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知ってると格好良いクラシック用語集

作者: 六野みさお

 

 どうもどうも、かつてはなろうティーンエッセイ界隈及び異能力バトル界隈の構成員だった六野が通りますよー←そんな界隈はない!


 ということでお久しぶりです。気がつけば私も今年の9月で20歳となります。いやー年を取るの早いわ。約三年前におそるおそる登録したのが昨日のようです。てなわけで数ヶ月ぶりに単発エッセイやっていきましょう。


 さて、私をボカロヲタクと認識している人は多いかと思いますが、実は私がボカロヲタクになったのは高校からです。ではそれまで六野は何をしていたのかというと、クラシック音楽ヲタクをやっていました。別に深い理由があったわけではありません。もともと私の父が重度のクラシックヲタクなのです。そのため私は小さな頃からベートーベンやらショパンやらを聴かされて育ちました。ピアノも習わされましたが、中学まで真面目にやったのに結局幻想即興曲あたりしか弾けませんでした。しかし耳の方はうまく発達したようで、中学時代の私は暇さえあれば1800年台の音楽を聴き漁っていました。1800年台を1980年台のノリで言うなって? まったくその通りです。


 この私のクラシック好きは今考えてもわけのわからないニッチな趣味で、そんなことやるくらいなら18年くらいからボカロに参入しとけば全盛期の柊キライを見られたとも思っていますが、なぜそれをやらなかったかというと、クラシックが私の厨二心をくすぐったからです。皆さんご存知ないかもしれませんが、クラシック用語は格好良いもので満ちているのです。今から私がその一端をご紹介しますので、機会があれば決めゼリフとして小説で使ってみましょう。


◯分類編

 クラシック曲にはいろいろな分類があります。フーガとかエチュードとかいう片仮名は、あまり詳しくない人でも聞いたことがあるはずです。しかしながら、その片仮名が何を意味しているかはあまり知られていません。実は、昔の(といっても明治期あたりの近代の)日本の音楽家たちは、こういった外国語を日本語に訳しています。これがまた非常に格好良いものであり、すでにバトル漫画のよくわからない技名に使われていることもあります。


 例えば「フーガ」は「遁走曲」と訳されます。「遁走」は要するに「逃げる」の意で、次々に同じ主題メロディーが始まることを、前の主題が後の主題から逃げているというイメージで表しているわけです。もう少しわかりやすく言うと、音楽の授業でよくやる「かえるの歌」の「輪唱」に近いです。ひとつめのグループが「かえるのうたが〜」と歌った後に、もうひとつのグループが「かえるのうたが〜」と歌い始め、そのとき最初のグループは「きこえてくるよ〜」と次に進んでいますね。すると二つのメロディーが組み合わさって、深みのある音楽になったように感じられます。これがフーガ(遁走曲)の原理と効能です。フーガの名手としてはバッハやベートーヴェンがいますね。フーガは基本的に少ない主題の始まるタイミングを調整し続けねばならない難しいジャンルで、作者の技量が出やすいといわれます。良いフーガを聴いたら、同一の作者は他にも名曲を残していることが多いですね。


 また、「エチュード」は「練習曲」の意味です。これは文字通り、作者が主に後進を指導するために作った曲で、どちらかというと曲自身の美しさより技術的な効果を重視しています。ですからショパンの「革命エチュード」は「革命練習曲」なのです。なんだか急にショパンが危ない人物のように見えてきますが、当時のショパンは母国ポーランドで革命(未遂)が起こったことに感銘を受けてこれを作ったようなので、実際危ない人物です。これを知らずに聴くとショパンに洗脳されてしまうので気をつけましょう。私の友人の一人は本当にショパンに心酔してしまい、「生涯の夢はポーランドに行ってショパンの墓に詣でること」と言い始めてしまいました。ショパンはノクターン(夜想曲)やワルツ(舞踏曲)など格好良い名前の曲の宝庫ですが、大真面目にポロネーズ(ポーランドの曲)を軽く10個は作っている愛国者です。


 とはいえ当時の音楽と政治的事情は密接に関連しており、音楽家たちはスポンサーとして面倒を見てくれる政治的な偉い人とズブズブの関係にありました。よく曲の最初に「この曲を領主のナンタラ様に捧げる」とか書いてあります。この文章すら格調高く格好良いけど。ベートーヴェンはナポレオンを称賛する曲とナポレオンの敗北を祝う曲を作っているし(裏切るな!)チャイコフスキーもナポレオンの敗北を祝う曲を作っています。あとよくわからない小国の音楽家が国を讃える曲を作ると国家的名曲になってしまうこともあります。日本でも最近現帝陛下の即位を記念する曲ができていたように思います。


◯調

 私たちは現代音楽(ここでの「現代音楽」はおおよそJ-popを指します)においても「転調」という言葉をよく使いますが、あまり今流れている曲がどういう調であるのかを気にすることはありません。しかしクラシック民なら10秒聴けばそれがどんな調であるかがわかります。


