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王子殿下を応援し隊!?

作者: 文月みさご

よくある婚約破棄モノにしようと思ったら…ギャグ要素が多めのお話になりました!

広い心で読んで下さい。

その時、王国の宰相をつとめるクラウンユーズ侯爵の娘、王立学園の三年生に進級したばかりのアリシア・クラウンユーズ侯爵令嬢はハッキリ、シッカリ、ため息をつきながら壇上の高貴なお方を見ていた。


「アリシア・クラウンユーズ侯爵令嬢!俺は真実の愛を見つけた!ただいまをもってお前との婚約を破棄する!そして新たにお前の妹、サンディー・クラウンユーズと婚約をむす「無理です、殿下。おやめ下さい」


食い気味に即答だった。


王立学園の入学式からまだ一ヶ月。新入生の為の歓迎パーティーで高らかに宣言なさったのはこの国の第一王子エドワード殿下だ。アリシアのクラスメイトであり、六年前からの婚約者でもある。


この方は【外見ピカイチ、中身は残念、恋を語ればまた残念】と学園中で称される方だが、本人だけがそれを知らない。


どこぞの男爵令嬢や子爵令嬢、果てはお忍びで出掛けた城下町の花屋の看板娘にまで鼻の下を伸ばし、強引にデートに誘う残念王子である。本人は浮気を上手く隠しているつもりだが、バレバレだ。


サラサラの明るい金髪に晴れた日の空色の瞳、彼を産んですぐに亡くなった第二王妃プリシラ様に外見だけはそっくりで、プリシラ様にご寵愛が深かった国王陛下はことのほか可愛がっておられる。

ちなみにセシリアは夜空の星のごとき銀髪に紫水晶の瞳で《王都に咲く紫水晶(アメシスト)》と呼ばれている。


「俺の言葉を遮るな!」

「遮らなくても無理です、エドワード殿下。ですが、念のためにもう一度仰って頂けますか?なにやら極めて重大かつ面妖な言葉が聞こえたような気がいたしますので」

「ふん!何度でも言ってやる!親が勝手に決めた婚約者のお前と違って、入学式の時のサンディー嬢に一目惚れしたんだ。やはり男なら真実の愛に生きなくてはな!お前の妹、サンディー嬢と新たに婚約をむす「やはり無理です、殿下。おやめ下さい」


またもや食い気味に遮られた。

それでも、サンディーの肩を抱きよせたエドワード殿下は、どやぁ!?と言わんばかりに得意満面で鼻息も荒いが、関係者一同、頭が痛いし胃も痛い。


──まさかエドワード殿下は本当に()()()()のか?──


しかも何だかサンディーの顔が怖い。目を合わせたら石にされるやつだ。見てはいけない。

それに、まがりなりにも一国の王子と、高位貴族であるクラウンユーズ侯爵令嬢の婚約だ。お前はいらない、こっちが良い。はいそうですか。とはいかないのだ。


──宰相閣下のオデコの面積がまた広がるんじゃ…お気の毒に──


出席者達の会場全体に広がる心の声が聞こえたアリシアは、父親のオデコを思い出しながら皆を代表して続けた。


「まず、エドワード殿下。貴方と私の婚約は王家と侯爵家の間に結ばれたものです。個人の感情で簡単に左右されるものではありません。ましてや浮気なんかで《王都に咲く紫水晶(アメシスト)》と呼ばれるほど美しく、清く正しく美しい、何の落ち度もない婚約者に一方的に婚約破棄を突き付けるなど、許されるはずがありませんわ」

 

──ん?いま美しい、って二回言わなかった?──

──なんだかアリシア様の印象、今までと違わない?──


今度の心の声は聞こえなかった事にしたアリシアは続けた。


「ましてやサンディーを次の婚約者にするなど…不可能です」

「何故だ!?気の強いお前と違ってサンディー嬢は口うるさくないし、慎ましやかで可愛い!俺はお前と婚約した時からずっと、いつも上から目線でアレはダメ、コレもダメとばかり言われるのが嫌だったんだよ!」


