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魔女との契約婚で離縁すると、どうなるかご存知?【電子書籍化・コミカライズ進行中】  作者: 白雲八鈴


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第16話 朝から食べていい?

「はっ! 痛み止めを作っていないわ!」


 作り忘れていたことを思い出して、目が覚めました。……デジャヴュ?


 シトシトと雨音が窓越しに聞こえるので、今日は雨のようです。雨の日は薬屋に客は殆ど来ないので、ほぼ開店休業になります。もう少し惰眠を貪ってもいいでしょう。


 貴族の生活をしなくなって一番いいことは、決まった時間に起きなくてよくなったことです。


 こんな雨の日の客は、ジジイの話し相手になって欲しいと来る、サイさんぐらいでしょう。


 サイさん……はっ!


 昨日、押し掛け女房ならぬ、押し掛け夫がいたような記憶が!


 慌てて着替えて一階に降りてみれば、何やら食欲をそそるいい匂いが漂ってきました。


「何をしているのですか?」


 料理を作るには、手狭なキッチンの前に立っているクロードさんに声をかけます。 

 昨日は歴戦の冒険者風の装いでしたが、今は白いシャツを腕まくりをして同じ色のブルーグレイのベストとスラックスの装いです。

 このような姿をしていると公爵子息と言っていい(ひん)というものがあります。


 ……が! 何故にキッチンで肉を焼いているのですか!


「おはよう。シルヴィア」

「おはようございます……それで、朝から何をなさっているのですか?」

「肉を焼いている」


 それは見てわかります。しかし、普通は公爵子息が料理なんてしないでしょう!


 私は店のカウンターの内側にあるキッチンに向って行きます。


「この家にお肉なんて、なかったはずですが?」


 保存できるベーコンやハムなどは買って保管庫に置いてありますが、目の前で焼かれているような生肉はなかったはずです。


「朝の市場に行ってきた。やっぱり朝から肉を食べないとな」


 ……確かクロードさんは、お肉が好きと言っていましたね。

 色々突っ込みたいことがあるのですが、それよりも一番に聞きたいことは……


「もしかして、朝からそこにある肉を焼いて食べようとしていますか?」


 私は見てしまったのです。キッチンの足元に肉の大きな塊があることに。


「この町は凄いよな。たった金貨一枚でこれだけの肉が買えるのだな。食べごたえがありそうで今から楽しみだ」


 そうですか。たった金貨一枚ですか。普通は金貨を使わないと言いましたのに。

 そして、この量を食べるのですか。量り売りで十キログラ()はありそうですけど?


 しかし、市場でもこの量は売っていませんわよ。これではまるで業務用……もしかして市場というのは南側ではなく……北側に行ったのですか?


「朝から北地区に行ったのですか? 雨が降っていますのに?」

「ん? さっき降りはじめたから、雨に降られてはいない。あと、日課の訓練で走っていたときに見かけたから、北地区と言われてもわからないな」


 そうですか。この辺境都市『エルヴァーター』は直線距離でも南北で十キロメル()はあるのです。しかし中央地区は通り抜けできませんので、それ以上の距離を移動したということになります。


「ああ、そうだ。シルヴィアが好みそうな物も買ってきたぞ」


 店の長いカウンターの上に置いてある白い箱をクロードさんは指し示しました。

 なにですか?


「箱の蓋を上げてみればいい」


 箱の蓋を上に? 蓋?

 蓋らしきものが無いようですが、箱の全体が蓋なのかしら?


 太い魔導書が二冊ほど入りそうな箱を上げます。

 上げた瞬間に甘い匂いが!


 中を見ますと白いクリームに覆われた丸いケーキがあるではないですか! それも深淵の森『ヴァングルフ』で取れる高級果実の赤いレレリエが白いケーキを彩っていました。


 貴族として暮らさなくなって、一番残念なことはケーキが食べれなくなったことです。

 日持ちする焼き菓子とか飴とかはよく見かけるのですが、このようなケーキは日持ちしませんので、この辺りでは購入できる店がないのです。


 ……あら? おかしいですわね。北地区でも、このようはケーキのお店は無かったはずですが?


 ま……まさか!


「中央地区に不法侵入ですか!」

「ん? 門兵がいたところの話か? それなら顔パスだったぞ」


 顔パス……確かに、白髪で赤い目の人物が聖獣青虎(ベルドーラ)の聖痕を持っていれば、名乗らなくても聖騎士ハイヴァザールとわかりますわね。


 聖騎士ハイヴァザールの行く手を阻むことができる門兵は、ほぼいないことでしょう。


「もしかして、ケーキは嫌いだったか?」

「大好きです!」

「それは良かった。俺は甘いものは苦手だから全部食べていいぞ」

「全部! 一人で! ホールごと!」


 今まで人の目があって、いくら食べたくてもできなかったことをしていいのですか?

 貴族だからはしたないと思ってできなかったことをしていいのですか?


 それは、なんて……なんて…


「幸せですぅ〜」


 思わず顔がニヤけてしまいました。


「シルヴィアは可愛いな」

「……私は可愛くないですよ。しかしケーキ屋がそんな早朝から開いていたのですね」

「うーん。かなり重症だな。それからケーキ屋じゃなくて、パン屋で売っていたな」


 何が重症かわかりませんが、パン屋ってケーキも売っていたのですか?


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 ワンホール。「やべぇ奴」ですね!  思わず感想の筆をとってしまいました。  SFオタクなもので、キロメル、キログラと言う単位が気になります。  私達の世界と過去に交流があったのかな。  そうでないな…
クロードさん、、肉10キロは朝から食べるにはちょい(?)多めですねー(•﹏•; ก) (私の知っている10キロと同じ場合ですが…) シルヴィアさん、ケーキで朝から幸せ♡でよかったです! 遅ればせなが…
 レレリエという赤い果物の乗ったケーキに心惹かれてしまいました。イチゴに似た果物でしょうか、それともサクランボに似た果物でしょうか。日本のイチゴのケーキに似ているようですが、限られた場所で採れる高級果…
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