第106話 ぼったくられた噂が元になっているのかと…
「何が書いておるのじゃ?」
機嫌が悪いクロードさんの背後から覗き込むシャロンさん。
ですから、読まなくていいです!
「む? 後妻として迎えてくれる方がおるから戻って来いと書かれておるのじゃ。おぬし、魔女の夫ではなかったのか?」
シャロンさんは手紙の内容を読んで、クロードさんに確認しています。
そもそも契約婚なので、本来の夫婦というものではありません。
それに兄は、私が契約婚を再びしているとは知らないのです。
「はぁ、無視でいいです。兄がこんな辺境の地までやって来ません」
「いや、この手紙を持っていた者がシルヴィアの名を大声で叫びながら『出てこい』と言っていたのだ」
え? 誰ですか? そんな恥ずかしいことを街の中でしている人は?
「誰も相手をしていなかったが、あまりにもぶしつけだったから、誰を探しているのか聞いてみた」
「魔女の名を呼び捨てにするヤツとは関わらないほうがいいのじゃ! 魔女は怖いのじゃ!」
一度ひどい目にあったのだろうシャロンさんは震えながら、生気がない目をしています。
本当に何があったのでしょうね。
「薬師の魔女を自称するシルヴィアという者を探していると、必ず連れ戻すように命じられていると言っていたが、子爵家だと言っていなかったか」
クロードさんは、子爵にそこまでの強制力があるのかと言いたいでしょう。
それも自分の娘にではなく、一度嫁いだ妹である私にです。
「はぁ、たぶんクロードさんがぼったくられた噂が元になっているのでしょう」
クロードさんがこの辺境都市『エルヴァーター』にたどり着くことになった噂です。
万能薬。それを求めている貴族がいるということなのでしょう。
こういう権力者に関わるのが嫌なので、代々の禁厭の魔女は人が好まぬ土地に住んでいたのでしょうね。
人の欲に限りがありませんから。
「何じゃ? おぬし、ぼったくられたのか?」
「魔女の薬が金貨1枚なんて安いだろう?」
「言われてみれば、魔女の秘薬など普通は手に入らぬから、安いのじゃ!」
私の薬にそんな価値はありませんよ。そもそも秘薬というものはありませんからね。
しかし、困りましたわね。私を名指しで連れて帰るように言われている人がいるのですか。
おそらく兄にそれをするほどの利益が、私の婚姻で手に入るということなのでしょう。
毎年私が嫁に行ったファインバール伯爵家から多額のお金を受け取っていたのです。きっと私が離婚したというのを聞いて、次に支援してくれる貴族を見つけたというところでしょうか?
噂でファンベル子爵はかなり羽振りが良かったと聞いたことがありますから。
私がどうしたものかと考えていますと、甲高い鈴が鳴る音が響いてきました。
「あ、お客さんですわ」
私はそう言って立ち上がります。
お店の扉の鈴が鳴ったようです。
「クロードさん。ここの扉は開けておきますので、食事を続けてください」
「待つのじゃ!」
家の方に戻ろうとすると、シャロンさんに引き留められてしまいました。
あの、また戻ってきますわよ?扉を閉めなければなりませんし。
「忘れておるのじゃ。それから、そろそろ名をつけてやるといいのじゃ」
シャロンさんはそう言って私の手にケットシーの幼生を返してくれました。
名を付けるのですか?
あと、忘れてはいませんわよ。まだ、遊びますわよね?
「ドルヴェデイドが動き出していると報告したら、父上がピリピリしておるのじゃ。怒られる前に戻るのじゃ」
「あの? 無理をしてここに来なくてもいいのですよ?」
妖精国は閉鎖的な国なので、いくらシャロンさんでも出入りが厳しいのではないのでしょうか?
「友達のところに遊びにいくのは、妾の楽しみなのじゃ! また来るのじゃ! 聖騎士。魔女を守るのじゃ! 絶対なのじゃ!」
「わかっている」
シャロンさんは何故かクロードさんに私を守るように言って、帰っていきました。
いつも思うのですが、本当に毎日来られなくてもいいと思うのです。
「また扉を閉じに戻ってきますので……」
店に戻ると言おうとすると、クロードさんも家のほうに戻るために、片付けていました。
え? 食事優先でいいですわよ。
私はお客さんの相手をするだけですから。
「一緒に戻る」
「そうなのですか?」
クロードさんがいいと言うのであれば、私は何もいうことはありません。
扉のノックに反応して店の扉の鈴が鳴り響いている店内に戻ります。
今日は客が少ないので、この時間は誰も来ないのかと思っていましたが、緊急に入り用のものがあるのでしょうか?
断続的にノックが鳴り響いています。
「はい、おまたせしました」
扉の外には見知った人物がいました。
「遅いのである」
なんと、魔女の薬屋を訪ねてきたのは魔導師長さんです。
まだ、辺境都市にいたのですね。てっきり王都に向けて出立しているものだと思っていました。




