第102話 幻のはちみつ!
夜が明けた頃にやっと後始末が終わり、お店に帰ってきました。
流石に一晩中は疲れましたわ。
「狩ってきた獲物を解体したいのだが、庭の扉を開けてくれないか?」
クロードさんは、移動中に見つけた魔牛を一撃で仕留めていました。
以前食べて美味しかったので気に入ったのでしょう。目の端に映った瞬間にはクロードさんの剣が突き刺さっていましたから。
あと、とてもお腹が空いていたのだと思います。
この効率の悪い聖騎士仕様の所為で。
途中からクロードさんのお腹の虫が鳴いていましたもの。
一番突き当りまでいって、壁に描かれた門の前に立ちました。
『開門』
甘い花の香りと、明るい日差しが家の中に入ってきます。
そして見慣れた顔が……
「待っておったのじゃ!」
エルフ族のシャロンさんです。
本当に毎日来られていますよね。
「なんじゃ? 疲れているようじゃな?」
「一晩中、森を駆けていたので……」
「魔女の仕事なのじゃな。お疲れなのじゃ! そんな友にこれをあげるのじゃ!」
私の目の前には小瓶に詰められた金色に光るものが!
「妖精族の女王の花畑のはちみつじゃ」
「ここここれが伝説の『メラレーラの花蜜』ですか!」
七色の花弁を咲かせるというメラレーラの花のみで作られたはちみつです。
普通では絶対に手に入りません。
「焼き菓子につけて食べると幸せになるのじゃ!」
私の目の前には、一口サイズのクッキーがありました。
これは私に食べろと訴えていますよね?
「それで、ケットシーの幼生はどこにおるのじゃ? 聖騎士は黙々と解体しておるし、連れてきておらぬのか?」
クロードさんはシャロンさんの姿がみえていないのか、小川のほうに行き、声をかけるのもばかるほどの勢いで解体をしていっています。
おそらく空腹がピークになっているのでしょう。
私は、外套のフードから暖かい毛玉を手にとって、シャロンさんに渡しました。
「ミルクはやっておるから、食べるのじゃ」
そう言ってシャロンさんは私から離れて行きました。
そして、残った私の手には金色のはちみつと美味しそうなクッキーが……ごくんと唾を飲み込みます。
一つぐらい食べてもいいですわよね。
はちみつが入った瓶を開けると、花のような香り高い匂いが漂ってきました。
はちみつがこんな花のような匂いがするのですか?
そして空間から、量る用の匙を取り出して、金色の液体をすくいます。
とろみがある金色の液体が糸を引くように匙からこぼれていきます。
再び唾を飲み込んで、そのまま食べたい衝動を抑えました。
そのはちみつをクッキーに垂らして、パクリと食べます。
「ん――――!」
口に含んだ瞬間にはちみつの甘い匂いが鼻を抜けていきました。そして噛みしめると甘みを抑えたクッキーと甘いはちみつが口の中を蹂躙していきます。
あ……これ、回復効果が高いですわ。
疲れがいっきに吹き飛んでいきました。
と思っているうちに、もらったクッキーが全部なくなっています。
おかしいですわ。
食べた記憶がありません。
しかし、手に持っているはちみつの瓶の中身が半分ほどに減ってしまっているので、私が食べてしまったのでしょう。
「こんなにも食べてしまいました。もう二度と手に入らないかもしれませんのに」
「なんじゃ? 気に入ったのであれば、また持ってくるのじゃ!」
「欲しいです! ……しかし、私がシャロンさんにお返しできるものなど、持ち合わせていません」
あの恥ずかしい日記を書かれたかたの御息女のシャロンさんに、薬草のことしか取り柄がない私に返せるものなどありません。
「妾の友達なのじゃ。お返しは不要なのじゃ。こうやって会えるだけでいいのじゃ」
ニコニコと笑みを浮かべるシャロンさんの瞳の奥に、悲しみの色が混じっていました。
突然会えなくなった先代の禁厭の魔女のことを思い出しているのでしょう。
長寿命のエルフ族……それもハイエルフなのです。いろんな別れを経験してきたのでしょうね。
「シルヴィア。美味しい肉を焼いて欲しい」
そこにクロードさんが肉の塊をもってやってきました。それも生気がない目をしながらです。
あの? お腹が空いているのであれば、私ではなく御自分で焼いたほうが早いと思います。
「肉なのじゃ! 聖騎士には欲しがってきたドラゴンの肉を持ってきたのじゃ!」
「なんだと!」
シャロンさんの言葉に、クロードさんの目に生気が宿りました。
ドラゴンの肉効果は、言葉だけでもすごいようです。
「毒は!」
「もちろん抜いてあるのじゃ!」
「シルヴィア! これも焼いて欲しい! ドラゴンの肉!」
あの……私の目に、何故か白い丸い耳としましまの尻尾が見えるのですが、これは幻覚でしょうか?