なるほど。外見と身分しか取り柄のないエドワード殿下からすれば、学園の成績が常にトップクラスで教師陣からの評価も高く、王子妃教育も順調だったアリシアは目の上のたんこぶに違いない。


「上から目線と申されましても、実際に学園の成績は私のほうが遥か上。殿下は私が付きっきりで勉強を教えて、ギリギリ合格点だったではありませんか」

「…うぐっ…痛い所を…クソッ」


あまりにもギリギリだったため、周囲からは【スライディング王子】とも呼ばれていたが、これも知らぬは本人ばかりなり、である。


「…オネエサマ…」


──ん?何、今の低い声は?まさかサンディー?──


エドワード殿下が()()()に真実の愛を語っている間、当事者の一人であるにも関わらず沈黙を保っていたサンディーが口を開く。


「…お姉様、もう我慢なりません」

「駄目よサンディー、黙りなさい」

「いいえ、黙りません。言わせていただきます。もう我慢の限界です」

「サンディー!やめなさい!」


すうっ、と大きく息を吸い込んだサンディーは言った。


「こ~の~残念スライディング王子がぁ!ふざけんな!()の姉上のどこが気に入らないんだよ!?」

「……サ、サンディー嬢?…」

「あぁぁぁ~~」


──やっぱりね…王子殿下知らなかったんだ…──


怒るサンディー。目をまん丸にしてポカンと口を開けたまま固まる王子。頭を抱え込んだアリシア。深くため息をつく出席者一同。

予想通りの展開にエドワード殿下以外は遠い目をしている。


「いいか?姉上はな、産まれた瞬間からそれはそれは愛らしくて美しくて輝いていたそうだ!星の光を宿した銀髪に紫水晶の瞳。もはや存在が神秘!女神なんだ!」

「…サンディー、私が産まれた瞬間なんてあなた知らないでしょう?」

「父上と母上に聞きました!」


姉に向かって拳を握りしめ叫ぶサンディー。


「駄目ダメな婚約者をほっとけないからと、姉上はいつも気にかけていたではありませんか。すぐに投げ出す王子に根気よく勉強を教えたり、美味しいお茶や手作りのお菓子を差し入れしたり!それなのにこの残念スライディング王子は~っ!」

「サンディー…」


ここでようやく予想外の事態に石化していたエドワード殿下が復活した。


「…ちょっ、ちょっと待てお前達。いま…」

「は?お前?いま姉上に向かってお前って言ったのか?この残念スライディング王子が!女神と呼べ!」

「はい!待って下さい女神!」

「何だ!?」


サンディーの迫力にエドワード殿下は思わず言われた通りにアリシアに呼び掛けた。が、何故かサンディーが返事をしている。

アリシアの口元がひきつっているような気がするが、きっと気のせいだ。


「今、"僕"って言わなかっ…言いませんでしたか?それに何だか言葉遣いが…」

「ああ言った。僕は男だからな」

「!?!?!?男っ!?ドレス着てるのに!?そんなに可愛いのに!?」

「それがどうした?」


──やっぱり知らなかったんだ~~~──


サンディーの本名はアレクサンダー・クラウンユーズという。れっきとしたクラウンユーズ侯爵家の()()である。

両親であるクラウンユーズ侯爵夫妻や侯爵家の使用人達はアレク、と呼んでいるが、学園の関係者はサンディーのドレス姿があまりにも違和感が無いため女性名のサンディー、と呼んでいる。


そしてお察しの通り、アレクサンダー・クラウンユーズ侯爵令息は"極めて重度のシスコン"であった。両親もお手上げ。


《王都に咲く紫水晶(アメシスト)》と名高いアリシアの弟なだけあって容姿も良く、アリシアと同じ銀髪に瞳は瑠璃色。入学してまだ一ヶ月であるのに既に学園内にファンクラブまであり(教師までメンバー!)、《王立学園の瑠璃(ラピスラズリ)》と呼ばれている。


