第108話 契約の改変
2日後。
私は緊張しながら中庭の畑にいました。
正確には少し離れた小川の近くです。
「聖獣の契約がどんなものか、ワクワクするのじゃ」
相変わらず今日もここに来ているシャロンさんもいました。
楽しみにしているシャロンさんと正反対に私は結界を二重にしています。
ガチガチに固めています。
そして、クロードさんは普段着の姿で、地面に魔法陣を描いています。
2日の時間が欲しいと言っていたのは、この魔法陣を描くためではなく、聖獣の空腹を満たすためにひたすらクロードさんが食べていました。
見ている私が気分が悪くなるほどの量です。
何故にあんなに食べられるのかわからないぐらいでした。
「よし、できた」
魔法陣を描き上げて満足そうに立ち上がるクロードさん。私はその言葉に緊張感が高まります。
魔女と聖獣は相性が悪いのです。精霊に近い聖獣は肉体をもちませんので、影響を受けるのは魔女である私のほうなのです。
「ほぅ! マルアク文字。未だにこのような文字を聖騎士は使っておるのじゃな」
魔法陣に描かれた文字を見てシャロンさんが感心しております。
アンラヴェラータ魔導王国の文字に似ていますが、少し違いますね。
「マルアク? 俺達は神聖文字と呼んでいるが?」
「ふむ。魔法形態には複数あってな。マギ文字が一番古い文字で、すべての魔法の基盤となっておるのじゃ……あ、まぁ今はエルフ族ぐらいしか使っておらぬ」
今は妖精国がるフェモーレ大陸ぐらいにしか残っていないでしょうね。精霊魔法で使われる文字でもあります。
「ふーん。色々あるんだな。シルヴィア。この魔法陣の中に入ってくれ」
「はい」
ドキドキする心臓を押さえつけるように胸の上に手を置きながら、魔法陣の上に立ちました。
他の人が描いた魔法陣の中に入るのは初めてなので、このことにも緊張します。
一応事前に何を行うのか聞いていて、私は何もしなくていいと言われていますが、緊張するものは緊張します。
「シルヴィア。そんなに固くならなくていいぞ。聖獣青虎は主と認めた者に噛みついたりしない」
「別にそのようなことを心配しておりません。人の魔法に身を委ねることに緊張しているのです」
「確かに俺も他人が操縦する騎獣の後ろに乗れと言われたら、不安だろうな。そうだな……目をつぶっている内に終わるぞ」
「余計に怖いですわ」
クロードさんを信用していないわけではありませんが、こういうことには慣れていないのです。
「何かあれば妾が止めに入るのじゃ! 魔法は狩りの次に得意なのじゃ!」
それは狩りのほうが得意だと聞こえますわね。気持だけ受け取っておきますわ。
「はぁ、さっさと終わらせてください」
「わかった。青虎」
クロードさんが聖獣を喚び出しました。すると同じ魔法陣の中に、白い毛並みの青色の模様がある虎が現れました。
その姿を認識した瞬間、後ろに下がりそうになりましたが、なんとかこらえます。
私が施した結界の周りにバチバチと火花が飛んでいます。聖の力と魔の力が反発していますわ。
「聖騎士クロード・ハイヴァザールの名の元に、主禁厭の魔女シルヴィアとの契約の開示を求める」
クロードさんが契約の開示を求めると、私とクロードさんの間に一枚の契約書が顕れました。いいえ、魔法陣の中を舞うように複数の契約書が顕れます。
そうですよね。話に聞く限り一枚で収まりそうな感じではありませんでしたよね。
その中からクロードさんは一枚の契約書を手に取りました。
手にした契約書をクロードさんは私に見せてきます。
内容としては、主は城から出る場合は聖騎士に属する者を伴わなければならないことと、契約違反をすると主がペナルティーを負うことが記載されていました。
それが、事細かく書かれているのです。
私があの時動けなくなった理由も書かれていますね。クロードさんの言ったとおり、聖騎士が主の魔力を感知できなくなった場合のところですか。
これはきっと魔力を感知されないようにして、城から出た聖王がいたということなのでしょう。
私は頷き返します。
「聖獣青虎。この契約の破棄を命じる」
すると、クロードさんが持つ契約書が青い炎に包まれて燃えて消え去りました。
「契約の改変は終了した。閉じよ」
周りにあった複数の契約書は、空間に溶けるように消えていきます。
ああ、このような形態にならなければ契約書は顕れない理由が理解できました。
主と聖騎士の契約だと思っていましたけど、主と聖騎士と聖獣の三者の契約ということなので、三者が揃わなければ契約書が顕れないのですね。
「青虎。ありがとう」
クロードさんは聖獣である青虎を撫でています。
「それって触れますの!」
衝撃の驚きの事態が目の前で起こっていました。霊獣なのに実体化していますわ!




