第105話 実家から届いた手紙
「神の玉座の立方体」
私は幻惑の魔女に私が見たものを話しました。そして、難しそうな顔をする幻惑の魔女。
「これは『鎮星の魔女』のババァに動いてもらわないといけないわね」
ひっ! 魔女のまとめ役の『鎮星の魔女』に、ケンカを売るような言い方は止めてください。
「私は繋がりがありませんので、幻惑の魔女から報告をしていただけるとありがたいのです」
今回のことで、魔女の集会を開いて欲しいと私は言います。
絶対に他にもあの魔法陣が、世界の何処かに存在しているはずですから。
それには、魔女の協力は欠かせません。
「そうね。確かに調べる必要はあるはね。でも貴女、それをなぜ始末しなかったの?」
「貴女は、アレを見た後に手を出せますか?」
「出せないわね」
幻惑の魔女の言うとおりに、魔法陣を始末するべきだったのですが、すべてが後手後手になってしまったことを考えると、手が出せませんでした。
他の魔女の知を借りるべきたと私は判断したのです。
「まぁ、わかったわ。この件は私から伝えておくわ。きっと動くのは魔女たちでしょうから、今回は働きすぎよ」
そう言って、幻惑の魔女は店を出ていきました。
「シルヴィア。ただいま」
入れ違いにクロードさんが戻ってきました。
思っていたより早く戻ってきましたわね。それも何故か機嫌が悪そうです。
昨日の今日で、好みの獲物が狩れなかったのでしょうか?
「食べられる獲物がいなかったのですか?」
それならば、素材採取のときに倒したままになっている魔物を出しましょうか?
「いや、それは十分狩ってきた」
そうですか……十分ということは、どれだけ食べる気なのでしょう?
そしてクロードさんは一通の封筒を私に差し出してきました。
シルヴィア・ファンベルの宛名が書かれています。
嫌な予感がして裏をみますと、ファンベル子爵の封蝋が見て取れました。
兄からですか。今更私に何の用なのでしょう?
きっと魔女の噂をたどって、この辺境までたどり着いたのでしょうね。
「あ、クロードさん。中庭に行きますか?」
「開けないのか?」
その言葉に私はニコリを笑みと浮かべ、カウンターの奥にある戸棚を動かして、奥に続く廊下を示しました。
きっとろくな事ではないと思いますので、一人こっそりと読みますわ。
「そうか。だったら中庭への扉を開けてくれないか」
私はカウンターの上にあるカゴの中で寝ているケットシーの幼生を抱えて、中庭に向かったのでした。
「待っておったのじゃ!」
毎日こられるシャロンさんが扉を開けたところに立っていました。
そのシャロンさんにケットシーを手渡します。
「ミルクをやるのじゃ!」
シャロンさんは楽しそうにケットシーの幼生にミルクを与えています。
今、思ったのですが、シャロンさんにケットシーの幼生を引き取ってもらってもいいと思うのです。
「シャロンさん。もしよろしければ、その子を引き取ってもらえませんか?」
「え? 嫌なのじゃ。ここにくる口実が無くなるのじゃ!」
あ、ケットシーのミルクを持ってくるのが、ここにくる口実になっているのですか。
そうですよね。毎日出かけていれば、そろそろ周りの人からどうしたのかと、あやしまれますよね。
ケットシーのミルクを持って出ていくと、都合がよく外に出られるということですか。
「でも、毎日来られていますよね?」
「友達だから当たり前なのじゃ!」
そういうものなのですかね?
シャロンさんはそのあと、ケットシーと遊びだし、クロードさんは黙々と解体をし終わったあと、一人で遅めの朝ごはんのためにお肉を焼き始めました。
やはり、機嫌が悪かったのは空腹だったからのようです。
そう思うと、非常食としてお肉の取り置きをしているほうがいいですよね。
私は小屋の前にある丸太の上に腰を降ろします。
畑作業をしているときに休憩するのに使っている丸太です。
そして空間から先程の手紙を取り出しました。封蝋をミシッと手でちぎり、中の手紙を取り出します。
そして手紙の中身を読みます。
……思わず手紙を握り潰しました。
そうきましたか。
「シルヴィア。どうかしたのか?」
「うひゃ!」
お肉を焼いて食べてを繰り返していたクロードさんが目の前にいました。
さっきまで、小川の近くでお肉を食べていたではないですか。
突然目の前に現れないでくださいよ。
「あ……」
手にしていた手紙が、落ちていきます。そのシワシワになった手紙を私が拾う前に、クロードさんが拾ってしまいました。
「ありがとうございます」
受け取ろうと手を伸ばせば、手紙が遠ざかり、クロードさんが中を読んでいるではないですか!
「読まなくていいですわ」
更に手を伸ばせば、遠ざかる手紙。そして文字を追うごとに不機嫌さが顕になるクロードさん。
「シルヴィア。一度、兄君に挨拶に行ったほうがいいよな」
「それ、無視でいいですわ」
兄に挨拶など不要です。