「エドワード殿下、サンディー…アレクサンダーも赤子の頃からそれはそれは愛らしくて、十歳の時には傾国の美姫になると言われておりましたの。男なんですけど。十二歳の時には"可愛い男の子が好き"というソノ道のヘンタイに誘拐されそうになり、さすがに両親も困り果てて……」

「ならばいっそ女の子の格好をさせたらどうか?となった。"可愛い男の子"で狙われるなら、女装すれば違和感なく普通に"可愛い女の子"で通るのではないかと思案した結果がコレなんだよ」


アリシアの言葉を引き継ぎ、コレ、のところでサンディーはドレスのスカート部分を両手でつまんで見せた。

そんなしぐさも可愛い、とウッカリ思ってしまったエドワード殿下。


「…いいや駄目だ、駄目だ、俺は女の子が好きなんだ。いくら可愛いくても傾国の美貌でも男より女の子のほうが良い…そうだ!婚約破棄を破棄しよう!もう一度婚約しようアリシア!そうしよう!」

「そうしよう、じゃねぇよ!このゲス野郎!」

「げふぅっ!」


エドワード殿下の膝裏と背中にサンディーの怒りが炸裂した。ヒールで膝カックンを喰らわせ、倒れた殿下の背中をゲシッと音がしそうな勢いで踏みつけた!


──良いのかサンディー!?相手は王子殿下だよ!?──


出席者一同の心の声を無視してサンディーは続けた。


「姉上を何だと思ってるんだよ?世界一可憐で素敵で美しい姉上を!」

「…サ、サンディー?そのくらいでお止めなさい。相手は仮にも曲がりなりにも一応何とか王族の端くれなのよ?下手をしたら不敬罪に問われるわ」


自分も問われそうな事を平気で口にするアリシア、さすがサンディーの姉。


「いいや、姉上。この残念スライディング王子には自分が間違っていると分からせてやらなくては。臣下の義務です!」


臣下らしからぬ態度のサンディー。やはりアリシアの弟。

似た者姉弟(きょうだい)であった。


「姉上は!」「んぎゃ!」

「清く!」「ふごっ!」

「正しく!」「ふきゃん!」

「美しい!」「あふん!」


──あ…あふん?……──


サンディーは一言ごとにエドワード殿下の背中を踏みつけていたが、その度に上がった悲鳴の最後に変化があった。物凄く嫌な予感がしたアリシアとサンディーは後ずさった。

うつ伏せに倒れて踏まれていたエドワード殿下がガバッと顔を上げると、その空色の瞳には恋とは別の熱が宿っている。

直後、野生動物並みの反射神経できびすを返し、出席者達を置き去りに出口に向かって走る二人。


「ま、待ってくれ!サンディー!もう一度踏ん…「待て、と言われて待つバカはいねぇよ!」

「しっ!ダメよサンディー!目を合わせちゃいけません!」

「はい!姉上!」

「「それでは皆様ごきげんよう~~!!」」


その時、走り去る二人の背中を黙って見送る人影が…祝辞を述べる為にやって来た国王陛下と宰相であるクラウンユーズ侯爵だ。


「…宰相よ…息子がすまん。亡きプリシラにそっくりで、つい甘やかしてしまって…婚約破棄の慰謝料はきちんと支払う…」

「…いえ陛下。こちらこそ子供達が申し訳ありません。慰謝料は…王子殿下を足蹴(あしげ)にした事と相殺していただければ…」

「…宰相よ…エドワードは新たな扉を開いたんだろうか……」

「……陛下…息子が申し訳ありません…」


それから学園では、逃げるサンディーを追いかけ回し、何とか踏みつけてもらおうと頑張るエドワード殿下が名物になった。


「待ってくれサンディー!あの時の痛みが忘れられないんだ!俺を!俺をもっと踏みつけてくれぇ~~っ!」

「うるさい!こっち来るな!近寄るなヘンタイ野郎!!」

「あらあら、サンディーったら楽しそうね~」

「姉上!?助けて下さいよ!」

「うふふふふ」

「助けて下さ~い!」

「サンディー!踏んでくれぇ~!」


《エドワード殿下を応援し隊》が結成されたとかされてないとか……行く末は神のみぞ知る。



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