹の周辺に多く落ちているので、危険視しているのでしょう。
「大丈夫です。寄生が終わった木は動きません」
「……そうか。動く木だったのか」
納得したクロードさんは、無言で鳥の頭から緑色のトサカを引っこ抜き続けてくれました。
「やはり、すっかり暗くなってしまいましたね」
魔物避けのカンテラの光頼りに、町の方まで戻ってきました。そして西門の方が騒がしく人が集まっている感じがします。
「あの『魔力断ち』という技は凄いですね。逃げていった魔物のほとんどの魔核を破壊しているなんて、無敵の技ではないですか」
ここまで帰ってくる途中で、魔物の集団の死骸の絨毯にぶち当たったのです。外見は傷ついているようすはないのに、生命活動を止めている魔物たち。
全てに共通するのが、魔力造成器官に魔力の根源となる力を生成する魔核が破壊されていたということです。
「そう無敵でもないぞ。攻撃範囲が直線的だから、囲まれてしまえば全方位魔法の方が役に立つ」
言われてしまえば、そうなのですけどね。
そして西門の中に入れば、いつもならそこまで明るくない魔導灯が煌々と光を放ち、その下に集まっている人々を照らしていました。
「あ! 魔女さんだ」
「おーい! 『ヴァングルフ』に入っていたヤツが戻ってきたぞ!」
「どの冒険者が被害にあったのかと……」
「ってことは、あの魔物の集団を全部倒したのって……」
「すっげー!」
「いや、その前に雨の『ヴァングルフ』に入ろうとしないだろう」
私達の姿を確認した冒険者たちから、次々と言葉が漏れ出てきています。
どうやら、森の中から警告光を打ち上げたのは、誰かという話になっていたのでしょうね。
「シルヴィア。やはり雨の中、森に入るのは危険だという認識であっているじゃないか」
「ええ、知っていますよ」
周りからの言葉にクロードさんが愚痴ってきましたが、私はクロードさんには引き返すという選択を与えたではないですか。
それに雨と言っても嵐のような雨ではなく、森を濡らす雨です。
鈍器に腰を下ろして宙を進む私には、何も障害にはなりません。
「おぅ。誰が警告光を打ち上げたのかと思っていたが、魔女殿だったのか」
「あら? ギルドマスターさん」
人垣が割れたかと思うと、ガタイのいい白髪の男性が現れました。冒険者ギルドのマスターさんです。
薬を置かせてもらうのに、色々お世話になった方ですわ。
「丁度、良かったですわ。お話をしたいことがあったのですの」
深淵の森『ヴァングルフ』の異変をお話して、冒険者の方々に対処してもらいたいですもの。
「こっちも聞きたいことがあるんだが、どこに雨の『ヴァングルフ』に入るヤツがいるんだ?」
「まぁ? それではギルドマスターさんは、突然の魔物の群集に町が襲われたらよかったということですわね?」
私はにこりと笑みを浮かべていいます。すると一瞬怯んだかのように、一歩後ろに下がるギルドマスターさん。
「なんで、マリアンヌ様と同じように、魔女っていうヤツには常識が通じないんだ? はぁ、お茶と甘いものを出すから中に入って来い」
ため息を吐きながらギルドマスターさんは踵を返して、近くにある冒険者ギルドの建物の方に向って行きました。
ギルドマスターさんも『幻惑の魔女』とお知り合いなのですね。お陰で魔女というだけで諦めが早くて助かりましたわ。
魔女は姿かたちは人ですが、生まれながら魔女なのです。そこから違うと理解してもらうのは大変ですもの。
無言で鳥の頭から葉っぱを引っこ抜く二人。その光景はきっと第三者の目には異様に映ったことでしょう。




