第101話 気になること
「弥やかにそびえし、漆黒の大樹よ。纏し氷結をそのままに、身の内に秘めし力を実として結べ」
私は頭の上に丸い耳が見えるクロードさんに抱えられたまま、黒く禍々しく成長した木に向かって呪文を唱えます。
このままだと、動き出してしまいますので、凍ったまま取り込んだ力を実として実らせるように促します。
しかし、クロードさんが何故に空間の上に立つようにいるのか謎です。
これも聖獣の力なのでしょうか。
ここにはまだ花粉が飛んでいますので、魔力の維持が難しいはずですのに。
急激に成長していく赤い実と相反するように、赤い花がしおれていきます。
こうなるのはわかっていましたので、黒い枝に咲く赤い花は採取済みですわ。
赤い実の成長が止まったぐらいに私は鈍器を振り、その実を空間に収穫しました。
あまり近づくと、力を得ようと動き出す可能性がありますからね。
そして手にもった鈍器を少し斜め上に更に向けました。
元々精霊門があった場所に根が空間を割り込むように伸びていますので、そこに向けて新たに空間を開きます。
そして鈍器を一振り。するとどうでしょう?小瓶が落ちてきて、根に当たって割れていきます。
「あれは何だ?」
「除草剤です」
「木だが?」
「はい、とてもよく効く除草剤です。時々こういう魔力を糧にする植物が自生して困るということがありますので、領地にいるときには重宝したのです」
デレニエル草がよく使われるのは、採取しやすいのもありますが、繁殖力も強いのです。
だから、手軽に仕えるところなのですが、普段は魔力を奪われる厄介な雑草に過ぎません。
なので、最低限を残して始末するのです。
「領地というのは子爵家の?」
「そっちは手を出すと怒られましたので、嫁に行った先のファインバール伯爵家のほうですね」
そんな話をしている内に、黒い木は枯れ枝のように活力がなくなり、ボロボロと崩れて地上に落ちていっています。
あと、なんとなくクロードさんの機嫌が悪くなったような気がするのですが、気の所為でしょうか?
居心地が悪いので話を変えましょう。
「あ、そう言えば、下はどうなりました?」
暗い所為もありますが、眼下を見下ろしても誰かがいるようにはみえません。
「魔法陣から出てきたらしい、黒い人物はシルヴィアのお陰で倒せた」
そうですか。やはり、魔力を取り上げることで動きを止めましたか。
「その後、魔導師長と幻惑の魔女が他の魔法陣を黒い枝で、停止させようという意見が一致して、今は手分けをして魔法陣の対応にあたっている」
あ、あの枝をバキバキと折る音は、下に落とすためにクロードさんが折っていたのですね。
「そうなのですね。あとは私が活性化した魔力食いの木を始末すればいいのですね」
除草剤を使えば簡単なのです。ですが、根にかけなければ意味がないので、襲ってくる木の枝に対処しながらという面倒な工程が発生するのです。
「ああ、そうだな。位置はだいたい把握している」
「その前に確認しておきたいことがあるのです」
「どうかしたか?」
ひとつ気になっていたことを、今のうちに確認しておいたほうがいいと思うのです。
私はある場所を、手にした鈍器で指し示しました。
月明かりで浮かび上がった場所は上からみるとよく分かります。
「ああ、わかった。そこに行こう」
「え?あの私は自分で飛びますので、降ろしてください」
鈍器に乗って飛びますわよ。
しかし、何故か私はそのままクロードさんに目的地まで運ばれてしまったのでした。
到着した場所はガンディス渓谷。以前グランディーア兄妹と一緒に通った場所です。
「何かあるだろうと予想していた場所だな」
「はい」
これは、魔導師長さんの認識と他の人の認識が違っていたので、おかしいとなったので何かあるのだろうという予想です。
魔導師長さんは直線的にグエンデラ平原に行く近道という認識でしたが、街の人たちは危険な場所という認識でした。
その齟齬となる原因があるはずなのです。
しかし……
「派手に戦闘した形跡があって通るのもままならないな」
おそらくレッドドラゴンが出たとか言っていたので、その戦闘跡なのでしょう。
ただ、本来はレッドドラゴンではなくて、別のモノだったと思われました。この現状をみるに、対応が後手後手になってしまった感が否めません。
鈍器に強い光源を放つランタンを引っ掛けて、辺りを照らします。
周りを見渡しました。
ここで戦闘があることは考慮されていたはずです。
だから、被害が少ない場所を想定したはず。
通ることがこんなんな道の横には深い谷があり、川の水が轟々と流れています。
その先はとめどなく水が落ちている滝があるのみ。
滝?
一番被害がないのは滝の方です。そこでの戦闘は谷に落ちることを考慮して避けるのが一般的。
「クロードさん。滝の水って切れますか?一瞬でいいのです」
そうすれば、私は少し流れる水を止めましょう。
「できる」
そう言ってクロードさんは滝の近くまで、私を抱えたまま移動していくます。そして、到着したところでやっと私を地面に降ろしてくれました。
無言で剣を鞘から抜き、姿を変えた剣を振り切るクロードさん。それにに合わせて私は呪文を唱えます。
今回は一瞬でいいので細かい文言は省きましょう。
「『デトワールロズアロー』」
すると横一線に滝の水に切れ目が入り、その場で留まる水と落ちていく水に分かれました。
その状態で魔法が固定します。
「これは……」
「崖に魔石が埋め込まれている? なんだ? これは?」
私はあまりにもの衝撃に言葉を失いました。
そして魔法の効力が切れ、再び崖は水の壁に阻まれ、何事もなかったかのように水が流れ落ちていたのでした。




