第103話 神の玉座の立方体
「ふむ。ドルヴェデイドが絡んでいるとなると、これは父上に報告しなければならないのじゃ」
私はケットシーの親と思われる者のことについて、シャロンさんに話をしました。
これは妖精国も関わっていることだからです。
そして、クロードさんは無言でお肉を食べ続けていました。
私はというと、シャロンさんに話をしながら、お肉を焼き続けています。
あの?
ドラゴンの肉の半分と魔牛を一頭分は焼いてしまったのですが、まだ食べるのでしょうか?
この様子だと、まだ食べるのでしょうね。
神官騎士のエリアーナさんが聖騎士を嫌っていたところは、こういういつまで食べているのかわからない状況だったのかもしれません。
「それで、目的は阻止したで良いのじゃな?」
シャロンさんの言葉に考え込んでしまいます。
これはきっと一時的なものです。時期がくればまた、ドルヴェデイドは同じことを繰り返すはずです。ドルヴェデイドの意思を受け継ぐ者たちですか。
本当の目的があれなのでしたら。
「それはどうでしょう?今回はというところですね」
「まだあるというのか?」
そのシャロンさんの疑問に私は空間から紙とペンを取り出して、あるものを描いていきます。
十三個の円と七十二の線で構成された図形です。中心の円を六つの円が取り囲み、その延長上に円が六つ隣接する形をです。
「『神の玉座の立方体』じゃな」
「よくご存知ですね」
私はその紙をシャロンさんに渡します。
これで妖精王の手に渡り事態の状況が理解できるはずです。
「神を創造しようとは恐ろしいことをしようとするものじゃ」
「流石にその陣には手を出せませんでした。何が起こるかわかったものではありませんので」
『神の玉座の立方体』とは正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類が含まれている形なのです。
神を創造する上で必要なものが、すべて網羅された陣形なのです。
しかし、私が見たのは平面図形。
これだと意味をなしません。
ですが私たちは見てしまったのです。
魔法陣を分けることで巨大な魔法陣を形成できてしまうことを。
なので、もし世界各地に『神の玉座の立方体』が存在すれば、どうでしょう?
私は、一つを壊したことで、また何かしらが生み出されてしまうことを危惧したのです。
「それに、これは魔女の集会を開かなければならないことです」
私は参加できませんが、魔女たちが動きなさなければならない案件です。
「世界を浄化する者の考えはわからないのじゃ。しかし、これは我らも黙っていることはできぬのじゃ。それでヤツは獣人の国にいるということなのじゃな?」
「それはどうでしょう? 今は私がいる大陸にはいないだけで、別のことで動いているかもしれません」
「まぁ、精霊国にも入っていたようじゃから、困ったものじゃな」
シャロンさんは、早急に父に伝えるといって、飛竜に乗って帰っていきました。
これで操られる妖精族がいなくなればいいのですけど。
私は膝の上で寝ているケットシーの幼生を撫でました。
「さっきの話は滝の裏にあった魔石のことか?」
黙々とお肉を食べ続けていたクロードさんが声をかけてきました。
いいえ、今も食べ続けています。
「そうですね。取り敢えず、今は発動する感じではありませんでした」
魔石には何も力を感じませんでしたから、何かしらの対価が必要なのだとおもいました。
例えば、厄災魂を食らうものが食らった魂だとかです。
今は最悪を事前に防いだと思いたいですわね。
「それで、まだお肉を焼く必要はありますが?」
まだ食べるのかと私は問いかけます。
空が夕日色に染まってきたので、魔女の島が夜になりそうなのですけど?
それにそろそろ寝たいです。
「シルヴィアが全然食べていないだろう?」
「私は妖精の国にしかない貴重なはちみつをいただいたので、心もお腹も満足ですわ」
瓶の中にはもう半分ほどしかありません。残りは少しずつ食べる楽しみのためにとっておきます。
「そうか、だったらそろそろ休もうか」
「そうですね」
これで、深淵の森『ヴァングルフ』がいつもの静かさを取り戻すことでしょう。
私は立ちがって、鍋はそのままにして家のほうに戻ります。
片付けは後でいいですわ。
「その前にさっさと聖騎士の契約の一部改変をお願いしたいです」
「それは、後日でいいだろう?」
「今でもいいですよね」
「……聖獣を出すことになるのだが?」
……聖獣を出すのですか?
この疲れているときに、聖獣と相対する元気はありません。
「わかりました。元気なときでお願いしたいです」
「わかった。それじゃ、一緒に寝ようか」
私が庭の扉を閉じたときに、耳を疑う言葉が聞こえてきました。
「ご自分の部屋で休んでくださいね」
「シルヴィアの気配がなくなったら困るじゃないか」
「そんなことは起こりません」
「魔女に攫われたらどうする」
……私も魔女ですが?
ああ、魔女の呼び出しがあったらということですか。
「大丈夫です。そんなことは起こりませんから」
「起こったから言っているんだ」
それは否定しませんが、過去は過去ですわよ。
こうして、やっと休めることができたのでした。