 調は大きく分けると「長調」と「短調」に分かれます。まあ難しく考えず、長調を「なんか明るい」、短調を「なんか暗い」程度に感じてください。そしてそれぞれの調はさらに「中心となる音」によって分類されます。いわゆる「ラ」の音を英語でいうところの「A」、日本語でいうところの「イ」として(これは昔の日本人が訳したため、いわゆるいろは歌の順番となります)、一音上がるごとに順番が進んでいきます。さらにシャープがつくと「嬰」、フラットがつくと「変」がつきます。調の分類はシャープやフラットの数などである程度総合的に判断する必要がありますが、一般的にはメロディーの最後に来る音が調の名前となることが多いです。ボカロでいくつか例文を作ると「ハチの人気曲にはロ短調が多い」とか「ラビットホールのラスサビでは一度変ニ長調からニ長調に半音転調するが、また変ニ長調に戻る」とかいえます。


◯クラシック曲の構成とその現代音楽への応用


 さて、いよいよ本題です。クラシック用語で最も格調高く格好良いものは、その構成に関するものです。特に「ソナタ形式」とよばれる形式はほとんどのピアノソナタと交響曲で使われており、クラシック民にとって避けては通れない形式です。今回はこの形式の非常に語感が良い用語を紹介しつつ、現代音楽おもにボカロとの関連を論じます。


 ソナタ形式は大きく分けて「呈示部」「展開部」「再現部」に分けられます。「呈示部」の「呈示」は「示す、showする」の意で、ここで曲に使われるほとんどの主題が登場します。私はさっきから「主題」と「メロディー」をほとんど同義として使っていますが、そう考えていただいて構いません。現代音楽にも「Aメロ」や「Bメロ」といった用語がありますが、この「メロ」とはすなわち「主題」であり、「Aメロ」はクラシックでは「第一主題」と言い換えることができます。ソナタ形式では、呈示部には第一主題と第二主題があります。現代音楽には「サビ」といわれる主要な部分がありますが、ソナタ形式にはそれにあたる部分はなく、むしろ第一主題が主要な主題になることが多いです。現代音楽の一番(呈示部)をソナタ形式の構成っぽく言うと、Aメロを「第一副次主題」、Bメロを「第二副次主題」、サビを「主要主題」とすることができるでしょう。


 現代音楽でもAメロのメロディーが二回繰り返されることがありますが、ソナタ形式の主題でもこれがしばしば起き、これを「確保」とよびます。主題を聴衆が忘れないように繰り返して、聴衆の頭の中にしっかりつかまえておくイメージを持ってください。また、主題と主題の間に「推移」があることがあります。これは主題と主題をつなぐ効果をもつもので、あまり重要なものではないとされていますが、しばしばベートーヴェンなどは推移に非常に印象的なメロディーを持ってきて、どこに主題があるのかを曖昧にしてくることもあります。


 次の「展開部」では、多くの場合呈示部で登場した主題を変化させます。全体的なモチーフは維持しながら、細部を変えていくのです。もちろん新たな主題が呈示されることもあります。ここは現代音楽におけるCメロとさほど変わらないでしょう。「再現部」では呈示部をほとんどそのまま繰り返しますが、ここでも細部が変わることがあります。また、再現部のあとに「終結部」、いわゆるコーダが置かれることがあります。これは最後の盛り上がりの部分であり、うまく演奏されると自然と拍手喝采したくなるものです。さらに、呈示部の前に「序奏」とよばれる導入部があることもあります。これは現代音楽における前奏と考えてよいでしょう。


 体系的な説明ばかり聞いていても退屈でしょうから、実際にやってみましょう。たとえばベートーヴェンのピアノソナタ第8番の第一楽章の一部をこれまでに挙げた用語を使って解説すると、次のようになります。


「ここで序奏は終わり、そして非常に印象的な第一主題がハ短調で呈示される。目の覚めるような上行が聴衆の眠りを覚ます。第一主題は忠実に確保されたあと、推移に移る。ここでもやや金属質なト音が我々の頭に刻み込まれる……」


 どうでしょうか。音楽を聴いていなくても、なんとなく凄いことが起こっている感じが出るのではないでしょうか。ちなみにこのような文章は私が適当に書いたものではなく、楽譜を買うと本当に最初に「解説」としてよくついている文章を適当に記憶を頼りに再現しています。もちろん私の文章は本当に記憶頼みであり、雰囲気しか出せていませんが。


 私は少年時代をクラシック音楽に捧げたことに後悔はありません。いわゆるクラシック音楽は(他の民族音楽を否定するわけではありませんが)現代世界におけるすべての音楽の根底をなすものであり、私たちの感性を広げてくれるものです。別に私のようにベートーヴェンのピアノソナタを冒頭部だけで聴き分けられるようにならなくてよいので(お前はそんなことをやってる暇があったらボカロのイントロクイズにもっと真剣に取り組め)、あなたの生活の一部にクラシック音楽を取り込んでみましょう。そして「この第一主題良すぎるだろウワアアアアア!」とやりましょう。

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― 新着の感想 ―
音楽のことはほとんどわからないのですが、フーガの部分が印象的でした。普段ほとんど何も考えることなく、バッハの曲を聴いているのですが、フーガという言葉が入っている曲が多いので、いったい何のことなのだろう…
勉強になりました! おもしろかったです! 『幻想即興曲あたりしか弾けませんでした』 我々素人からすると上級者すぎますよ! よくあんなの弾けますね! すごい!
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